一章 19
BARに着くと小野はカウンターで一人、タバコをふかし、ウィスキーを片手にマスターと喋っていた。
「よう…。待たせたな…」
「おせーよバカ。もう3杯だぜ…」
マスターにスコッチを注文し、隣に座る。一時の沈黙が訪れた。
「アヤちゃんの事だろ?」
不意に小野が呟いた。渡辺は一瞬驚いた顔をしたが、やっぱりかと言わんばかりの顔にすぐ様戻りうつむく。
「お前がこんな風になったのは4年前のあの日くらいだからな…」
小野が黙って続けた。
「やっぱお前すげぇわ…。普段のほほんとしてるくせに、ちゃんと見てんだな…」
渡辺が感心するように言うと、
「ばーか…」
の一言だっけだった。
もっとふざけてくると思っていた渡辺にとって意外な答えだった為、少し拍子抜けしたが小野がそれだけ真剣なんだと実感できた。
「あぁ。アヤの事だよ。もちろんそれだけじゃないけどさ。最近っていうかここ数日の間に色々あり過ぎて、正直いっぱいいっぱいなんだ…」
渡辺は、SNSで亜矢を見つけた事まで淡々と話した。その間、小野も淡々と聞いていた。途中から渡辺は自分でも何を言っているかわからなくなったが、小野は真剣に聞いてくれた。
一息入れ、気付けとしてウィスキーを口にする渡辺。
「お前。結衣ちゃんと付き合え。そうした方が絶対上手くいく」
小野が一言言った。すると渡辺もうつむき、
「あぁ…。そうだよな…。そうなんだけど…」
語尾を濁し、はっきりしない。
「何だよ。まだ何かあんのか?」
小野が追及すると、渡辺は重そうに口を開く。
「俺…。転勤なんだってさ…」
目を丸くする小野。




