一章 18
電車に揺られ、アパートに着く頃には渡辺はひどく後悔していた。
小野に対しての八つ当たり、悪いのは全部自分なのに…。
確かに気は立っていた。でも冷静になればなんてこともない。
ましてや仕事場だ。八つ当たりなどもってのほかだ。なのに…。なのに…。
そんな時だった。携帯の着信音が部屋に鳴り響く。確認すると小野からのメールだった。
「反省して後悔してるのなら我に電話すべし!」
思わず吹き出しそうになった。
「全くこいつは…」
渡辺はすぐ様電話をかけた。ごめんと一言謝るために。
しかし小野はそれをさせてくれなかった。
「おう!電話してきたってことは反省してるみたいだな。よろしい。なら今すぐいつものBARに来いや。お前の奢りでこの小野隆明様が愚痴を聞いてやる。いいか?必ず来いよ?待ってるからな…」
一人で喋って、勝手に電話を切る。
まぁ小野らしいな…。そんな事を思いながら仕度を始めた。
幸い定時で帰ってきて時間ならまだあった。
いや無くても行ったか。とにかくこの小野という人物には凄く助けられている。
この会社の入社式、最初に声をかけてきたのがコイツだった。
人見知りせず、ズカズカと人の懐に入り込んできて、まるで幼馴染のように接してくる。
こちらも何故か心を許してしまう。
同じ部署に配属され、しょっちゅう飲みに行き、時にはバカ騒ぎし、時には淡々と語り合う。
いつの間にか良き同僚となっていたのである。




