一章 11
しばらくして意を決したように結衣が口を開いた。
「あの…。先輩…。ごめんない!」
渡辺も突然の謝罪に頭が困惑する。
「いえ…。小野先輩に恋愛の話はNGだって聞いてたのに…。私ったらつい…」
あぁそういう事かと渡辺はどこかホッとした。
「いいって。緑川さんが遠慮することないよ。そりゃ見ず知らずの他人が根掘り葉掘り聞いてくれば腹は立つけど…。緑川さんだったら別にいいよ。俺の方こそごめん…」
結衣は少し安心した顔になったが、すぐに神妙な面持ちになった。
「あの…」
明らかに気まずそうな結衣。渡辺も大体予想はできた。
「タカから聞いたんだろ?元カノの話…」
渡辺から切り出す。結衣はコクリと頷いただけで何も話さない。
渡辺は少し躊躇したが、何かを決心した顔付き話始めた。
「元カノの話をする男って最低だろ?でも俺は聞いて欲しいと思う。緑川さんにはちょっと辛い話になるかもしれない…。それでもいいか?」
結衣は頷くしかなかった。不安もあったが自分が聞きたかった事が今まさに聞くことができる。その気持ちで一杯だった。
「名前は山田亜矢。俺が初めて本気で好きになった人なんだ」
結衣の顔が暗くなる。
「俺が大学3期生の時、出会ったのが彼女だった。同じサークルで、新入生歓迎会で初めて会った時、笑顔がとても可愛くてさ…。
優しくて…無邪気で…。完璧に俺の一目惚れだった。
実は俺、一目惚れとかしたことないんだよ。可愛い子はそれまで沢山いたけど、ただ可愛いだけで特別恋愛対象とかにはならなかったんだ。
それまで付き合った人も成り行きで付き合うことになるのが多かった。
でもアヤは違った。初めて出会った時に感じたっていうか…。あぁこれが一目惚れってやつなんだ。これが恋に落ちるってやつなんだって思ったんだ。
同じサークル内だったし、仲良くなるのは簡単だったから、付き合うにはそう時間はかからなかった。
まぁ俺の猛烈なアタックをしたのもあるんだけどさ。あの時の俺はどうかしてたな。笑えてくるよ。
…それほど好きだったんだろうな。
付き合ってからも順調だった。周りからしてもお似合いのカップルで、まぁ自他共に認めるカップルって奴だ。
俺も幸せだった。彼女の支えがあったから、色々上手くいったし、卒論だって何なくこなせた。俺が今の会社に就職が決まったのもそうだ。
彼女は自分の事の様に喜んでくれて…。遠距離になっちゃうねって言ってたけど、遠距離でもやっていく自信はあった。就職が決まった時、本気で結婚も考えたからね。でも…」
それまで楽しそうに話していた渡辺の顔が一気に暗くなる。
結衣は彼女の事を楽しそうに話す渡辺を見ていて、辛くはあったが、楽しそうな顔を見れて嬉しいという気持ちもあった。




