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1-4 人間じゃございません

 その後も彼女の事は、皆も遠巻きにしてみているだけで、あのような過激な事を言ってのけたにも拘わらず、焔久里は一切俺には構わなかった。一体どういうつもりなのか。


 そして、お昼休みになって弁当をかっこんだ後、弁当を食うでも無しに、ただ俺をじっと観察していたらしい焔はいきなり俺に声をかけた。


「ちょっと付き合ってちょうだい」

「え、なんだよ」


「いいから」

 強引に突き合わされて、人気の無い川沿いの場所に作られた古い焼却炉のところまで連れ出された。


 転校したてでよくこんな場所を知っているな。今はゴミを勝手に燃やせないので、事業ゴミとして出されているから、この焼却炉も今は使われていないのだ。


 片付けるのにも金がかかるから放置されているのだろう。昔は零点のテストを密かに燃やすのにもつかわれたのだろうが、今は只のオブジェと化しているので、こんなところに滅多に人は来ないはずだ。


「ねえ、朝の続きの話なのだけれど、人間はいきなりああいう話をしないものなのかしら。ずっと考えていたの。あんな話をするのは初めてなので、少し戸惑ってしまったわ」


 はあ? 戸惑ったのはこっちだわい。『人間は』だと。やはり、お前は人間ではないのだな。


 おかしいとは思っていたよ。こんなに容姿が整った人間の雌だというのであれば、俺なんかに構うはずがないのだ。特に容姿の整っていない女子にだってまったく構われていないのだからな。


「少なくとも、まともな人間ならばな」


 俺はそう言って、そいつの後ろに回り、背中から尻、太腿にかけて検分してみた。無いな。収納式なのだろうか。


「何をしているの?」

「いや、充電コードがどこにあるのかなと思って」


「変態」

「なんでだよ!」

「別に言ってみただけよ」


 はあ、こいつが人間でないらしいと判明してホッとしたよ。こんな面倒くさい女が本物の人間なのだとしたら、どう対応していいのかわからないからな。


 ある意味では本物の女の方が面倒くさい面があるのかもしれないが。


「それで、人間じゃないというのであれば、お前は一体何者なんだよ」

「ふふ」


 顔の表情は変えずに、短く声だけで怪しく笑う焔。なんだか怖いな。整った顔立ちだけに、人形が喋っているみたいで気味が悪い。


 まだ接客用にプログラミングされたロボットの方が愛想いいんじゃないだろうか。


 うーむ、中身は蜥蜴型の宇宙人だとか。まさか俺を食べたいんじゃないんだろうな。『物』扱いされている事だし。あまり、こういう人気のないところにいるのはマズイかもしれないなあ。


「それで、お前はどうしたいんだ」

「だから言ったでしょう? あなたを私の物にしたいわ。それはもう狂おしいまでに」


「まだいうか。じゃあ、何の目的でそうしたいんだ。人間じゃあないんなら、人間の男を欲しても仕方がないだろう」


「いいえ、だってあの方は私達をあんなに愛してくれたのだもの」

「私達、だと」


「そう、私達シローニをね。彼は私達をそう呼んでくれたの。愛を込めて。彼、山城三郎は」

 誰だったっけな、そいつは。なんとなく聞き覚えがあるような気がするのだが。


「シローニって何だい」

 すると彼女はむっとしたような表情になった。


 おや、そんな風に表情を変えられたんだね。もしかしたら表現がへたなだけなのか。


「シローニは、シローニよ、まったく信じらんない。これがあの方……」

 彼女はそこまで言って、慌てて口をつぐんだ。


 なんだ? あの方……。それって、さっき言っていた山城三郎の事だよな。


「何なんだよ、お前は」

「だからシローニよ」


 そして埒の開かない問答を打ち切るように仕業五分前のチャイムが鳴った。


「胡乱な奴だ」

「ふふ、そのうちにわかるわよ」


 奴はほのめかすように言葉を含み、くすくすと笑いながら先に立った。相変わらず表情を表に出さない音声モードでしか笑わない無表情なのであるが。


 俺はどうしたものかなと思いつつ、とりあえず考えるのをやめた。あの女、そのうちにわかると抜かしやがったのだし。


 そして無事に六限目を終了して、写真部の幽霊部員であり、実質的には帰宅部である俺は家路を急いだ。


 時折、後ろを振り返って、あのイカレた女が後をつけてこないか、若干気にしながら。


 俺の家は歩いて十分くらいのところにある。家から近い方がいいので、ここにしたのだ。また実業高校の方が就職にも有利だからな。


 高卒だと基本的に地元企業に就職だし、大学出の就職活動は厳しい。大学卒には高い給料を払わないといけないので敬遠される事さえある。


 自宅に帰って、仕事の打ち合わせから帰っていた母親がいたので訊いてみた。

「なあ、母さん。シローニってなんだか知ってる」


「シローニ? さあ、何の話かしら」

「いや、もしかすると俺と何か関係あるのかもしれないという話なんで」


「わからないわねえ」

 母親も首を傾げている。そうか、じゃあ俺が知るわけがないよな。


「あ、そうだ。山城三郎って人知らないかなあ。なんか聞き覚えがあるような気がするんだけど」


 すると母親が大笑いして言ったのだ。

「あんた、自分のご先祖様の名前くらい覚えておきなさい。あんたの、ひいひいお爺ちゃんの名前よ」


 なんと、俺の高祖父の名前だったのか。そういやご先祖様は名前を変えたんだって、死んだお爺ちゃんが言っていた気がするなァ。


 そのお爺ちゃんの、そのまたお爺ちゃんなんだから、遠い話だ。


 待てよ、シローニ、白鬼、魄、白鬼の女!? それが、うちの姓の由来だとでもいうのか。俺の高祖父である山城三郎が、あの女をシローニと呼んだのだと⁉


 すると、あの女は。あるいは、女達は!


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