1-10 ついてきてしまった者達
「魔導書の中には三郎を慕って、日本へついてきてしまったものもおったのじゃ。ただし、突然の事でなあ。世界を超える試練を乗り越えるのは並大抵のことではなかった。多くの者が泣き叫び、共に行こうとしたが、それは果たされんかった」
うわあ、あの二人の事を思い出せば、思わず目に浮かぶような惨状だわ。待てよ、ついてきた者がいるのだと?
「婆ちゃんは三郎爺ちゃんと一緒に日本まで行こうとは思わなかったのかい?」
それを聞いた婆ちゃんは笑って言った。
「三郎は立派にお役目を果たして、元の世界へと帰っていったのじゃ。わしらなぞがついていけば迷惑になるばかりよ。
それに次元に弾かれた『行き損ない』どもが死屍累々であったのでなあ。別れ際に、それを見ておった三郎が叫んでおった。
『おばば、そやつらの事を頼む』となあ。あの昼間はしゃいでいた二人も、その行き損ないのうちよ。あやつらは、三郎に作られたまだ若い魔導書だったからのう。ちーと無理が過ぎたわ」
うわあ、昔から無謀な奴らだったんだなあ。
「という事は、お爺ちゃんについてこれたのは、昔からいた、婆ちゃんの古馴染み?」
「「「そういう事になります!」」」
「うっわ、びっくりした!」
お、お前らは~。確か物置に仕舞われている訳のわからない古い本なんかじゃ……え? 古い本? おうふ。
「どうも、災君。初めまして。しかし、親もなんて名前をつけるんでしょうねえ。あっはっはっは」
「うわあ、初対面のくせに失礼な奴らだなあ。ああ、いや子供の頃、物置で見つけたっけなあ。そうか、お前らが爺ちゃんと一緒に戦って、その後もついてきてしまったという……」
「「「イエース」」」
何でそこで英語なんだよ。何、この陽気なノリ。
「ふふ、お前様方も変わりないのう」
「天もねー! 久しぶりー、元気してた~?」
「おお、おお、元気にしておったとも。若い魔導書どもが世話を焼かせるがのう」
「ねえねえ、それでどうよー」
「どうとは?」
「また、惚けちゃってー。魔導書のくせにボケるにはまだ早いよ」
「わかっておる、わかっておるて。なかなかのものじゃな!」
「「「でしょう。ねー‼」」」
うっわ、こいつらきっと全員、お婆ちゃん魔導書軍団なんだな。シルバーパワーなマシンガントークについていけそうにないぞ。
「坊」
何故か、俺の事を孫のように愛おしそうに呼ぶ、お婆ちゃん魔導書の天さま。
「な、なあに」
「実を言うとなあ、お前様は、あの三郎に瓜二つ、本当に本人かと間違えるくらいにそっくりでな」
「え“」
そんな話は今まで聞いた事がないのだが。
「マジで?」
「うむ、わしらがその生き証人なのだ」
「「そう、そう、そうなんですよ~」」
「うわ、びっくりした!」
なんと、天婆ちゃんの懐から飛び出した、封印されたあいつらがハモった。お前ら、仲が悪いんじゃなかったのかよ。
それに封印されているくせに勝手に動くんじゃねえ。昼間、あれだけの騒動を起こしておいたくせに全然反省してねえだろう。
これが魔導書っていうものなのか。三郎爺ちゃんもこいつらには苦労したんだろうなあ。自分で作り上げた、文字通り子供も同然の奴らなのだが。
俺も彼の事がとても他人とは思えないというか、まあご先祖様なんだけどね。
「ですから、是非とも三郎様のお傍に置いていただけないかと!」
何故か、陽気に焔の奴が話かけてくる。お前なあ、自分の陰キャラはどこに置いてきたー。
「ふざけるな。俺は三郎なんて名前じゃねえぞ」
「改名いたしませんか? そっちの方が素敵じゃないのかと。言っちゃあなんですけど、『わざわい』なんて名前はちょっとばかり常軌を逸しているのではないかなと。そんな名前をつけた方の正気を疑っちゃいますねー」
爽風、てめえ。
「うるさいな。親がつけたんだから仕方がないだろ。『れっか』って読めよ」
「ほほう、『劣化』ですか。いずれにしろ、碌な名前じゃありませんね」
すかさず突っ込んでくる焔。何なの、このいきなりの仲良しコンビネーションは。
「じゃかあしい! お前ら、本当は滅茶苦茶仲がいいんだろう。交互にリズムよく突っ込んでくるんじゃねえ」
だが、我が家に太古から居候している魔導書達がクスクスと笑っている。本のままのスタイルで笑われると、どうにも違和感あるな。
「まあまあ、若い子達も君に夢中なのよ」
「若いっていうけど、百年以上前に、うちのひいひいお爺ちゃんが作った奴らなんだよね!」
「まあ、あのようなヒヨッコどもなぞ、わしらに比べたらロリ魔導書も同然よ」
「いやいや、そういう言い方はちょっとアレかと。薄い本とかと間違われると大変ですので」
なんだか知らないが、古今東西の魔導書どもが、強烈に俺を弄ってくるんだが。本なんかにもててどうするんだ、俺。




