01 変革の砲火1
F社がいつまでたってもあのシリーズ新作を出さないのが書き始めた最大の理由。
『本船、E-264便は間も無くVA競技大会開催コロニーへ到着します。重力ブロックへの接舷により大きく揺れますのでシートベルトを御着用下さい』
全長約15m、人型の搭乗型ロボットであるヴァリアブル・アーマーが世に出て40年、それは世界にスポーツの一つとして受け入れられていた。登場直後には大きな戦争を経験していたため新たな火種として警戒されていたが、ETAPCが正規軍から齎された技術提供要請を全て棄却したことで世論が変化する。
まず各地に広報用の展示施設を幾つも建造し、そこにVAの操縦が行えるシミュレータを設置した。これを用いて操縦訓練を行い、整備やオペレートの様な技術面はヴァーチャル空間で行われた。予選大会はそのシミュレータを用いて行い、その時に入力した機体情報を基に実物のVAが本戦会場に用意され一時的に選手に貸与される。
VAは複数のパーツ群で成り立ち、それらを組み替えることで自分にあった機体を組上げる。胴体部分であるコアフレーム以外の構造は公開されており、各国企業が独自のパーツを開発し、ETAPCに申請すればシミュレータに登録され、勿論大会で使用することもできるのだ。VAを兵器転用しようとすればコアフレーム内部の技術が必須だが、其処は大半がブラックボックスになっている。そのせいで年月が経つうちに各軍需組織は独自開発にある程度の見切りをつけてしまった。そもそも第4次世界大戦ですり減った戦力の補充にもETAPCの力を借りている以上下手なこともできないのだろう。
その後彼らはVAについて様々な学習をするための機関を、各国の理工系大学高校に設立。そこにもシミュレータを設置し、それだけでなく機能を大幅制限した機体を整備訓練用に提供した。
これ迄に掛った費用はETAPCが全額負担しており、維持費もそれぞれの国が僅かに負担するのみである。そのため疲弊した各国にとって、いいスケープゴートであり、政治的な舞台にもなるとあって歓迎された。
VA世界大会は長らく地球上の人工島で行われていたが、2142年開催より居住用コロニーを幾つか貸し切って会場にしている。そもそも殆どのコロニーがETAPC製であり、大会主催もVAを開発した彼らであることから環境さえ整えばどうとでもなったのだろう。
現在向かっているコロニーの位置はL1。地球――月――太陽間における重力の安定軌道をラグランジュ点と呼び、L1は地球――太陽間に存在する。この位置は太陽光を可能な限り遮られないようにしつつ、最も地球に近い位置を維持できるため、太陽光発電効率や物資輸送の観点から居住用コロニーが分布している。具体的には地球より若干太陽に近い位置で2つの天体が持つ重力によって釣り合っているのだ。序に月面基地へ向かう際の中間拠点でもある。
その真逆方向に付き軌道の外側まで行くとL2である。常に太陽光が地球時々月で遮られるためそこそこ暗く、太陽光発電に適さないため場合によってはマイクロ波もしくは量子通信で電力を他所から持ってくるということをしなければならない。そのためあまり電力を必要としない倉庫や特殊な実験施設が置かれている。
地球――コロニー――太陽という直線状に存在するのはL3。非常に地球から遠く、利便性が無いため現状あまり開発が進んでいない。但し今後ダイソン球のような大規模発電装置を建造する場合に拠点となりえるとして注目されている。
正三角形状に重力が釣り合うトロヤ点に存在するのはL4及びL5。この2つには規模の大きめな軍事施設が主に置かれている。
E-264便には大会参加チームの一つである駿河灘高校VAコース1年生2年生の生徒及び、その指導教員と救命資格を持つ養護教諭らが搭乗している。
VAコースとは、ETAPCが各国に技術資金援助を行い各地の高等学校に設立された、VA専門の機械技術や操縦技術、指揮管制等を学び選手を育成する教育機関のことだ。そこで学んだ生徒はETAPC参加でパイロットや技術者として働く際に門が広くなる。要はプロアスリート育成学科の様なものだ。
船内の窓際座席に黒いポニーテールの少女が静かな寝息を立てて席に沈んでいた。先程のアナウンスでは目を覚まさなかったようである。それに対してしっかり目を覚ましていた隣に座る波打つカールで明るめの茶髪を持つ少女が、取りあえずそのままベルトだけ装着してあげようと悪戦苦闘をしていた。しかし、彼女の寝相が悪く組み合わせた両肘が邪魔になり上手くいかない。
「あーもう、紫呉ー起きて―」
まるで赤子をあやす様に茶髪の子が紫呉と呼ばれたポニーテールの子を揺する。
「起きってってば」
更に激しさを増して揺する。
「もうすぐ着くよ」
挙句パン生地を捏ねるが如く揺さぶる。
「おーだーまーき、しーぐーれーさーん」
「起きろや!」
後ろの座席に座る人物が席と席の隙間から手を突っ込み、何故か持っていた保冷剤を紫呉の首筋に添える。苧環紫呉という少女は寝坊助のようだ。
「へぴゃっ!?」
すると、妙なツボでも押されたのかという程に奇妙な声を上げて、背筋を固くのばしながら目を覚ました。何事かと周囲を見回す紫呉に隣席の少女が声をかける。
「おはよう紫呉、シートベルトして下さいって」
「あ、うんおはよう千花」
茶髪の少女千花は柔らかく微笑むと自分の席に腰を落ち着けて、紫呉もシートベルトを固定しつつ同じように座り直した。
暫くして対太陽光フィルターを通して少し曇っている窓に目的地が映る。これはコロニー名称L1-ETAPC-03R、第一ラグランジュ点に存在するETAPCが三番目に着工した居住用宇宙コロニーであり、最後のRはResidenceの意である。その形状は、中心軸となる柱が居住区画である球体と農工業区画であるリングの束、そして発電施設のより大きく薄いリングを貫いたバナール球と呼ばれるスペースコロニーだ。その軸が自転軸だ。軸の先端には長距離通信用の機器や隕石迎撃レーザー砲台等が設置され、少し手前には十字プロペラのような大型スタビライザが存在する。
球体内壁、軸を惑星の自転軸とした場合における赤道上に居住用の陸地が帯状に広がる。その幅は球直径の3割程であり、そこから先は遠心力による疑似重力方向と地面の角度が大きくなり、何らかの方法で自ら重力を発生させている重力生成装置でその広い範囲をカバーするのは困難である。そのことから重力的に不安定なエリアは居住区から順に極地に向かって集光窓、ETAPCの施設が並ぶ。緊急時にはその施設群に直接隣接する極点に刺さった軸の繋ぎ目から直接港へ向かうことになる。
現在人口は5000人程度であり、ETAPCの職員を含めても6000人未満だ。入植地としてのテストケースである以上、多くのキャパシティは求められておらず、これより得られたデータを基に更に大規模なものを建造していく予定だ。
やがて減速を始めた宇宙船E-264便は中心軸付近にある宇宙港へ接近していく。放たれたレーザーを受け取り手動操縦で入港すると、停船した後壁際からチューブが延びてきて出入り口のハッチに接続される。チューブ側の気体状態が正常であることを確認したコンピュータが双方のエアロックを解放させて、船内とコロニー内部を繋ぐ通路が出来上がった。この時点で0.2G程度の微重力が生じている。
微重力が安定すると軸内部の通路を辿り、球体中心に位置する場所には球体上の空間が広がっている。ここには地上部分に向かう軸地上間エレベータが各4つ通る支柱が等間隔に12基あり、軸方向の出入り口と壁面に張り付いた売店が幾つも存在し、慣れない人には不可思議な光景だ。
エレベータに乗り地上に向かう間、徐々に重力が増してゆき最終的に1Gまで増加する。この重力制御システムはETAPC独自の物であり、他組織が建造したコロニーの重力生成装置ではこのような細かい作用は不可能だ。VAの主機関にも使用されているこの技術について詳細は公開されておらず、現在VA全体を各国が製造できない最大の要因となっている。
1から12迄ナンバリングが施された内の1番支柱エレベータに駿河灘高校の生徒たちが乗り込み地上へ向かった。
1台のエレベータに全員が乗り込むことは不可能であることと、軸上にまだ残るメンバーも居ることから少人数ずつ地上に向かっていった。
紫呉が千花と一緒に乗り込んだ時、背後から1人の少年が追い付く。彼は掌でお手玉のように保冷剤を弾ませて悪戯めいた笑顔を浮かべていた。
「よう紫呉、目は覚めたか?」
「あーー!! さっきやったのはお前か仙之!」
常温で溶けだし、流動的に形を変えるそれを玩ぶ仙之と呼ばれた2人より背が高い黒髪短髪の少年が肯定するように鼻で笑う。
「もう紫呉も水崎君もそんなことより、このエレベータだんだん重力が増していくんだからしっかり捕まっていないとだめだよ」
「む、金澤悪い」
彼のフルネームは水崎仙之という。
高強度の透明な素材で壁面の大部分が窓になったエレベータ。腰ほどの高さに金属フレームが通っており、それに沿って手摺が出入り口を避けてC字状に設置されている。
それを掴んだ3人が眼下を見下ろすと、数百メートル下に地平線の存在しない帯状の大地が見える。様々な建造物に交じって、人工の川や雑木林が天然に近しい世界であると主張するが、狭い土地を有効活用するためにやたらと角張っており作り物めいた風情を強めている。
「あ、あそこ!」
「ん?」
眼下を見下ろしながら紫呉が指差した先には大きなスタジアムが1つ。
「紫呉、あそこがもしかして」
「会場……だね」
「でけえな、町1個は入るだろあれ」
これから行われる戦いに思いを馳せてか、3人は一様に大きく息を吐く。
「まさか、紫呉はともかく私と水崎君もレギュラーに選ばれるなんて思ってもみなかったよ」
「おいちょっと待ってくれ! 俺そんなに弱いか?」
「千花はいいんだよ千花は。それより仙之は私たちの足を引っ張らないでね?」
「うっせーよ! 紫呉こそ寝過ごして遅刻するんじゃねーぞ」
「……今度はこっちから冷やしてやる」
「あぁん!?」
「おぉん!?」
何故かいつも言い合いになる2人の変わらぬ様子に、振り回されるばかりの千花が溜息をつく。いつものことだからと、間に入ることもしない。2人の言い合いが戦闘スタイルのかっこよさにシフトしたころ、エレベータが減速を始めてやがて造られた大地に接地した。
エレベータを降りると、先の球体空間と異なり、地球上で散見する大型駅構内のようなスペースに出る。そして商店や休憩室がある広いロビーで続々と集まったチームメンバーの点呼を1年生クラス担任を兼ねた養護教諭が行った。
「皆さんちゃんといますね~それではバスに乗りますからついて来てくださーい」
黒いフレームの野暮ったい眼鏡を掛けた彼女の指示に従い、バスターミナルで待機していたETAPCロゴのバスに搭乗して目的地へ向かう。
コロニーで運用される乗用車に内燃機関を持つ物は殆ど無く、あってもあくまで補助的な物だ。その為これも電池式である。大気の二酸化炭素は核化学的に酸素に戻して住民の窒息を防いでいるが、仮に運用する乗用車が片っ端から化石燃料のみで走行した場合酸素供給が追い付かなくなる危険性があることから規制がかけられている。
そうして彼らは本大会中に最も世話になる施設へ向かった。
バスが向かった先は会場のスタジアムではなく、各チームの拠点になる宿舎だ。コロニー1つに付き4チームが参加し、それぞれに1つずつ割り振られる。12番と1番支柱のちょうど中間位置に会場があり、その正反対にはETAPCの施設がある。この2つと拠点4つ、計6つが等間隔に並び、もしエレベータ等の構造が邪魔をしなければ望遠鏡で頭上の大地にいる別チームが覗けるはずだ。
紫呉たちが泊る拠点は会場から12番支柱の方向に最も近い場所である10番と11番の間だ。内径約7.64km、内径円周24kmの大地で支柱から拠点までの距離は4km。それだけの距離を走ると周囲の雑木林に溶け込むように緑系統の色合いに塗装された建造物が視界に入る。
VAがロボット物のSF作品に出てくる兵器のような出で立ちだからだろうか、スポーツ選手の宿舎にしてはやけに実戦的な構造をしている。まず全体が空堀と有刺鉄線に囲まれそれを挟むように密度の高い雑木林が茂る。入り口はVAを搭載できる大型トレーラー1台が通れる程度の広さで、門両脇には中身が空の小型トーチカ。入ると更地が広がり、ある程度柔らかく、地雷の埋設もできそうだ。入って正面に管制塔染みた建造物が付属した建物、右手側には個室が詰まった宿舎、左手側には蒲鉾の様なVAガレージが建つ。全ての建物には被弾時に外殻をパージして被害を軽減するように多層になっている。
「あったー!!」
真っ先にガレージに入った紫呉たちの前にVAが6機立ち並ぶ。それぞれは胸部コックピットハッチに合わせた高さに金網の足場が渡されていて、建築現場のような階段を上って搭乗できる。
ガレージ正面の大扉から見て左右に3機ずつ並び、左手が2年生の機体、右手が1年生の機体だ。右手側最前列の機体は大半がやや赤みがかかった白い塗装で、肩や胸部など一部が濃い赤色をしている。走り出した紫呉は白い機体のコックピットめがけて喧しい金属音を響かせながら階段を上る。そしてスライディング染みた動きで機内に飛び込んだ。
「いだっ!?」
当然のように勢い余って操縦席周りの何かに激突した。痛む腰を擦りながら操縦席に腰を落とし、スリープ状態だった機体システムを起動させる。するとハッチが閉まり、コックピット内のスクリーンにガレージ内の景色が映し出された。操縦席正面つまりハッチの裏側を含めた壁面が大型のメインスクリーンとなっていて、左右と頭上に中型スクリーンが存在する。これらの間を埋めるように細長い小型スクリーンがあり、同様の物が足元と背後に張られている。
メインスクリーンと左右スクリーンの間に存在する小型スクリーンは通信用画面も兼ねており、紫呉が操縦機器を確認しようとしたところでそこに千花と仙之の顔が映し出された。2人ともそれぞれの機体コックピットから繋いでいるようだ。
『紫呉! 本物だよ! シミュレータ通りのカレンだよっ!』
「こっちも! 凄いよ、本当に……ちゃんとサザンカだ」
『こっちのスプリットも問題無いぜ』
シミュレータで作成した機体は、その構成データをETAPCに送っておくとこのように実物が各拠点に用意される。その替えパーツも豊富に用意され、更に申請しておけば別の種類でも用意が可能だ。特に武装を多く注文する選手が多く、申請可能なパーツの種類上限全てが武装という者も居る。
武装に使用される弾頭は弾性係数の低い合成ゴム弾、ペイント弾等であり、あくまでスポーツであるとして実弾は用意されない。VA用武装の口径は彼らが国連と協議して設けた国際法上既存のあらゆる兵器とも互換性が無い物でなければならず、合致する弾頭の生産も禁じられている。
紫呉たちが呼びかけるのは、機体情報と共に送信しておいた機体名称であり、パーソナルカラーやエンブレムと共に反映されている。但し、カラーは最初に汲み上げられている機体分にしか施されていないため、最終的にパッチワークになってしまった選手が偶に居る。
『ここから始まるんだな、俺の伝説が』
彼にとって初めて自分の人型ロボットに乗れたのだから、興奮のあまり痛いセリフを吐いても仕方がないだろう。しかし紫呉はそういう点を突く事が好きな少女だ。
「なーにー? 私とやりあって1度も勝ててない男がどんな伝説を作るって?」
『ぐっ……偶に大破判定まで持って行けるし、というかU-15日本シミュレータ大会優勝者基準で言うんじゃねぇ!』
シミュレータで行われる大会は本大会の予選だけでなく、個人や地域、国家主催の物がある。その中の一つで紫呉はトップランカーなのだ。
『大丈夫ですよ水崎君! 2年の先輩方は3人がかりで紫呉1人に小破判定が精一杯だったんですからそれよりはマシです!』
『むしろあれは弱すぎるだろ……おかげさまでレギュラー入れたけど』
「あれ、というか先輩はどこ行ったの? レーダー見る限り隣の3機はスリープしているけど」
メインスクリーン右上に表示されている、メッシュが切られた円形のエリアには起動状態の自機と背後の2機だけが映し出されている。主電源を落としていればレーダーに映らない。
『先に寝室に行ったみたい。もう寝ようかとか聞こえたような』
『おいおい、レギュラー4人の内3つを1年にとられて拗ねてんのか? いや田路先輩はどうしたんだよ、あの人は一応レギュラーだろ』
「まあまあ、そんなことより序に設定済ませちゃお」
そう言って彼女はメインスクリーンの手前にあるメインコンソールを操作し始めた。横から見ると少し広がったL字型をしているそれは、縦向きの平面に1枚の大きなタッチパネル式コンソールモニタ、横向きの面に左右に分かれるように2枚のタッチパネルが配置されており、その全てにタッチ機能が故障したときのために押しボタンが淵に複数設置されている。手前側にある2枚の画面から更に手前には、スライドして収納出来るキーボードの格納スペースだ。
大きい方の画面――大抵メインモニタと呼ぶ――横にあるボタンを押すと画面中央に「E」と「C」を象ったETAPCのエンブレムが回転しながら現れた。
このエンブレムによって、ECと省略して呼ぶことも多い。
『それもそうだな、エキシビションに選ばれるかもしれないし』
『流石に電力バランスとかは自分でやらなきゃだよね』
「そそ」
それからは通信は繋がっていても作業に集中してしまい、会話が途切れる。
「FCS火器管制感度50%……照準追従性10%……ショックアブソーブシステム70%……脚部サブカメラ5番6番電源カット……よしオールグリーン、余剰パワーをレーダーと電磁フィールドに回す……後は内蔵スタビライザを前傾に+6%してパーツ整合性チェック開始」
エンターキーを押し込み、特に必要性はないがキーボードを収納すると、メイン画面に構成パーツ一覧が表示され始めた。
≪
・EC-H05
・EC-C149
・JVA-A03
・JVA-LG01-N
・EC-R78
No mainframe problem……_
・VA-USA-FCS27-2
・JVA-ST-09
No internal problem……_
・JVA-PB02HW
・JVA-KS-RF11HW
・EC-CC17BW
・EC-MM01BW
No weapon problem……_
Check end, no problem.
≫
上から順にメインフレームであるヘッド、コア、アーム、レッグ、リア。内装である火器管制用コンピュータ、リアフレームに装備されるメインスラスタ。通常の武装装備箇所である両手、右背中、左背中武装。肩と腰、リアフレームにもパーツ構成によっては武装が積めるが、機動性やハードポイントの都合で搭載されていない。
ECと付く名はETAPC製、JVAは日本製、USAは米国製のパーツだ。
全てのパーツ名が緑色で示されて、チェックが終了した。この時赤文字になった場合は何かしら問題が起きているということになる。
パーツリストの表示が閉じると、手前の右側画面に単純な多角形の組み合わせで機体全容を表した平面モデルが表示された。機体のどこかしらに問題が起きたり、ダメージが蓄積すると該当パーツのブロックが通常緑なところ、黄色、橙、赤と以上のレベルが上がるにつれて色を変えて行く。このような用途から、この画面はコンディションモニタと呼ばれている。
現在そのモデルに一切の問題は見当たらず、それを確認した紫呉は感極まって腰を浮かせつつ拳を突き上げた。
「あ痛っ!」
うっかりで機材を壊さないことを祈るばかりである。