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1-7 誠にご迷惑様な事態

 それから爆発音が何度も轟き、茫然としている俺達生徒と教師を尻目に、急ぎ到着した消防士さん達が果敢に消火活動に入った。


 数台の消防車から素早くホースが繰り出されて消防水利の放水菅に手早く繋がれていく。そして重いホースを引き摺って、後者の中ほどから中へ入っていく。


「おー、さすが近いだけあって早く来てくれたなあ」

「これで安心ねえ」


 しかし、俺はまったく安心できない。今回の火元は狂った人間じゃない何者かだからなあ。火に油、ならぬ風を送って煽っている奴もいるし。


 その直後にまた爆発音が鳴り響き、消防士さん達の凄まじい悲鳴が轟いて校庭にまで届き、全校が再び沈黙した。


「なあ、災」

「なんだ?」


「あれ消すのは無理じゃねえのか? あの焔って女、燃え上がってたみたいだしさ。にも関わらず平気みたいだったし。なんなんだろな、あれは」


「まあ無理だろうなあ。どっちかっていうと、炎よりも怒りの方が燃え上がっているって感じだったから」


「何なんだろうね、あいつら」

「さあ、よくわからないけど」


 これは本当だ。爽風は自分がグリモアだとか言っていたみたいだが、俺にもまだよく理解できない。魔導書があのような人の姿を取って大暴れするなんて事があるのだろうか。


「あいつら、えらくお前に執着してたけどな」

「知るかっ」


 そして校舎の方の騒ぎは一時鎮静し、あたりは静まり返った。先生方は集まって話していたが、警察に中の捜索を依頼するかどうか相談しているらしい。


 中に突入した消防士達が悲鳴を上げて出てこないから迂闊に中に入れないからな。


 だが、突然に何かが俺の耳朶を打った。

「風? いや声なのか」


 正確には風に乗せた意思のようなものとでもいうのだろうか。そいつは、俺を呼び出しているようだ。


 明らかに、あの二人とは異質な存在。だが悪しき意思は感じない。その『声』はそのような事まで伝えてくれた。


『校舎の方へ来い、早く』と言っているようだ。騒ぎが大きくなる前に片付けたいらしい。


 俺はそっと列から抜け出すと、他の奴に見られないように大回りして中庭へと向かった。


 すると、再び風が耳朶を撫でた。

『こっちじゃ』


 それに導かれるように進んでいくと、現場とは少し離れた実務棟の方で、何故か眺めの白衣を着込み眼鏡を掛けた黒髪ショートの、子供のように小柄な女が手招きをしている。


 まるで化学の先生か保健室の先生のようだが、うちの先生でない事だけは確かだ。


 先ほどの妖しげな術を使っているところをみると、間違いなくこの人もシローニの仲間であろう。だが、あの二人とは異なり、なんとなくまともそうな感じがする。


「やれやれ、難儀したわい。お前が魄女災か。うむ、確かに三郎の子孫じゃのう。わしは癒しの力を持つ白衣天びゃくえそらじゃ。グリモア名は治癒のグリモア・リカバリーマスター恢復という。わしらの事はどこまで聞いておる」


 どこまでと言われてもなあ。最初から説明してもらわないと困るわ。


「あんたらがグリモア、おそらくは魔導書という物で、人の形を取っている時はシローニと呼ばれている。そういう事でいいのかな」


「まあ、そんなようなもんじゃな。後で説明してやるが、わしらはかつて、こことは違う世界でお前の先祖に仕えていたものじゃ。


 とにかく今は事態の収拾を図るとしよう。あの馬鹿どもが、えらい真似をしおってからに。まことにご迷惑様という他はない。詳しい説明はお前の家でしてやろう」


 そう言って、彼女は懐から一冊の本を取り出した。

「これ、回天。出てこぬか」


 しばらく沈黙した後、そいつは姿を現した。驚いた。本当に本が人になった。


 本の姿がぼやけたかと思ったら、それが真っ白な光のような物に代わり、人のシルエットを取ったかと思えば、女の子の姿へと変貌した。女の子と言っても幼児のようなのだが。


「えー、外へ出るのは嫌だなあ」

「ええい、そのような事を言っておる場合か」


「ちぇー」

 あれ、何だかグズっていらっしゃる。今までの出たがりな奴らとは違うなあ。


「何なんですか、その子は」

「何、気にするな。こいつは特にこっちに来たかったわけではなくてな。ちょっと引きこもり気味なのじゃ」


 なんだい、そりゃあ。本なんだからどこかに仕舞っておけば、いつでも引きこもり状態だと思うのだが。


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