一章 17
渡辺が戻ってきたのはそんな会話をしてから暫く経ってからだった。
黙ったまま席に着き、何事もなかったように仕事を始める。
まるで機械のように…。
問いかけや依頼の用件も機械的に受け応えをしている。
小野や近藤だけでなく、周りの同僚もさすがに気付き始めた。
徐々に話しかけにくい雰囲気を出す渡辺。
結局仕事が終わるまでその調子であった。
小野も流石にこのままではヤバイと悟った。
前回のミスも只事ではなかったが、今回はそれ以上だと嫌でもわかってしまう。
定時になると早々と帰り支度を始める。
それを見た小野も慌てて帰り支度を始めた。
近藤も帰り支度を始めようとすると、小野が制止した。
小野は黙って頷く。
それを見た近藤も黙って頷いた。
「おい。今日飲みに行くぞ…」
小野は渡辺に向かって一言呟いた。
「今日はいいや…」
渡辺は煩わしそうにし、帰ろうとする。
「でもよ…」
小野が引き止めようとすると、
「いいって言ってんだろ!」
怒鳴り声がオフィス全体に響く。その後の静寂に紛れて渡辺はそそくさと出て行った。
「フラちゃった!ハイっ、渡辺君は今非常に機嫌が悪いようです。皆様、暫くは近づかないようにお願い致します」
などと小野が場を和ますが、明らかに場の空気は重かった。
「大丈夫なの?」
近藤が心配そうに聞いてくる。
「まぁこの前よりはかなりヤバイ感じっすね。ただ俺、こういう雰囲気のハルキは初めてじゃないからさ。まぁ任せとけって。アイツが優しいの知ってんだろ?」
そう言うと小野も出て行った。




