1-9 お婆ちゃんの昔話
「さて、何から話したもんかのう」
何かこう、しぶーい御茶とか啜りながら仏間から持ってきた座布団の上に正座している、『御婆ちゃんっぽい何か』が俺の部屋にいた。
母親以外の女性を部屋に通すのは初めてといってもいいのだが、これじゃない感で心はいっぱいだ。
見かけは子供体形の若い女性という感じなのだが、なんというか中身の重厚さが雰囲気としてにじみ出てしまっている。
一体、この世に存在し出してから、どれほどの時が経っているものか。
その隣では、一心にお煎餅をバリバリ食べている幼女(魔導書)がいた。引きこもり魔導書のくせに、お菓子を食べる時だけは自分から外に出てくるのね……。
「そうですね。まず、あんたがた、一体どこからいらっしゃったので? そして俺の高祖父とのご関係は」
「そうさの、そこはこことは異なる異世界、お前の高祖父は魔法世界オウルと呼んでおった。向こうの人間は、あの世界では『フクロウ』を意味する言葉で世界を表しておったからの」
梟か、幸福をもたらす吉兆のようなもの、数々の創作などに登場し魔女・魔法に関わっているような印象がある。
少しおどろおどろしい外見と夜行性の肉食猛禽類という特徴から神秘を司るイメージなんかがあるのかね。それにしても異世界、しかも魔法世界か。
「そういや、あの連中は互いの事をなんとかマスターという呼び方をしていましたが。あれは、どういう意味なんですか?」
「ああ、それはのう。マスターというのは師匠・導師などを指したりもするが、魔導書の場合は『原書』を意味するものじゃ。
それとは異なる魔導による『複製』や書き写された『写本』の魔導書も存在するのでな。
ちなみに一般には、魔導の力でコピーするため、より原書の力を受け継ぐ複製の方が写本よりも能力が高いのが普通じゃが、そうでないケースもあるのう。
写本といえども、原書を生み出すほどの力を持つ魔道士、つまりお前の祖父クラスの者が写本を使えばマスタークラスの魔導書が誕生したりもするのでな。
そういった魔道士に作られた原書である魔導書は誇りを込めて、自らの事を原書、マスターと呼ぶのじゃ」
ああ、そっちの意味だったのか。ご主人様とかの意味じゃなくて、マスターテープとかと同じ意味合いなんだな。
「あれ? それじゃあ、もしかして、あなた達ここへ来ている魔導書を作ったのは」
「そう、お前の高祖父である三郎じゃ。まあ、わしや、この沙耶などの古い魔導書は違うのだがな。
あ奴らは三郎に焦がれるあまり狂ったようになっておる物もおるが、わしらは元々存在しておるがゆえ、中立的な立場でいられるのじゃ。
だから、あやつらが暴走したりせぬようにと世話をしておるのじゃが、いざとなると、あの有様じゃ。いや面目ない」
「はあ……」
なんだかよくわからない。だが一番わからないのは。
「なんで、あいつらは俺にこうも執着するのですか? 俺は高祖父じゃないんですけど」
「それはのう。いや、まずは最初から順を追って話そうか。まずは、お前の高祖父が召喚された時の事じゃ。
当時は魔王という物が大暴れしておってのう。魔族、魔物を率いて魔王軍を作っておった。劣勢になって追い詰められた人は、召喚魔法で魔王に対抗できる者を呼び出したのだ。
そうして呼ばれた者は、何か素晴らしい伊能を持っておるからのう。お前の高祖父が持っていた能力は魔導書作成の力じゃった。
これは召喚勇者の中でも最高クラスの力でのう。人間は見事、魔王を倒してみせたのだ。だが、魔導書達にとっては悲しい別れでもあったのだ。主と慕う三郎は元の世界へ帰ってしまうからじゃ。
勇者の力を欲したものの、魔王を倒すほどの勇者の力は恐れたのじゃ。だから、魔王を倒した暁には元の世界へと自動で戻る仕掛けを仕掛けておいたのよ」
「へえ、酷いな。使うだけ使って恩賞も無しでポイなのかよ。でも、それだからひいひいお爺ちゃんは日本に帰ってこれたんだよなあ」
小説なんかだと、帰ってこれないケースが圧倒的に多いからねえ。殺されていても、おかしくないんだから。よかったな、お蔭で俺は生まれてこれたのだから。
「ちなみに、わしは勇者のパーティの一員として三郎に付き従っておったよ。勇者の回復のためにな」
「そうか、婆ちゃんは高祖父の爺さんを助けてくれてたんだな、ありがとう」
「ほっほっ。その呼び名も懐かしい。三郎の奴も、わしの事はそう呼んでおったものよ」