一章 23
「あぁ…噂通りの所だよ…」
昼休み渡辺はビルの屋上で電話をしていた。相手は小野。
「お前の情報通り、こっちの所長は腹黒い狸。周りの部下達も媚を売る狐ってとこか…。なんか活気がないっていうか…。あれじゃ本社からDランクの評価もらっても文句は言えないよ。おまけに俺の教育役は万年平の無愛想な男。年下の役職持ちの俺が鼻についてか、さらに怖い目付きで睨んでくるし…。とんだ報復人事だよ…全く…」
渡辺は苦笑いするしかなかった。
「珍しいな。お前が一方的に愚痴るなんて」
「まぁ予想はしてたけどここまでとは思わなかったよ…」
「まぁふてくされんなって。2、3年もすればこっちに帰って来れるんだろ?」
「課長はそう言ってたけどな…」
「我慢だよ。我慢。結衣ちゃんにも連絡しておけよ」
「わかってるよ。…っとそろそろ営業ミーティングだ。昼休みに悪かったな。また連絡するわ」
電話を切り渡辺はオフィスへと向かう。その途中で、森山に呼び止められた。
「渡辺主任。ちょっと良いか?」
どうも主任と呼ばれることに慣れない渡辺。
「主任の歓迎会なんだが、今週の金曜日にやるからな。特に予定無いだろ?」
こっちに友達もいるわけではなく、予定も特にないので了承する。
「じゃあ今週の金曜日。予定空けといてくれよ」
それだけ言うと、そそくさと去って行った。
「歓迎会ね…」
渡辺の顔に笑顔はなかった。
自暴自棄という言葉が当てはまるかどうかはわからないが、いまいちやる気が起こらない。
午後のミーティングも締まりがないミーティングだった。
完全に不貞腐れていたのは紛れもない事実であった。




