名前は?
「はいはい、到着ですよ〜」
野暮ったい男が、とある部屋のドアを開けてそう言った。
初夏だというのに黒の長袖襟無しシャツに、オリーブ色のカーゴパンツ、タンカラーのハイカットブーツに、帆布製カバンを肩からたすき掛けに下げている。
その格好に似つかわしくない剣が、左腰にあることでかろうじて傭兵っぽいと言えなくもない。
「遅い! もう13時よ! あの後通信具かけても魔力落としてるし、いったい何考えてんの!」
と、30代後半だろうか、紺色の服を着た細身の女性が怒鳴る。
「だって、俺のパンツ洗濯されてて、物干し台に干されてたんだもん。んで乾くの待ってたら昼になったし、茶屋でスープパスタ食ってから来た。もちろんコッテリ!」
と、肩をすくめて答えた男。
「相変わらず最低の男ね! このヤリチ○がっ! コッテリとかどうでもいいから!」
と、スーツの女性が、長い髪の毛をかきあげて言った。
最低と言われた男だが、あの通話の後、二回戦を開始していた事は、絶対言えないだろう。
「コッテリ以外は認めない! で? 用はなんだ?」
「仕事よ! 決まってるでしょ! ここ最近、王国内での失踪事件が多発してるのよ。で、昨日また一人の女性がイーリン領で失踪して、捜索願いが提出されたわ」
書類を読みながらそう言った女に向かって、
「男とどこかで寝てんじゃねーのか?」
と、男がチャチャを入れる。
「アンタと一緒にするな。自分の鞄落として男のとこ行くかしら?」
女が1枚の書類を男に渡す。
「イーリン領南町役所の事務員か。中には仕事の書類も入ったまま」
右の眉を上げて男が言った。
「そういう事! 現在イーリン領の南町警備隊が聞き込みしてるけど、うちに事件が回ってくるわ。南部はアンタの管轄なんだから、しっかり働きなさい!」
「これでもけっこう働いてるんだぜ? 特に南部は多いんだよなぁ。1人って無理あんだろ!」
男が女に文句を言うと、
「あ、そうそう、その件で報告がもう一つ」
と、女が答える。
「それ、さっきからそこに座って、俺を汚物でも見るかのような目で見てる、お嬢ちゃんと関係あるか? エミリの姉御」
女性はエミリというようだ。
「お嬢ちゃんではありません! これでも19歳です!」
と、傍の席に座っていた女性が、男に向かって言葉を発する。
「どう見ても、成人してるようには見えん」
男がそう言うと、
「今日付けで王国騎士団に異動になりました、カレンです」
と、お嬢ちゃん呼ばわりされた女性が、席から立って名乗った。
男は、カレンの方に顔を向け、
「ディスアダン王国騎士団魔物特化隊、南部方面総合担当騎士、ゾットだ」
と、軽い自己紹介をした。
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