一章 21
トンネルを抜けるとそこは雪国だった。と川端康成の小説の一説がよく似合う。
東京駅から上越新幹線に乗り、群馬県の高崎駅を過ぎるとほとんどトンネルだった。
そのトンネルを抜けると越後湯沢。
3月の中旬だっていうのにスキーやスノボーを担いだ乗客が我先にと降りて行く。
外を見ると雪が積もっていた。
渡辺にとって雪というものは、1年に数回。数センチ積もり、電車やバスを大混乱に陥れる厄介なものというイメージしかない。
それがどうだ。
数十センチも積もってるではないか。この意味不明な光景にただただ唖然とする。
前回亜矢の実家を尋ねたのは夏だった。
さらにはスキーやスノボーに興味のない渡辺にとっては初めての光景だった。
やがて長岡駅に到着する。
そうこの新潟県長岡市こそ、渡辺の転勤先であった。
駅から車で10分もかからない場所にTLJの最低評価の長岡事業所があった。
渡辺の住む社宅はさらにそこから歩いて10分ほど。
社宅と言ってもアパートを会社で借り上げたものである。
「家賃5万でこの広さかよ…」
都会ではゆうに10万は超えるだろうという広さにさすがに軽いカルチャーショックを受けながら荷ほどきを始める。
明日から新しい職場。
しかも評価はあまり良くはない。
あの時のようにやってやる!という気力は湧いては来なかった。
課長からは2、3年で戻してやると言われたがもちろん確約などない。
もしかしたら一生この土地で過ごすのかもしれないのである。
そう考えるとやりきれない気持ちになった。
亜矢が住むこの土地で…。
結衣とは結局付き合わないことにした。
自分の悩みや葛藤、全て素直にぶつけた。
そして最後に言ったのだ。
「俺は今決めることはできない。卑怯で最低な男だということはわかってる。でも結衣だからこそ生半端な覚悟で付き合いたくないんだ…。ごめん…」
結衣は最後まで真剣に聞いていた。
そしてにっこりと微笑み言った。
「先輩のそういう所を好きになったんです。優しくて、自分の事なんて二の次で常にみんなの事を考えてる。だからいいですよ!先輩が納得のできる答えを見つけるまで待っててあげます。
たとえそれが私にとって悲しい答えになったとしても、先輩が最後まで悩んで出した答えですもん。
受け入れます。もちろん嬉しい答えになることを期待してますけどね。
新潟に行っても頑張ってくださいね。
たまに連絡下さいね。
あっ…あと…。
その…結衣って呼んでくれてありがとうございます…」
最後は照れていた。




