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シロツメクサ  作者: 大神 葵
第一章  渡辺 晴樹
10/45

一章 10

東銀座駅から歩いて5分。

洒落たレンガ造りの店。

2人はワインを片手にイタリアン料理を満喫していた。


「お洒落な店だね?こういう所よく来るの?」


「いえ…。実は初めてです。調べたら意外とリーズナブルでお洒落なお店だったので、いつかは来てみたいなと思ってて…。あの…迷惑でした?」


結衣が申し訳なさそうに見つめてくる。


「そんなことないよ。俺もこういう店久しぶりだからさ。それに料理もおいしいし」


「すみません…。景子先輩が返事が来たら、すぐに誘いなさいって言われて…」


どおりで積極的なはずだ…。


「いいよ。俺も緑川さんと食事できて嬉しいし。でも会社の男連中に殺されないか心配だけどね」


そんなことないですよと、はにかんで微かに頬を赤らめる。


「私自身そんなモテないですし、彼氏だってこの会社に入ってからは全然…」


「へぇ~意外だね。そんなに可愛いのに…。結構色んな噂聞くけど…」


渡辺は終わり際で口を紡んだ。そして慌てて訂正する。


「いや…違うんだ。えっと…その…」


「大丈夫ですよ。可愛い子は妬まれるって言いますし」


結衣は冗談ですよと笑いながら続ける。


「そういう渡辺先輩も色んな噂聞きますけど?」


結衣はお返しと言わんばかりに怪しむような目つきで言ってくる。


「嘘だ~。たとえば?」


「え~っと…。経理課の早苗ちゃんとか、同じ総務課の星野さんとか。後は営業の島田さんに事務の絵梨ちゃん。あとは…」


「ちょっと待った!」


堪らず結衣の話を遮った。


「そんなに?」


「あくまで噂ですけどね」


「…ったく。どんだけ…」


「大丈夫ですよ。先輩がそんな人じゃないって私知ってますから…」


「えっ?」


「あっ…。いや…。その…」


結衣もまた言い終わりに気付いた様に顔を赤らめ、照れ隠しにワインを口に入れた。


「そんなにいい男じゃないよ…」


不意に出た言葉に渡辺は後悔する。


だがもう遅かった。


黙り込む結衣。


雰囲気のある音楽、周りの客の雑談。ウェイターの声。


あらゆる音がその空間にはあったが、2人の席だけ静寂が支配した。


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