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坂の上に建つあの場所で  作者: ふーちゃん
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「吉川」って、どう読みますか

「自摸。国士無双。親で48000点。」


・・・また役満上がったよこの人。積み込みでもしてるのか?

もっとも、特に何を賭けているわけでもないのだから、イカサマをしているとは本気では思っていないが。


秋も深まり、初雪観測のニュースもそろそろかと覚悟し始めたこの季節。

一枚の扉を挟んで野球部の地鳴りのような掛け声が轟くこの場所は、高山高校水泳部の部室だ。

部室と紹介しておいてなんだが、現在は雀荘として絶賛営業中である。

トレーニングのような真面目な用途で使われることがほとんどないにも関わらず、優しく俺たちを包み込んでくれる(とはいえ隙間風は貫通してくるが)この部室は、俺にとってはいわばHOUSEというよりもHOMEのような存在だ。


「おい内、早く積んでくれよ。俺はお前を早くハコテンにして、さっさと家で録画したしま〇ろうを見たいんだ。」


目の前でふざけたことを抜かすのが、役満自摸り男こと、吉川である。

・・・おっとしまった。先輩には敬意を払わなくては。吉川さんだ。


3年生は引退しているから、1年生の俺から見て先輩になるのは2年生だけなのだが、その唯一の2年生が吉川さんだ。身長は170センチ程。体重は63キロと先日言っていた。彼女はもちろんいない。

彼女がいないことは明白なのだが、明白でないのが苗字の読み方だ。読み方は「よしかわ」。「きっかわ」ではない。

6月ごろに、「俺の苗字の正しい読み方は、中間試験に出るからな。覚えとけよ。」とか言っていた気がする。もちろん出なかった。おかげで赤点だった。


そんな吉川さんと俺は今、サシで麻雀をやっている。二人麻雀ではあるが、何らかの牌をわざわざ抜くことはしない。面倒くさいからだ。


俺の持ち点は5000を切っている。相手のメンタンピンに何か役が絡んだ瞬間、THE ENDだ。ちなみに、読み方は「ジ エンド」。「ザ エンド」ではない。テストに出るかもしれないぜ。


「リーチ。この手を上がれば、このゲームもザ・エンドだな。」

吉川さん。そのままではあなたのセンター試験英語がザ・エンドですよ。


・・・いかんいかん、この人の将来を憂いている場合ではない。集中だ。

見たところ捨て牌は普通。メンタンピンか。だったらこちらは北の対子を落としつつ、聴牌を狙う・・・


「北来たな」

なんだって・・・北の単騎待ちか・・・!

リーチ宣言牌の四萬を残しておけば、両面で受けられたじゃないか・・・


「裏が1枚乗って7700。今日も俺の勝ちだな。」


やれやれ。この人の打ち筋・・・もとい生き方はよく解らんな。理解しようとするだけ無駄か。


「よし内、帰ろうぜ。帰りにいつもの商店でコロッケ食っていこう。奢るよ。」

「ありがとうございます。」

「ところで、さっきの激うまギャグ、気づいた?」

「敢えて気づかないふりをしてあげた俺の優しさ、気づかなかった?」


コロッケは美味しかった。








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