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まるで夢のように儚い夜

作者: 春乃はち

『まるで夢のように儚い夜』


〜登場人物〜


夏木恋乃歌なつきこのか

魔女(彼女)


---------------


ねえ。あなたはどこにいるの?




カタンカタン…カタンカタタン…カタ…


ここは北の果て。そのある街で私、夏木恋乃歌は暮らしています。

私は毎日同じ夢をみている。

遠い昔の……現実にあったはずの夢。


それが本当なら…。


もう一度…。





----- -----





「ふんふふんふふ〜ん」

まだ少し幼い恋乃歌は森に訪れていた。

うるさいくらいに気持ちよく鼻歌を歌っている。

幼い恋乃歌は自分のおばあさんからの言いつけを破っていた。『森には絶対入ってはいけないよ…なぜなら…………


恋乃歌はそんなこと忘れているようだ。


今日は晴天で、鳥の愉快な歌声が聴こえるのでご機嫌だった。 若葉色をした樹々たちが生み出す木漏れ日も、その全てが神秘的だ。まる夢の世界に迷い込んだかのように美しい眺めだった。




しばらく森を冒険しているうちに、歌を歌っている鳥たちが一斉に飛び始めた。

どこか慌てた様子だったので気になり、鳥を追いかけてみた。鳥たちの飛ぶ速さに恋乃歌は到底かなわなく、姿を見失いそうだった。


ずいぶんと走った。ここはどこだろうか。随分と奥まで来てしまった。薄暗く、気味が悪かった。先程のような美しい眺めはどこにいってしまったのだろう。


まるで森が死んでしまっているようだった。




鳥たちの姿はとっくに見失ってしまっていた。

宙の様子がおかしい。胸騒ぎがする。



先ほどまで明るかったはずの森には霧がかかり、急に辺りが純黒に染まった。恋乃歌は不安の穴に落ちてしまったような泣きたくなるような感覚に襲われた。


恋乃歌の身体には焦りと恐怖が駆け巡った。恐怖で神経の全てが凍りついていった。


-------


『森には絶対入ってはいけないよ…なぜなら森が純黒に染まった時、恐ろしい魔女が出るから……』



--------



恋乃歌はこの森から一刻も早く抜け出そうと狂ったように駆けた。

早く…早く…早く森から逃げ出そうと、ただ、逃げることだけを考えて。さもないと魔女に囚われてしまうと…。


ずいぶんと駆け回ったが、出口はなかった。どんなに駆けても見つからなかった。

「うぅっ…」

涙が溢れてくる。

恐怖と、焦り。

遠くに人影が見えた。

ーこれでもう大丈夫だー

そう思った。一筋の光が射した。そう思ったのも束の間、光は一瞬にして闇へと変わった。


人ではなかったのだ。


人影に見えたのは巨大なクマ…というかもう怪物だった。恋乃歌は慌てて後ずさりをしたが、その時にはもう、怪物は瞳を光らせて私におそいかかってきた。


瞳を力一杯つむり、全身に力を入れたその時、一瞬だけ、体が宙に浮いたような、羽が宙に舞ったようなふわふわした優しい感覚がした。

そして、衝撃が走り、私の意識は途切れた。





--------






「う、、、ん、、、?」

恋乃歌は瞳を覚ました。恋乃歌はふかふかのベットに寝ていた。

死んでいるのか、死んでいないのか、夢なのか……よくわからない。

瞳はまだよく見えず、上手く状況をのみこめなかった。とりあえず、そのままベットに寝っ転がっておくことにした。


瞳を覚ましてからおそらく数分が経つと、少しぼやけた視界がもとに戻ってきた。瞳をこらすとそこは見知らぬ天井が見えた。ふと周りを見ると、見知らぬ女の人がいた。

どちら様か知らないが大きな瞳をしている可愛らしい人だ。

「・・・ここは…?」

そこにいる見知らぬ彼女は恋乃歌が瞳を覚ましたことに驚き、ぱっちりした瞳をますます大きくした。そして安心したようにふわっと微笑んだ。

「誰…?」

彼女は何も語らず、何も訊くなと言うように静かに微笑んでいる。

そして、見知らぬ彼女は音も無く恋乃歌の背を指差した。私は、そっと自分の背に触れた。


「痛ッ…。なにこれ…。」


私の背には紅に染まった傷がついていた。

先程の怪物に背を裂かれていたようだ。

ーどうしてこんな傷がついても死ななかったのだろうかー

安堵と共に疑問がふつふつと湧いてきた。





-------


口を開かなかった彼女は少し言いにくそうに口を開いた。



「あなたある動物に襲われて倒れていたの。危険な状態だったから瞳が覚めて本当に安心したわ。」

と慰めるように言った。

私は彼女にお礼を言おうとした。が、ありがとうございました、という言葉を呑み込んでしまった。今更かもしれないがこの人は誰なのだろう。怪しい人ではないのだろうか。

もう一度、

「あなたは誰?何者なの?」

と訊いた。

彼女は少し戸惑った後、困ったように笑い、

「ごめんなさい。言えないの。うーん…そうね…。この森に住んでいる『魔女』とでも呼んでもらいましょうか。」

と哀しげに言った。

彼女が何故、困ったように笑い、哀しげだったのか恋乃歌にはわからなかった。

ただ、魔女という一言をきいて、全身が凍りつく。


恐ろしさを感じた。立ち上がり、今すぐ逃げ出したくなった。

でも、自分を助けてくれた人だからと思い、恐ろしさは少しばかり消えた。


不思議に思うことがあった。

魔女という彼女について。

ー魔女は恐ろしいはず。なのに…… 言い伝えは間違っていた……?ー

沢山の感情が頭に一気に流れ込んできた。そうすると意識が薄れてきそうだ。


これ以上考えても仕方がないと思い疑問に思ったことを訊くことにした。

「君は…言い伝えで言われている魔女なの?もしそうなら、なんで私を…助けてくれたの?」

彼女はやはり哀しげに微笑み、

「私が、言い伝えの魔女よ。」

やはり、哀しげに笑った理由はわからなかった。


助けてくれた理由は教えてくれなかった。


で彼女から魔女がいるのは本当だということ、でも恐ろしい魔女ではないよ、と教えてはもらえた。






------





こんなことも訊いた。

「どうして…どうして私はこんな傷を負っても死ななかったの?」

「こんな傷がついてもどうしていきているのか…教えて欲しい?」

「…うん」

「魔法」

「…え?」

「魔法を使ったのよ。言ったでしょう?私は魔女だって。」

恋乃歌はこの時、人生で一番驚いた。

お礼を言っていないことに気づき、はっとして大慌てで

「あ、あっりがとうございますっ。有難うございます。」

噛んでしまったがちゃんと言った。

そうすると、彼女は私の前で初めて、哀しげではなく、本物の笑顔を魅せてくれた気がした。






-------






太陽が瞳を覚ますくらいの時刻になっていた。宙は陽の光が混じったでもまだ、深い海の色をしていた。

「もう、帰りなさい。」

彼女が、言った。

まだ帰りたくなんてなかったかまら仕方がないので3つ、条件を出して帰ることにした。

「じゃあ3つお願いをきいてくれたら帰る。」

「ん?」

「1つは、あなたがさっきから哀しげに笑っていた理由を教えて。」

「哀しげ……か。私が哀しげだったのはきっとキミが私のこと恐れると思ってたからかもね。でも、キミはすぐに受け入れてくれた。…ありがとう。」

と、優しく微笑んでくれた。

「じゃあもう1つ。君の名前は?」

やはりそこは、何も訊くなというように哀しげに微笑んだ。

恋乃歌は名前を訊くことを仕方ないので諦めることにした。そしてすぐに、あることを思いついた。

「名前が無いと呼びにくいから、名前の代わりにあだ名…君にあだ名をつけてあげる!」

我ながら名案だと思う。

「・・・え?」

「うーんと、うんとね。えっと〜…そうだ!!あなたはよく哀しげに微笑んでいたから、哀しいを別の読み方にして、『哀』って呼ぶね。…だめかな。」

哀は静かに微笑んだ。

そして一言、

「ありがとう。」

といった。

いよいよ最後のお願いをする。

「最後に、魔法をみせてよ。」

哀は少し悩んだが、すぐに答えを出したようだ。

「・・・いいわ。」

そう言って、彼女は恋乃歌に手をかざし、なにか呪文を唱えていた。聞き取れはしなかった。

そして、また、ふっと私の意識は途切れた。

意識が途切れる直前、哀が涙を流していた気がした。

ーさような…ー






-------





「ん…?あれ?」

恋乃歌は自分の家の前に倒れていた。

帰ってこられたことに喜んだほうが良いとはずなのに、哀の姿を探した。

「哀…?どこ…?」

辺りを見渡したが、哀の姿はなかった。恋乃歌は全て、夢だったかのような気がしてならなかった。

そして、そっと背に触れた。

「いっったッ!!」

鈍い痛みは消えていなかった。夢ではなかった。

でも…でも二度と哀に逢えないのだろう。なんとなく、わかった。






-------






あれから、一月がたち、

ーもしかしたら哀がいるかもしれないー

という期待を胸に、哀を探しにあの場所に行ってみた。が、哀がいたあの場所はなかった。何度も何度も夢だったのか、と思ったけれど、背の傷が、『夢ではない。』と物語っていた。 あのとき、哀ともっと一緒にいたいと願えばどんなに良かったか…と後悔した。

恋乃歌は大粒の涙を流した。溢れても溢れても止まらない、本物の涙。声をあげて泣いた。哀の名前を叫びながら森の真ん中で、泣いた。北の果てで、泣いた。







-------







気がついたら寝ていたようだ。また、あの夢。

ー同じ夢…?ー

頰に一筋涙が零れた。

ー彼女に…哀にもう一度…会いたいー


もし、1つだけ願いが叶うなら、哀にもう一度逢いたいと願うだろう。いや、そうじゃない。

ずっと一緒にいたいと願う。


けれど、きっとその願いは叶わないと知っていた。哀が、もう逢えないといっている気がしたからだ。


それでも恋乃歌は願っている。


きっと人生の最後の瞬間まで…。


まるで夢のように儚い夜だった。



おわり






『大切なヒト。』ー姉妹2人の恩人ー



〜登場人物〜


夏木歌湖 (なつきかこ)

夏木恋乃歌(お姉ちゃん)

北の魔女

見知らぬ人

実華叶乃羽 (みはなかのう)



--------




最近お姉ちゃんが変だ。いや変なのは元からだけど今まで以上にお姉ちゃんが変だ。ぶつぶつ「哀…哀…」と言っている。そのせいで毎日毎日寝れやしない。本当

ーうるっさいわ!!ー


---


申し遅れました。夏木歌湖と申します。

小学生だけど中学生のお姉ちゃんよりしっかり者ってよく言われます。


そんなことはどうでもよかった。

お姉ちゃんをどうにかしてほしい。私の安眠を返せっっッて話しだ。


歌湖はお姉ちゃんに怒鳴りつけてやった。

「毎日毎日うるっさいわ!!!哀ってなによ。そんなことはどうでもいいけど静かにして!!」

一方的に怒鳴りつけた歌湖にお姉ちゃんは突拍子も無いことを言った。

「哀は私の好きな人…。」

「・・・は?」

「女だけど。でも大切なヒトだよ。」

お姉ちゃんはにししっっと笑った。

意味がわからない。

でもどうしてだろう。こんなことまで訊いてしまった。

「なんで逢えないの?」

「逢えないから。」

「え…もしかして死んで…る?」

「死んでないけど逢えないの!!」

ふと我にかえった。あ…どうでもいいことを訊いてしまった。

「と・に・か・く!!静かにして!!」

私が一方的に怒ってぽかーんとするお姉ちゃんは放っておき、歌湖は寝ることにした。


---


その夜もお姉ちゃんはうるさかった。もう少しで寝れそうだったのに…。

またぶつぶつ言ってる。何度言ったらわかるんだ。うるさいぞ。くそぉ。

でも、文句を言うのも面倒なので布団に潜った。そうしたら意外とすぐに夢の世界へと入り込めた。


---


陽が昇り、暖かな陽射しで瞳を覚ました。

お姉ちゃんはまだ狂ったように哀という名前を呼んでいた。

もう、呆れを通り越し、心配になった。

お姉ちゃん目にくまできてる…


そこで、私はその哀というヤツを探すことにした。お姉ちゃんの為ではなく全ては安眠のために…。


---


お姉ちゃんからその哀とかいうヤツと出逢った場所など詳しいことを訊いた。

その哀と出逢ったとかいう森へ探しに出ることにした。


お姉ちゃんが言ってた哀の家があったという辺りに辿り着いた。

そこは、草木が生い茂り、何もなく、殺風景な場所だった。

ーなんもないじゃんー

そうはおもったが、歌湖はしばらくの間、なにか手掛かりがないか探してみた。何もなかったのでちっと舌打ちをし、仕方がないので帰ることにした。


くるっとUターンした瞬間

ー!?ー

歌湖のふわふわの髪が浮いて真っ逆さまに堕ちていった。


---


「んにゃ…むにゃ!?」

意識が戻った。床は冷たいコンクリート。手も鎖で繋がれていた。牢屋のような場所は冷気で満ちていた。

コツ…コツ…コツ…コッ

音がする。誰かが来るようだ。ソイツは歌湖の牢屋みたいな部屋の前で止まった。ローブのフードで顔が見えなかったが、怪しいヤツだ。ソイツはこちらをみてニヤッとした。

「フ…フフフフフ…」

ソイツは不気味な笑みをし、歌湖の牢屋へ入ってきた。

「なっ…おまえ誰だよッ!!」

おっと…思わず男子みたいな口調になってしまった。そんなどうでもいいことを思っていると、ソイツは静かに口を開いた。

「私ゃ北の魔女。おまえさんを助けにきたのだよ。」

「おっ!まぢ…」

マジで!!やったー!と言おうとしたがみるからに怪しげなヤツだったのでその言葉を取り消すように首をブンブンと振った。

その様子を見て、北の魔女とやらは

「おやおや。私を疑っているのかい?」

と不気味に笑いながら言った。

「だってみるからに怪しそうだろ!!疑うに決まってるじゃん。疑いを晴らしたいならさっさと助けろ!!」

「ふっいいよ…」

そう言って歌湖の方に人差し指を向けた。

「すぐに楽にしてやろう…。」

北の魔女は呪文を唱え、魔法の玉らしきものをとばしてきた。歌湖は急いで身体を横にし、魔法の玉を避けた。北の魔女は何度も魔法の玉を撃ちつけてくる。魔女は最初から助ける気などなかった。歌湖を殺そうとしていたのだ。

何度か人差し指から魔法の玉を撃ってきた。

なんとかかわしているがもう限界だ。魔女がニヤッとして、まるで死ねと言っているようにまた、魔法の玉を撃ってきた。もう瞳の前まできた。歌湖は涙を流し、瞳をつむった。

『どっっっ!!』

お腹の部分に衝撃が走った。腹をみると、魔法の玉が貫通していた。

気が遠くなった。


---


歌湖はゆっくりと瞳を開いた。

ぼんやりした世界の中で歌湖は宙をみていた。そこには七色の虹がかかっていて夢のような世界だった。

歌湖はゆっくりと起き上がり、辺りを見回した。一面花畑だった。色とりどりの蝶が舞い踊っていた。

ー・・・?どこ?とても綺麗だけれど…ー

そこには見知らぬ人が立っていた。

「・・・ココはどこ…?あなたは?」

「・・・ショックを受けないで聞いてね。ココは天国と現世の狭間の空間。キミは生きるか死ぬか、というギリギリのラインにいるのよ。時間が経てば…死んでしまう。一刻を争う事態になっているの。」

と本当にショックを受ける内容を話された。

恐怖で震えている私にむかって見知らぬ人は慰めるように頭を撫でた。

「大丈夫。キミのコトは絶対に助ける。恋乃歌の妹だから…。」

「お姉ちゃん…お姉ちゃんを知ってるの!?」

「ええ。魔女と呼ばれていた私に名前をくれたわ。」

「?なんて呼ばれてたの?」

「哀。哀よ」

気づけば、彼女の頬には涙が伝っていた。

「え…え!?嘘でしょ!お姉ちゃんがずっと探してた…哀!?さん…。」

「うふふ。恋乃歌…キミのお姉ちゃんからずいぶん楽しい時をもらったわ…。ずっと探してくれていたなんて…。」

哀…さんは泣いていた。静かに、嬉しそうに、哀しそうに…。


---


ーココにいるってことは哀は…死んでいる…?ー

「そういえば、どうしてこの場所にいるの?死んでしまって…いるの???」

震える声で訊いた。

「・・・・ええ。恋乃歌を帰してからすぐに北の魔女に殺された。でも、キミはまだ生きている。キミを必ず生き返らせる。恋乃歌へのせめてもの恩返し。」

哀は歌湖の瞳を真っ直ぐに見つめて安心させるようにそう言ったのだった。


---


「・・・で?どーすんの?」

「そうね…。この空間でも魔法は使えるから…まずキミの傷を治さなきゃね。」

歌湖の傷に手の平をかざした。傷は新緑のような色にぶわっと光輝き、ふっと歌湖の傷は消えていった。

「すっご〜いっ!!魔法ってほんとに使えるんだね。」

歌湖は感動しすぎて危うくもう死んでもいいと思ってしまうところだった。

「ふぅ。ひとまず傷は癒えたわ。現世の本体の身体の傷も癒えているはずよ。」

「じゃあ、もう現世に戻れる??」

「戻れるけ…」

「戻れんの!?やった!!!!やっっった〜〜!!!!!!」

「や、戻れるけど…そこには北の魔女がまだいる。生き返ったら今度こそ死んでしまうかもしれないわ。けど…生き返る路がそれしか無い。どうする?決めるのは歌湖、あなたよ。」

「じゃあその可能性に賭ける。絶対生きるから。安心して。哀。」

「・・・ありがとう。流石恋乃歌の妹ね。ただ…やっぱり心配だから短い時間だけ現世に戻るわ。」

と哀は言った。

「哀も生き返れる!?」

「少しなら…。」

哀しげに微笑んだ。



「ありがとうっ!!」

と言って、にぱっと笑った。


---


「じゃあ行くよ。」

哀は歌湖の手を優しく包み込んで言った。

「うん。」

哀の手をぎゅっと握りしめた。

『パァァァァアアアアッッッ』

ぶわっと風が吹き、太陽を直視してるみたいに目の前が眩しく輝いた。


---


輝きが消えた。

牢屋に戻ってきたようだ。牢屋の鍵は開いていてすぐにでも逃げ出せる。

「行きましょう…。」

哀はそう言った。

歌湖は黙ってついて行くことにした。哀はちらりとこちらを見て

「大丈夫。」

と口パクで言っていた。

牢獄を音もたてず駆けた。


とうとう出口に到着…。

ーやった…!!やっと…やっと解放される…!!ー

牢獄の前で飛び跳ねた。


ヒュン!!

なにか黒いものが哀の隣を横切った。

ズブッ

哀の隣から鈍い音がした。震える身体で隣を見た。

「歌湖ちゃん…?歌湖!!!!」

哀の隣に歌湖が横たわっていた。

「あ…あぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!うわぁぁぁ!」

哀は叫んだ。どうしようもなく、自分の感情を抑えきれなかった。

叫び大粒の涙を流した。


「くっくっく。ずいぶんと無様な姿だねぇ…魔女さんよ。お前さんの大事な娘は殺した。」

北の魔女は不敵な笑みを浮かべ、哀を嘲笑ってきた。

「次はお前さんの番だよ…あッ!?」

「許さない……。」

哀は我を忘れ北の魔女に攻撃魔法を使った。容赦なく攻撃をし続けた。

北の魔女は何もできず、逃げ帰った。


---


ふと我に返った。

歌湖が血を流し、横たわっている。


「歌湖!!!!絶対治すから。治す…!治すから…まだ生きて…!」

哀は使える魔力全てを注いだ。

祈るように、願うように…。


---


哀は恋乃歌の家へ行き、歌湖のことを家の前に寝かせた。


歌湖にほんのすこし残っていた魔力も注いだ。


歌湖の指先がぴくっと動いた。

「歌湖…?」

「ん…。えへへ。生き返れたね。哀……ありがと。」

歌湖はにんまり笑っていた。


---


ー!?ー

哀の身体が透けてきた。

魔力を使い果たしたようだ。

もう、消えてしまいそうだ。

「歌湖ちゃん。もうお別れみたい…。身体がもうもたない。」

「嘘だ…。嘘だ嘘だ嘘だ!!!嘘だって言ってよ…!!ねえ!!哀!いなくなるなんて言わないで…!!」

「最後まで泣かせてしまってごめんね…ありがとう。恋乃歌ちゃんによろしく言っと…」

ふわっ

哀が消えた場所には羽が舞っていた。

「消え…た…?消えちゃった…消えちゃったよ!!!嫌だ…嫌だ。やめてよ。哀…哀…哀!!!!返事して…お願い!!お願いだから…」

声をあげて泣いた。叫んだ。呼んだ。どうしようもなく泣き叫んだ。ただ、哀だけを想って…。


---


家から恋乃歌が出てきた。

「どうしたの!?」

「私の…私のせいでぇ…ごめん…ごめん…ごめん…!!」

恋乃歌は何も言わず私の頭を撫でた。


---


あれからは平和な日々が続いている。何事もなかったかのように。

でも、歌湖の心の傷は癒えなかった。身体の傷は治っても心には穴が空いている。

歌湖は恋乃歌よりも抜け殻のようになっていった。

歌湖はずっとなにかをぶつぶつ言っているので学校の人からも変人扱いされる。嫌なことが続き、溜息をついた。

そんな歌湖をみて、大親友の実華叶乃羽が

「歌湖?大丈夫?瞳ぇ死んでるよ。いや、瞳だけじゃなくて全部やばい。」

わざと明るく振舞ってきた叶乃羽に対して、歌湖がむすっとしてると一瞬哀しそうな顔をした気がした。

でも、叶乃羽は気のせいだったかのように、いつもの通り、明るく振舞ってきた。

「らしくないらしくない!!げーんーきだーせ!!」

と言ってきた。

叶乃羽の、優しさが身に染みてまた、涙がこみ上げてきた。


---


叶乃羽は優しいから言わないで、とおねがいしたら絶対言わないだろうと思い、哀のこと、大切なヒトが死んだことを話すことにした。


全てを聞いた叶乃羽はしばらくの間黙り込んでいたが、

「大丈夫。」

ただ一言。それだけ言った。その言葉が身に染みた。

やっぱり叶乃羽は優しい。

歌湖の瞳からはどうしようもなく涙が溢れた。


---


叶乃羽に話したらなんだかすっきりした。これで泣くのも溜息を終わりにしよう。叶乃羽の為にも立ち直ろう。前向きに生きよう。

そう心に決めて、歌湖は今日も生きている。

いつか、大切なヒトに巡り逢う日まで。




おわり

10代文章初心者が趣味で初めて書いた2作です。

読んでくれた皆さんありがとうございました。

少しでも多くの人に届き、心に響きますよう願っております。


春乃はち

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