1-8 復元と回復
「ところで、あの二人はどこに?」
「ここじゃ」
そう言って彼女天は懐から、革の表紙に重厚な装丁を施された、古そうな立派な本を二冊取り出した。
ああ、あの二人はやっぱり本なんだ。本としての見かけだけは実に立派なものなのだがなあ。そして本の中から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「出してー。出せー、この糞婆あ」
「酷いよ、天。はねっ返りの焔だけでなく、諫めにいった私まで一緒に封印するなんて」
「やかましい。お前達はちとやり過ぎなのじゃ。今、外に出すとまたややこしくなるから、しばらくそうしておれ」
よく見ると、何かしめ縄のようなもので二冊とも縛られている。本の魔力を封じるとか、開かないようにする物なんだな。二人が何かこうジタバタしているような気配が感じられる。
「とりあえずは、この場を収めるぞ。では回天よ、頼む」
「一応、ここでは本野沙耶というお名前をもらってあるのですが」
「わかった、わかった。では沙耶、これ以上騒ぎが大きくなる前にさっさと収めるぞ」
「はあい、では復元」
そして、あたりは真っ白な光に包まれたかと思うと、次の瞬間には焼け焦げていた校舎は元通りになった。
「うわ、すげえ。あんなに黒焦げだったのに元通りだ」
「うむ。こやつは『復元のグリモア・リストアマスター回天』、能力は御覧の通りじゃ」
「もう本に戻っていいかなあ」
あいつらの女の闘いを見た後では、なんだか癒されるような幼女さんなのだが、お外は嫌いらしい。
もうお帰りになられる(本に戻る)ようだ。彼女は光の還流の中で本に戻り、天の懐にささっと隠れた。
「消防士さん達とか、怪我をしてませんかね?」
「うむ。わかっておる。ここからは、このわし『治癒のグリモア・リカバリーマスター恢復』の出番じゃ」
彼女はそう言うなり呪文を唱えた。
「エンジェルフォース」
暖かい光に包まれて、俺が負っていた軽い火傷なんかも綺麗に消え失せていった。
「お、すげえ」
「これは、すべてを癒す超回復魔法だが、元々は何かをなかった事にするために作られた魔法なのでな、その時の記憶さえも彼方に消え失せる。
お前は三郎の子孫なので耐性があるから、傷は癒されても記憶が消えたりはせんがな。先に校舎とかを直しておかんと、目を覚ました奴らに校舎を直すところを見られてしまうからのう」
「そんなものですか」
「では、わしも本に戻るので、お前の家に連れていけ。話はそれからじゃ」
そう言って、彼女は光に包まれて魔導書の姿を取って、自動的に俺の手の中に納まった。
俺はそれを教室にある自分の鞄に仕舞い込んで、そのまま待った。記憶のぶっとんだ消防士達が出ていったので、そのうちに皆も戻ってくるだろう。
それからドタバタとしていたが、結局皆の記憶が無くなってしまったので、事態はうやむやとなったのであった。
俺達も今日は早く帰るように言われたので帰宅となった。早く帰れるので御機嫌な高井が誘ってきた。
「よお、帰りにどっか寄っていかないか」
「いや、今日は用事ができたんでな」
「なんだ、つきあい悪いな。まあいいや、じゃあ俺は可愛い女の子を求めて駅前にでも~」
懲りない奴だな。この前、それで酷い目に遭っていたような気がするが。まあ俺は俺で幼児があるのだ。
あのグリモアというか、シローニというか、そういう奴について、しっかりとお話を聞いておかねばならない。
これで四人のシローニと会ったわけだが、まだ他の奴らが来るかもしれないし、あの焔のような我儘娘がまたやってこないとも限らないので。
爽風のおっぱいの感触が忘れられない俺としては、可愛い女の子なら大歓迎と行きたいところなのだが、あの二人を見た後ではそうも言っていられないよ。
高井じゃあるまいし。一番美形の焔があれだからな。人間とメンタルが異なる存在だというのはよくわかった。
あいつらの基本的なスタンスは『人の迷惑顧みず』ってところなんだろうか。天と沙耶、この二人は例外なんじゃないかと思う。
特に天はよくわからないけど責任者とかまとめ役とか、そういうものなのだろう。多分、古くて力のある魔導書なのだ。
あと、おそらくは治癒を司るために、他の奴らがやらかした事の後始末もあるのだろう。だから沙耶と組んで、このようにしているのだ。
俺は首を竦めて、家路を急ぐため速足で教室を出た。全校一斉帰宅だから、靴箱が大混みだろうからなあ。