1-12 お次の方
そして、翌日学校へ行くと、またしても転校生が来ていた。当然の事ながら魔導書だった。今度の子は、えらく細身でスレンダータイプだなあ。ええい、もうええっちゅうんじゃ!
「おい、なんでうちのクラスだけこんなに転校生が多いんだ」
「そうだよなあ」
「でも可愛い子ばっかりだよな」
「そうそう、毎日可愛い子が来るなんて天国みたいじゃねえ?」
皆が口々に不思議がっている。まあそれも無理もないんだけど、いくらなんでも不自然過ぎるわ。俺は隣の席に座っている焔に聞いてみる。
「なあ、お前らってどうやって、この学校に転校してきているんだ?」
「そんなものは決まっている! 魔法で手続きだ」
「え!」
こいつめ、胸を張ってそのようなとんでもない事を言い放ちやがった。マジかよ。
でも普通の転校なんてできるはずがないよな。そもそも、元から学校に通っていないんだから『転校』なんてできるはずがない。転校生ではなく、イカサマ転入生だったか。
「そうそう。ちゃちゃっとね。いろんな魔導書がいるんだから、そんなの簡単よ~」
爽風も、うんうんと頷いている。
「おいおいおい」
いいのかよ、それ。まあ通用しているみたいなんだけど。
このクラスに勝手に転入してきているという事は、もちろん校内の手続きにも介入しているんだな。
もうみんな、好き放題にやっているんだなあ。百年前の三郎爺ちゃんの苦労がしのばれるぜ。
「そもそもねえ、こっちの世界へ来るのに苦労しちゃった。世界を越える能力を持っている魔導書を捜すのに凄く時間がかかって。
その間にみんな魔導書として力をつけて、跳ね返される事無く世界を越える事には成功したんだけど、もう三郎様はこの世の人ではなかったという。人間の寿命の短さを忘れていたわ」
「うわあ」
こいつらは寿命なんてないようなものだから、自覚がないよなあ。
そして、ここのところの毎朝定番のイベントが始まりそうだ。転校生の周良有希がつかつかと俺の前にやってくるのが見える。
例によって自己紹介はないらしい。字の意味は白雪じゃなくて修羅雪なんだろう。字の読みからしてなんとなく能力がわかるな。
多分氷系統のグリモアだ。細い体付きだから白い着物でも着せたら、雪女の一丁上がりだな。氷上もなんかそれっぽい感じだし。
世界を越えてこられたのだから、こいつもマスターの称号を持った魔導書なのだろう。怒らせると氷の彫像にされてしまいそうだ。
可愛いんだけどなあ、見た目からして嫉妬深そうな感じの子だし。人間だったら絶対に話しかけたくないタイプだ。きっとツンデレっぽいのだろうし、へたすると焔よりも性質が悪いぞ。
そして彼女が叫んだ。
「三郎様。私のものになりなさい!」
名前が違うだろうが! どんどん酷くなるな。
「誰が三郎だ、最初からやり直し!」
「えー、だって災様は、三郎様にそっくりじゃないですかあ」
「そもそも、お前ら。魔導書っていうのは人間に所有されるのが筋だろうが。なんで俺がお前らの物になるっていう前提なんだよ」
「そこはもう独占欲が強いという事で!」
「やかましい。せめて一人くらい『私をあなたの物にしてください』くらい言えんのか」
「えー、別にあんたのものじゃないしねー」
「そうそう、女の子を物扱いするのはよくないと思うの」
「黙れ! 男なら物扱いでもいいのかよ。そもそも、お前らって元はどうみても物だよね⁉」
もうやだ、毎日こんな感じだ。可愛い女の子に構ってもらえるのは嬉しいといえばそれなりに嬉しいのだが、どいつもこいつも人間じゃないんだものなあ。
しかも他の人間への想いを、姿の似た俺に重ねているだけで。しかもまた、さっそく三人で俺を取り合って揉めているみたいだし。一度でいいから人間の女の子に取り合いされてみたいよ。
「お前ら、頼むから校舎は壊すなよ」
「大丈夫だよ、天と沙耶がいるんだから」
「アホかあ」
懲りない連中だから、きっと明日もまた誰か転校してくるんだろうなあ。
しかし、そのうち教室がいっぱいになっちまうんじゃないのか? それも魔法でなんとかしたりするのかねえ。
俺は百年前の身内の、死ぬ間際まで子孫を想ってくれていた爺さんに思いを馳せた。
「三郎爺さん、あんたの娘達はみんな元気でやってるみたいだぜ。子孫の俺達もな」
本日終了です。お読みいただきありがとうございました。




