光、統べる者 24.
「……あ……あ、あぁ……」
湖洲香の震えを伴った呻き声。
風見も声を失っている。その表情はどこか苦しそうで、ことの外険しい。
状況がよく飲み込めない紅河。何が起きたのか聞こうとするが、この二人のただならぬ気配がそれを拒む。
彼はこの数秒間のことを思い返す。
碓氷刑事の鬼気迫る叫び声……『金色出現! 組対第二の真上! 距離は約十メートル……司令室付近に金色はいます!』……報告の様な物言い、その司令室とやらに向けた連絡だと思われる。
赤黒く変色し黒煙を上げながら崩れてくる天井。
それに目を奪われ、俺は隣の会議室に逃げようとした。
だが、ふわっと逆方向に引っ張られる自分の身体。
風見さんの方へと引き寄せられたそれは、おそらく彼女のテレキネシス。
視界に迫る風見さん、そして湖洲香さん。
湖洲香さんの両足がふわっと床を離れたのが見えた。
それと同時に、その向こうにいた狩野君と栂井さんも浮いた様に見えた。
頭上に迫る崩れた天井、それがピタッと止まった。
複数重なって聞こえて来る男性の声。
驚き、焦り、痛みに耐える様な声も混ざり始める。
俺には良く見えなかったが、多分制圧に当たっていた警官や隊員だろう。
「ここはもう駄目だ! 退きますよ若邑さん!」
「でも……でも!……」
風見さんの言葉、そして湖洲香さんの言葉。
俺はまた引っ張られた。
同時に激しい破壊音。
床が吹き飛ぶ音。
そこを通り抜けて、俺は今、一階下の資料室みたいな所にいる……。
風見も湖洲香も、そして狩野、栂井も、紅河と同じ場所にいる。
狩野は両膝を床に付けた前屈み姿勢のまま何か考え込んでおり、栂井はまだ意識を取り戻していない。
呻く湖洲香の、その肩は小刻みに震えている。
湖洲香のその様子に気が気ではない紅河。彼はとにかく彼女の心情を、精神状態を知りたかった。
もしかしてまたトラウマが起こすパニックに陥っているということはないだろうか。
…ん、んん、違うか? あの時は……
白楼事件、セメントの沼、そこに湖洲香と二人で落ちた時の事。
彼女はパニック状態だったが身体の震えはさほど感じなかった。
この腕で彼女を抱えていたのだからよく憶えている。
『や、や、や……』を呟いているわけでもない。
震え。
何の震えだろう。
確かに湖洲香さんは感情の抑揚が激しい人だ。
よく泣くし。
でもここまでの震えは見覚えがない。
感情の高ぶり……『金色』の出現に……いや、違うな……
悲しみと怒り、震えるほどの……
もしかして警官か隊員の誰かが死んだ……?
「いいえ、紅河君……」
ふと風見が呟いた。
彼女は小さく顔を左右に振って見せる。
どうやら心を読まれているらしい。異常な状況での警護、護る対象の精神状態を常に把握、当然か。
風見が口を開いたのをきっかけに、彼は状況を聞こうとする。
「え、と、じゃあ何が……」
「そう、ですわね……でも……」
しかし紅河の言葉に被ったのは湖洲香の声だった。
それで気付く。風見と湖洲香はテレパシー交信中なのか、と。
湖洲香と風見が視た魂の蒸散。
肉体の死を意味するそれは二つ起こった。
碓氷と、そして棚倉。
限界だったのだろう。
精神力の限界。
テレキネシス戦で疲弊しきっていた二人。
湖洲香、そして風見の悔恨。
その念は湖洲香の方が強かった。
一瞬の判断ミス。
湖洲香は『光の帯』を出さなかったのだ。
もちろん崩れ行く天井には気付かないはずもない。
崩落の中、誰よりも速く周囲の能力者達の動きと対処を察知したのは湖洲香だ。
風見の能力が紅河を護り、湖洲香自身を護り、狩野と栂井をも護った。
床や天井、壁の崩れ行く速度、方向、それに対する風見の『クリーム色』の対処、はっきりと湖洲香は知覚していた。
コンマ何秒かの刹那の所為、それをスローモーションの様に、明瞭に。
使い手の碓氷と棚倉なら自分で防ぐだろう、と思った。
おそらくは風見もそう判断したはずだ。
しかし、潰された。
二人は異常高温に晒され炭化した天井に、押し潰されてしまった。
それと同時に消える碓氷の能力。
崩落仕掛けた床を支えていたそれが、解ける。
それも湖洲香には視えていた。
風見にも当然視えた。
しかし、湖洲香は散り行く二人の魂に精神が硬直したように動けなかった。
風見にはそれをも処理する余裕が無かった。
結果、床は崩落、警備局公安課の警官とSAT隊員は下の階へと雪崩れるように落ちた。
全身打撲や骨折などの重症者は出たものの、幸いにして数メートルの落下、死人は出ていない。
紅河は待つ。
風見と湖洲香の二人がこれから取る行動を。
使い手達の能力を察知出来ない自分が足手まといなのは百も承知だ。
特査の要請の意図、それはこれまで湖洲香と共に行動していた時間の長さの中にあるはずだ、と紅河は考える。
風見と湖洲香の精神感応対話は続く。
二人ともそこは警察の人間、『金色』のマルサンが吹き荒れた状況下でいつまでも悔恨の念にだけ囚われ続けているわけではない。
『私のことはもういいの。クビでもなんでも。だからですわ、解雇辞令の前に栂井さんを、私一人の責任に出来るうちに……』
『自棄を起こさないで若邑さん。私も聴いてしまった以上あなた一人には負わせません。でもね、栂井も狩野も確保対象、せめて白楼に移送を申し出ましょう』
『狩野さんが納得しませんわ。あの子は白楼から逃げたのよ。さっき視せましたわよね、狩野さんがどういう気持ちでここに来たのか。恐いくらいの気迫でしたわ、狩野さん』
狩野の動機。
この警察庁にテレポーテーションした、その理由。
狩野は警察庁に現れた直後、栂井に危害を加えた者を探した。
誰がやった! と大声で叫び、『光の帯』をばらまいて栂井失神の加害者を探した。
彼の『青緑』は湖洲香の頭上にも伸びた。
その時に、逆に湖洲香が読み取った思念が『栂井翔子を失いたくない』という念だった。
その念は、湖洲香にも意外だった。
まるで家族を守るような、実の妹を慈しむような念。
狩野には兄弟がいないことや、第三ラボでの教育生活の中では栂井とほとんど会話をしていなかったこと、それらを湖洲香は記録書類で見ている。
言葉では“不気味”とか“宇宙人”とか罵るような言い方しかしない彼が、本心では、嘘をつけない精神の中では栂井翔子を大切に感じていたのだった。
まさに意外。こんなテロ騒ぎの状況下だが、湖洲香は感動すら覚えた。
『嬉しかったの。栂井さんを大切に想う人がいたのよ、こんな身近に。今の狩野さんなら逃げたりしませんわ。ちゃんと栂井さんが目を覚ますまで看病してくれますわ』
『ええ、それは私もそう思います。ですが、刑事局関連ではない医療施設に彼らを送り出すなんて賛成しかねます』
『だから私の一存なんですわ。今しか出来ないの。お願い、私の言う通りやらせて、風見さん』
狩野の栂井に向けた意外な気持ちには風見も少なからず心を動かされた。
しかし、だが、しかし……
『譲りませんわ 譲りませんわ 譲りませんわ 譲りませんわ……』
強情さ、これも魔女並みか。
赤羽根博士も事ある毎に言っていた。
コズカの頑固さは石でも割れない、と。
しかし、狩野と栂井が置かれている状況は情に流して良いような生易しいものでは決して無い。
ならば、条件を付けるか。
あそこなら任せられそうだ。
警察の立場から見て最も遠く、そして近い医療施設。
刑事局関連ではなく、だが県警本部の特殊部署に個人的なコネクションを持つ場所。
『こうしましょう、若邑さん。赤羽根博士にご協力を仰ぎ……』
「まあ! あそこに!?」
いきなり声を漏らした湖洲香に、紅河は思わず視線を向けた。
声のトーンにほんの少しではあるが明るさが乗った気がする。
『……という事でどうでしょうか』
『そうですわね。あそこは警察へのガードが不思議と固いから、逆に安心かしら、狩野さんも』
『よければ、私は県警に電話を入れます。若邑さんは狩野へ話して下さい』
湖洲香は狩野に近寄り、考え込んでいる彼に身を屈ませて優しく声を掛けた。
「狩野さん、平気?」
おずおずと顔を上げる狩野。
「だ、大丈夫、なんだよな、房生……」
その彼の言葉に湖洲香は改めて確信した。
人を思いやれるなら任せられる。栂井を任せて大丈夫だ、と。
「うん。あれは絶対房生さんの手じゃありませんわ。そのことは私と風見さんが決着付ける。許せませんもの、ご遺体であっても人の手を持ち出すなんて。」
「そう、か……」
「それよりね、狩野さんにはお願いがあるの。」
「お願い?……」
「テレポーテーション、出来る?」
「え……え?」
…なんだ? 赤い魔女、俺を捕まえるんじゃないのか?
「無理かしら。栂井さんを連れて行って欲しいの。都筑院長の民間総合病院に。」
「え、あ、や……それ、どこだよ……俺、逃げるかも知れねぇぞ、飛んだら……」
「あら、栂井さんを置いて?」
「え?……」
…そうだ、栂井、こいつをなんとかしてやらないと……
「と、栂井は、危ないんだこのままじゃ、こいつ十一歳だし、失神は良くないんだ、子供には、脳の、酸素が、えと、なんだ、血流が……」
「そうですわね。私も知ってる。博士に習ったのよ。だから急がなきゃね。」
「どこ、あ、ええとそれ、良い病院なのか? 脳の、こいつの、治せるのか? けどどうせ警察の病院なんだろ?」
「都筑医院は警察は関係ありませんわ。あのね、私も指名手配された時にこっそり入院したのよ。博士と一緒に。」
「指名手配? 赤い魔……若邑さんが?」
「そうですわ。私、犯罪者も経験しているの。可笑しいでしょ。」
いきなり困惑を誘うような犯罪者というパワーワード。
赤い魔女が一時期刑事局と対立していたのは知っているが、犯罪者という響きは妙に生々しく狩野には感じた。
しかしその湖洲香の発した言葉が、なぜか彼に不思議な安心感をもたらす。
正義は立場が変われば方向が変わり、更に必ずしも一方向に向かうベクトルではない。では自分の正義とは一体何なのか。どこに向かえばいいのか。
これまで狩野が考え悩んできた命題に被る、答えの出ない難問。
犯罪者という言葉が正義と対になる言葉だと考えた時……美馬たち脱走者からだけでなく、それが警察の湖洲香の口から出た。
不思議な安心感が少しづつ勇気に変わって行く。
「それより、出来ますの? 瞬間移動、栂井さんを連れて。」
「で、出来るよ、馬鹿にするな、スピリウルの使い手だぞ、俺は。」
「結構ですわ。じゃあ私に精神感応して。場所を伝えますわ、民間総合病院の。」
狩野は『青緑』を湖洲香の頭上に伸ばした。
…なんだ、すぐ隣の県か。男木島より全然近い。楽勝だ。
携帯電話を切った風見が言う。
「若邑さん、狩野、赤羽根博士と連絡が着いた。受け入れるよう連絡して頂けるとのことだ。その際だが、人目のつく場所にテレポーテーションは不味い。病院側は入院していた山本光一が能力者だったということすら知らされていないからな。」
驚く狩野。
山本光一とは奈執が言っていた包帯の男の正体のことではないのか。
「そこで、だ、テレポーテーションの着地場所だが、院内駐車場の西側の隅に廃棄物集積所があり、そのすぐ裏に三メートル四方くらいの囲まれた空きスペースがある。そこに飛べ。」
「飛べ、って……どうせ逃がさないための罠を……」
「違う! いいから聞け。その空きスペースに人の身長くらいの高さの物置小屋が設置されているそうだ。物置小屋の中には都筑博士と赤羽根博士の用済みになった書類が保管されている。他の院内従業員の目には触れさせたくなかった書類らしい。その空きスペースに入る鍵は博士が知る限り四年以上開けられていない。つまり二人の博士以外は立ち入れず、院内では人目につく可能性が極めて低いとのことだ。防犯システムも無く監視カメラからは死角だ。」
「あ、待って……ああ、これ、か……」
狩野の瞳が小刻みに痙攣している。
彼のクレヤボヤンスが捉えたその空きスペースは三方がコンクリートの壁、一方が鉄の扉、そこに錆びた南京錠が掛かっていた。
「そのスペースに飛んだとして、鍵は? どうやって出んの、ですか、風見さん。」
「壊して良いそうだ。解錠後に扉が錆びついて動かない場合でもお前なら簡単だろう。ただし次元変換による分断はやめておけ。あの切断面は怪しまれるからな。」
「良いそうだ、って、増えるんじゃ、器物損壊とか、罪……」
「博士が良いと言ったんだ。ごちゃごちゃ言ってないで早く行け。私の気が変わらないうちにな。」
狩野は栂井に視線を落とした。
そして抱き抱える。
…重てぇな、こいつこんなに重かったのか。
そして『青緑』のテレキネシスで腕の負担を軽くしつつ、自身の身体と栂井を包み始めた。
こちらを見ている風見、湖洲香、そして紅河が歪み出す。空間の揺らめき。
「逃げませんから、俺。」
思わず口をついた言葉。
その言葉が三人に聴こえたのかどうか、第二階層に入る間際の狩野自身にはよく判らなかった。
狩野のテレポーテーション後、風見から取り繕いの表情が完全に消え去った。
死者を出してしまった惨状は大問題だが、風見の役目、最優先の目的はそこではない。
先の湖洲香との精神感応で垣間見えていたもの。
…若邑特査員の奈執に対する激昂、こんな凶暴な『赤』の蠢きをどう止めろと……
意識空間には複数の思考が立体的に散在し、その優先順位を争うかのように漂い浮き沈みを繰り返す。
碓氷と棚倉の死を悔む念、栂井の手当てを急ぎたいという焦りの念、加えて湖洲香の精神に渦巻いていたのは奈執の所在を知りたいという念だ。
更にその裏側に貼り付いている念、それに風見は震撼する。
房生さんを意識不明にさせた……狩野さんが感じた恐怖ってどんなかしら? 奈執さん
柴山さんを意識不明にさせた……栂井さんの夢の重さってどのくらいかしら? 奈執さん
栂井さんが脚に銃撃を……銃弾の熱、皮膚や脂肪の破壊、あの子の痛感神経と同じ痛み、心の準備はいい? 奈執さん
栂井さんは痛みに耐えて微笑んだ……私を気遣ってさえくれた……あの子は保安課とSATの危機を食い止めた……でも気絶させられた……誰のせいなのかしら? 奈執さん
指……腕……大切なご検体……盗難だとか器物損壊だとかそんなことじゃないの……奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 紫 奈執さん 奈執さん 奈執さん 紫 奈執さん 奈執さん 紫 奈執さん 紫 紫 紫 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 紫 奈執さん 紫 奈執さん 紫 紫 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 紫 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん 奈執さん……
そうでしたわ……
そうそう……
博士を……
私の大事な博士を……
博士を意識不明にさせましたわね……覚悟は出来たということかしら? 奈執さん
それで?
どこ?
どこにいるの?
今どこにいるんですの?
どこに? どこに? どこに? どこに? 奈執さん どこに? どこに? どこに? どこ? どこ? どこ? どこ? どこ? どこ? どこ? どこ? 奈執さん どこ? どこ? どこに? どこに? どこに?……
理性的な精神感応対話の中に紛れて終始だ。
終始、ぬらぬらぎすぎすと『赤』の精神空間を漂っているのだ。
隠そうともせずに、今も尚増殖し膨れ上がり続ける思念。
風見はある意味感心する。
よく勢い余って能力媒体を暴発しなかったものだ。
耐えに耐えている『赤』、その精神制御に。
これも古見原所長と遠熊所長の厳しい指導の賜物か。
いや、感心などしている場合ではないのだ。
どう抑える?
この『赤』をどう……
「あ……駄目、いけません若……」
風見の透視に映ったのは湖洲香の頭部から滲み出した赤い『光の帯』。何をする気なのかはともかく、能力を使わせては駄目だ。
彼女の前髪がふわっと一瞬浮く。
それを見逃さなかった紅河。
彼の言葉が風見の声に被った。
「湖洲香さん、球の形だと思うんすけど、あとどこです?」
「え?……」
湖洲香の『赤』が止まる。
紅河の質問の意味がよく判らずに意識が逸らされただけだが、止まった。
風見も、何の事だ? と言わんばかりの視線を紅河に向ける。
「この建物の壊れた箇所です。『金色』が壊した状態のこと。」
「え、と……それよりどうして紅河さんがここに来ているんですの? すぐ逃げ……」
「邪魔ですか、俺。自分でもそう思うんですけど、来ちゃったんで、まあ、諦めて下さい。」
…さっきからいるのに今更このセリフ。やっぱテンパってるな湖洲香さん。
「そんな、呑気に……どうして連れて来たんですの風見さん! 今、あの、光一君がいるのに奈執さんの居場所を聞か……」
「俺だって逃げたいんですよ。 だから教えて下さいよ、金色が壊した状態を。」
風見に食って掛かるような目を向けた湖洲香、その彼女の前に割って入る紅河。
湖洲香の目尻が若干吊り上がった。
「もう! じゃあどうして来たんですの!? おしゃべりしている暇ないの! 奈執さんの居場所を聞かなきゃ!」
紅河は斜め上に視線を投げ、ポンっと拳を手の平に当てた。
そして、敢えて呑気を装った調子で言う。
「あ、それもそうっすねぇ。でも湖洲香さんは能力を使えない、と。」
それは、能力を使えない、という部分がゆっくり強調された言い回しだった。
「……すんません、俺、それを忘れていて湖洲香さんに聞いてしまいました。」
そして彼は風見の方を向く。
「風見さん、碓氷さんが『金色出現』と言った直後に天井が崩れましたよね。んで出現場所は十メートル上……て事は半径十メートルの球状、その中心に『金色』、さっきの天井と同じように溶け崩れた箇所が球の表面みたいな形にあるんじゃないかなぁと。まあ憶測でしかないんですけど、マルサンのテレポーテーションってそんな感じの被害を起こすのかなと思ったんです。」
風見の険しい表情に訝しさが加わる。
「……何が言いたいの?」
「って事は、球状に損壊した、その内側はどうなりますか? 単純に考えて崩落するでしょ。床や壁なんかが球状に溶けてなくなったんですから。」
「あ……」
「あ……」
風見と湖洲香が漏らした声はほぼ同時だった。
紅河の言ったこと、その推測の意味が二人にも理解出来た。
「……人質、官僚全員が……」
「……光一君の!」
球状に崩れたのなら誰かがそれを支えないと球の内部は存続出来ない。
しかしながら風見のクレヤボヤンスに映る官僚達は、その魂の光は落下せずに司令室に在り続けている。
確かに金色の能力霊体は頭上の広範囲に渡って展開されたままだ。
見上げるだけでは気付かなかった。
それが、『金色』がテレキネシスで損壊部分を補っている状態なのだということに。
絞り出すような声が風見の口から漏れた。
「た、確かに……紅河君の言う通りみたい……それに……」
これは自分の失態か。
彼の単独行動を許した自分の過失、なのか。
「……それに、金色の能力霊体展開範囲の中に……義継君もいるわ……」




