デネブの告白
『これはヤドリギ。君みたいな、植物だね。』
あなたのことばで、私の心は宙に浮いた。
どうしたらいいかわからなかった。今までの私のすべてが宙ぶらりんになって、クラクラする。
そして私はあることに気がつき、決心したんだ。
だからあした、私は......
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ある日の昼下がり。私は地面に星を描いていた。ベガ、アルタイル、シリウス。星々を描いて、星座を作る。北斗七星もきちんと添えた。
なんでこんなことをしているのか。きっと誰もが疑問に思うだろう。
私はね、そう。星を願っているんだ。
『星に』ではない。『星を』だよ。
私はずっと、予知夢を視続けている。
人々が泣き叫び、穏やかな日常が破壊される瞬間。生命の息吹が感じられなくなり、何もかもが広大な宇宙に投げ出されるその時を。物心ついた時から今に至るまで、私はこの夢に浸っている。
だからね、わかるのだよ。
いつか、近い将来。この星は滅ぶ。人類は生き絶え、すべての生命は宇宙の藻屑となって中を漂う。
そう、私は知っているのだ。
だからいま、私は星を願っている。新たな星をね。
願わくば、心の澄み切った人類のみが暮らせる、ユートピアというものを。
ああ、綺麗な星だろう、この地球は。
信じられないだろう。いつか、この星を永遠に失う日が来るだなんて。
信じたくないはずだ。私は最初はそうだった。......そう、この未来を防ぐため、尽力した日もあったのさ。
私だってこの美しい星に生まれ、この星の一員として育ってきた。それなりに情だってある。一時は愛情すら覚えた。
だがしかし、私の夢は潰えた。過去に私が夢みた将来は、あっけなく否定された。
ふふふ、私だって夢ぐらい見るさ。予知夢じゃない、架空の夢をね。
ここからが重要なんだ。聞いてくれ。
だから私は決めたんだ。
このことを、地球が滅亡することを。絶対に、ぜったいに話さないって。
誰が何を口にしても。どんなに近しい人が懇願しようとも。私は二度と、このことについて口を開かない。
そう、決めたんだ。
だってそうだろう。私のいうことなんて、どうせみんな信じない。戯言だって笑い飛ばされるか、狂人だと恐れられるか、ただのホラ吹きだと決めつけられるだけだろう。
だから私は沈黙する。
この星が滅ぶその日まで、私はいつも通りの日常を過ごす。この星の暗い未来だなんて、誰にも気取られないくらい穏やかな日々を過ごす。何を知らないふりで、自分を装ってね。
そしていつか、日常が壊れる時。私は密かに微笑むのさ。
ほらみろ、私は正しかった。ってね。
......そう。そう決めていた、はずだった。
「あのさ、なにかいてるの。」
私の心に、あなたはいともたやすく入り込んできた。
あなたが私にくれた言葉は私の心になった。あなたが私にしてくれたことは私の血肉を温めた。あなたが向けてくれた感情は私の感情を揺さぶった。
そして何より、私はあなたを知ってしまったのだ。
あなたという存在がこの地球に生きていることを知ってしまった。愛してしまった。
あなたが生まれ育ち、これからも時を過ごすこの地球を、見捨てられなくなった。
あなたには、生きてほしいから。
だから私は、あした告白する。
勇気を振り絞って、あなたに想いを伝える。
だからどうか、拒否しないでほしい。拒絶しないでほしい。......戯言だって、聞き流さないでほしい。
どうか、私のことばを受け止めてください。
デネブはベガ、アルタイルとともに夏の大三角形を作ります。ベガとアルタイルは、織姫と彦星の別名です。
また、デネブははくちょう座です。白鳥といえば、とある有名な童話がありますよね。
ヤドリギの花言葉は、「困難に打ち勝つ」 「克服」 「忍耐」 「キスしてください」らしいです。
ヤドリギの下でカップルがキスをする、というのは比較的有名な風習なのではないでしょうか。
こうやって書くと、夏のお話なのか冬のお話なのかわからなくなりますね笑笑