1-6 嵐の烈風対紅蓮の紅焔
「ふう。いつか、あんたとは決着をつけないといけないとは思ってたのよね、ストームマスター烈風」
「あらあらあらあら、焔ちゃんは本当に好戦的なのねえ。そうねえ、それじゃあ言っておきますけど、この魔王もいない日本にフレイムマスター紅焔なんて物騒なお方は必要ないのよ?
大人しくシャイな美少女転校生でも演じて、災と仲良くなっておけば平和だったのに。みんなで仲良くハーレムしておけば、災だって喜んでくれたものを。私達の正体なんか別に明かす必要はなかったのよ」
なんだか、物凄く中二的な名称が出てまいるのですが。それよりも早く火を消していただけないでしょうかね。
俺、君達と違って普通の人間なんで、そろそろヤバイんですけど。あ、でもハーレムという単語はかなり気になるなあ。
「うるせえっ。災は俺の物なんだよっ。だってそうだろ? 災っていうのは、どういう字を書くんだ。火の字がでっかく入っているだろうが。この焔と同じくな。だから災は俺の物でいいんだよ」
「あらあらあら。もう乱暴な理屈ねえ。それなら、火を煽って大きくするのは風のグリモアの役割よ。災に本当に必要な存在は私の方なのではなくて?」
グリモア……か。またの名をグリモワールともいうよな。魔導書、魔法の書か。まさか、まさかと思うが、こいつらの正体っていうのは。
「うるさいっ。いいから、さっさとそいつを寄越せ」
「あらあらあら、あなたのいつもの論理から言えば、欲しいものは腕づくでというのではなかったのかしらね。ほらほら、思いっきり煽ってあげるから炎と一緒にとっとと燃え尽きてしまいなさいな。それ、バスターウインド。ぴゅううー」
まるで技を放って攻撃しているかに見えるが、実は口で「ぴゅううー」とか言っているだけだ。この人、違う意味で焔を煽っている!
二人の口ぶりからすると、仲良くないんだな。シローニの影の黒幕よ、何故この組み合わせで送り込んできた!
まあ、強引に一番乗りしてきたらしい焔の相手をさせるには、むしろ対立している奴を送っておこうという考えなのかもしれない。
焔の事だ。どうせ、誰にでも噛み付いて譲らないのだろうからな。
そして、爽風は更に俺を胸に押し付けた。今度はちゃんと息が出来るような感じに横抱きにして。
「うわっぷ」
これはちょっと厳しい戦いだった。柔らか地獄だ。
とっても温かいし。自力では抜け出せそうにない。彼女はもう俺を拘束しておらず、軽く押さえているだけなのだが。
二人とも、もう戦闘モードに入っているという事なのだろう。ヤバイけど、この状況から自力で抜け出す気にはどうにもならないのだ。
どうせ、この天国はもうすぐ終わりになるのに違いない。俺はその幸せな態勢で戦いのゴングが鳴るのを待った。
「災、あっちへいっていらっしゃい」
爽風が、まるで子供に言い聞かせるかのように優しく言った。
ああ、ついに始まるのか。俺はそのメートルサイズの巨大マシュマロに名残り惜しい視線をくれて、大人しく爽風の後ろ側から出口へと下がった。
さすがに命は惜しいからなあ。もちろん、おっぱいも惜しいのですが。
焔が俺の進路を塞ごうとしたのだが、爽風がそれを制した。
「烈風、てめえ」
「いい加減にしなさい、紅焔。あなたの勝手な振る舞いには皆が怒っているのですよ」
「うるせえっ」
最後に見たやりとりがそれだった。
教室は一階なので、急いで廊下から角を曲がり靴箱まで走ったところで教室から凄まじい爆発音が聞こえ、背中を廊下から畝ってきた熱風が押し、思わずよろけた。
「おいおい、ちょっとやり過ぎなんじゃないの、二人とも」
教室がどうなっているのか気になったのだが、確認しにいったりしたら命取りになりそうだ。慌てて上履きを靴に履き替えて逃げ出した。他の生徒も校庭に退避して並んでいる。
愛子先生を見かけたので、俺は真っ先に文句をつけた。
「酷いな、一人だけ置いて行かないでくださいよ」
「ごめん、ごめん。こういう時はさっさと避難しなくちゃ駄目よ」
そんな事を言われたって、この年頃の男の子があの柔らか地獄から自力で逃げ出せるわけがないじゃないですか。
遠くから消防車のサイレンが聞こえてくる。この学校は、消防署から近いんだよねえ。どんどん話がヤバくなっていく。
あいつらって、俺の関係者っぽい感じだからなあ。それが世間にバレたらヤバイかもしれない。
基本的に焔が悪いんだけどさ。爽風も爽風だよ。もう煽りまくっちゃってさ。あの狂人焔を前にしたら煽りたくなるのかもしれないけど。
あの子達を送ってきた奴も大概だし。風と火の組み合わせなんて、もう最悪やないですか。