一章 2
「うわぁ〜渡辺の奴大丈夫かな…。顔面蒼白だったぜ?」
同期の小野がコーヒーを片手につぶやく。
「どうかしら。児玉課長も普段は優しいんだけど、怒る時は物凄いってもっぱらの噂だし…」
最初の電話を取ったメガネの似合う事務員近藤が相槌を打つ。
「しかしアイツあんなへまする奴じゃないんだけどな…。なんかあったのかな」
「さぁ…彼女にでもフられたんじゃない?」
「あいつに彼女がいないの知ってるくせに」
「それもそうね…」
など2人で他愛ない会話をしていると、突然小野が提案してくる。
「なぁ今日飲みに行かね?アイツどうせ凹んでくると思うし、励ましてやろうぜ。それに3人で飲む
のも久し振りだし、たまにはいいっしょ?よし決定!」
「全くあなたって本当に人の意見聞かないわよね?」
近藤がうんざりな顔で言うと、小野はこう言い返した。
「だって近藤さん、どうせ彼氏いないから暇でしょ?」
次の瞬間、小野が近藤のメガネの奥に怒りを感じたのは言うまでも無い。
「あなたって本当に…。まぁいいわ。付き合ってあげる」
そう言った後、思い出したように一言付け加えた。
「そうそう。総務課の結衣ちゃん誘っても良いかしら?」
小野は驚いた顔をした。
「えっ!総務課の結衣ちゃんってあの結衣ちゃん?マジで大歓迎だよ!よっしゃ!いい店予約しなきゃ! …って何で近藤さんが結衣ちゃんの事…?」
「あら、こう見えても社内じゃ顔が広いのよ。それに結衣ちゃんは私の大学の後輩なの。この会社に入社してからも色々と相談とか受けててね」
「本当に?社内で1位2位を争うほどの可愛い結衣ちゃんと…。近藤さんがね…」
「何よ。顔は関係ないでしょ。顔は」
「まぁとりあえず宜しくお願い致しますよ。絶対に結衣ちゃんを誘って下さい!そうした方が渡辺も癒されると思いますし」
「私じゃ役不足って事?」
「当たり前…って冗談だよ。冗談!」
小野は物凄い殺気を感じた為、即座に言いなおした。
「それじゃ結衣ちゃんには今日は男性陣の奢りって伝えときますので、宜しくお願い致します。ねっ…幹事様」
近藤の口は笑っていたが、目は笑ってはいなかった。
「はい。了解しました」
小野もこう答えるしかなかった。