一章 24
会社の近くの居酒屋で模様された歓迎会。
その結果は渡辺の予想通りだった。
渡辺に最初だけ挨拶をすると、次には所長を持ち上げ、媚を売る。所長も所長でとてもいい気分で飲んでいた。
渡辺も立場上、酒を注ぎに行かなければならなかったのだが、どうもあの輪には入りづらい。
それを見かねてか、事務員と比較的若い同僚の輪に呼んでもらえた。
「いいの。いいの。大体飲み会はこんな感じだから。若い者は若い者同士で仲良くやりましょ」
年配の事務員さんが気を使ってくれる。
渡辺もお言葉に甘える。
しかしそこではこれでもかと言うほどの質問攻めにあってしまった。
内容がどんどん深くなり、恋愛の話もちらほら出てきたところで渡辺は席を立った。
「ちょっと夜風に当たってきます」
渡辺は逃げるようにして部屋へ出る。そして大きなため息をついた。
「疲れたか?」
そう言いながら一人の男性も部屋から出てきた。
「え~っと…」
「伊藤だ。役職はお前と同じだけどな」
「すみません…」
「いいって。気にするな。まだ数日なんだから。営業なんかで中々顔を合わせられなくて今日初めての奴も多いだろ?でも高橋所長と森山係長。あとは坂井係長くらい覚えておけ。俗に言う3バカだ。おっと…これはこれだぞ」
そう言って伊藤は人差し指を立て、口元に持っていった。渡辺もコクリと頷く。
「後はそのうち勝手に覚えるだろうよ。しっかしお前も大変な所に来たよな…。この事業所、本社でも噂になってるだろ?まぁ噂通りの所だ。だからお前もそんな気負いせずに気楽にやれや。まぁ佐藤と組まされちゃ何も出来ないだろうがな…」
そう言うと伊藤は、部屋へと戻って行った。渡辺は更に深いため息をつく。戻ったら恐らくまた質問攻めにあうだろう。
「行くか!」
気合を入れ直し、またあの輪の中に入って行った。
その後、所長は数人引き連れキャバクラへ、渡辺も一応森山から社交辞令で誘われてが、皆にまさか来ないよね?と言わんばかりに睨まれたので丁重にお断りした。
他の事務員達のグループからもカラオケに誘われたが、人数が多っかたのと、これ以上の気疲れはゴメンだと思い断った。
「今日はありがとう御座いました。申し訳ありませんがこれで失礼させて頂きます。また来週からよろしくお願い致します」
そう言って皆を見送り、居酒屋の前で一人ただづむ渡辺。
この時点では全くと言っていいほど酔ってはいなかった。
「もう一軒行くか…」
とぼとぼと歩き出す。
今は一人で飲みたい気分だった。
東京にいる時は行きつけのBARがあった為、飲む所には困らなかったが、ここは知らない土地。
歩くしかない。
周りにはスナックやらキャバクラが無数に存在し、お兄さんが一生懸命呼び込みをしている。それを全て断り、ふらふらと歩いた。
やがて歓楽街から離れた路地に出る。ここには執拗な呼び込みなどは無く、物静かな雰囲気が今の渡辺にはちょうど良かった。
夜の冷え込みが一層厳しくなり、さすがにどこかの店に入らなければ風邪をひく、そう思い辺りを見渡した。
さすがに一歩外れた場所であるためか、店は少なく、BARやスナックは指で数えるほどしかない。
今はスナックという気分ではないので、一人で飲める所ならどこでもいい。
そう思いながら辺りを見渡すと、ちょうど向かいに一件の店が見えた。見た目からしてスナックではない。
近づいて行くと大きなGUINNESSの看板が目に入る。
そして褐色の引き戸の上には、『シロツメクサ』と書かれた看板。
おそらくこれがこの店の名前だろう。
下に小さくIRISH PUBとも書かれている。
「アイリッシュパブ シロツメクサ?」
渡辺は小さく呟くと同時に、ドアに付いた小さな窓から店内を覗く。
奥行きがある。客はこの時間だからかまばらだった。
渡辺は暖かそうな光に導かれるように無意識に扉を開ける。と同時に乾いたベルの音が店内に響く。
「いらっしゃいませ!」
そして活気のある声が店内に響き渡った…。
第一章 終わりとなります。
誹謗中傷でもいいのでリアクション頂けますと幸いです。
初投稿なので、イマイチ使用がわかっておりません。
ちょくちょく改編致しますのでご容赦を。
このサイトは右も左も分からない初心者ですが、どうぞ宜しくお願い致します。




