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小さい頃の夢

「お話なら昼間にでもできるわ。今度の休日に、あなたのご両親に了解を取ってからにしましょう。私たち初対面だし、小さな子供はそう簡単に知らない人とおしゃべりしていいものじゃないもの、そうでしょ?」

少女はまるでミサが要領を得ないことを言っているように笑った。

「オレンジジュース飲んでもいい?のどが乾いてるの。」

「でも、」

「早くして。」

ミサは自分でも気付かないうちにドリンクコーナーにいた。コップを手に取り、ジュースをなみなみと注ぐ。

ミサが渡したジュースを少女は嬉しそうに飲んだ。なんとかしてこの子を帰さないと、ミサはそのことしか考えられなかった。どうすれば、すると、少女は初めて年相応らしい笑顔をみせてミサに語り始めた。

「私にはね、夢があるの。」

少し話を聞いたら帰せばいい。ミサは半分あきらめにも似た気持ちで少女の言葉を聞いていた。

「ケーキ屋さんになって、高校に行って、OLになって、大好きな拓真君のお嫁さんになるの!」

いかにも小さな少女が考えそうなことだ。ミサは少女の高圧的なオーラが一体どこからきていたのか、そもそもそんなものがあったのか、自分を疑った。けれども何かおかしい。

少女のごくありふれたようにも思えるその夢をミサはぼんやりと知っているように感じていた。知っている。でも今はわかることができない。

「でもね、」少女が続けるその言葉にミサはギクリとした。そうだ、私は知っている。おそらく、この少女のことも、そして拓真君のことも。

「みんなだめになっちゃったの。全部あなたのせいで!」

「そう、全部あなたのせいよ。」

淡々とミサを糾弾する少女は意地の悪い笑みを浮かべている。

「拓真君が女の子に興味がなくなっちゃったのも、私が夢をあきらめることになったのも。」

「違う!」

「何が違うっていうの?なにも違わないわ。」

「拓真君がたとえどんな道を選んでいたとしても、それに私が直接関わったなんて単なる妄想だ。人の人生の決定に他人が全面的に責任を負うなんてことありえない。」

「だってあなたは彼に一番近い女の子だったんじゃないの?」

「それは、」

「あなたは世話が焼けて、何より自分勝手で、何もかも自分で捨てた。新しいものを見つけたふりをしてね。いつだってそうだったでしょ。」

一気に感情を放出させるように、ここまで言い終えるとまた少女は無害に見える笑顔で言った、そうじゃない?

「そんなの嘘だ!」

ミサは叫んだ。少女はほほ笑む・・・。時間は止まっていた。

「ほらね、もう何も言い返せなくなったでしょ?」

「・・・・・・・・」

まるで愉快な話でもしているかのように、ショートカットの少女はオレンジジュースの入ったコップを飲み干した。

無邪気な笑顔とともに。それはもう私にはできなくなった笑顔で・・・。

                   *

4時、時計はそう指している。少女の笑顔が見えるのをミサはじっと耐えていた。

いや、もう少女は出ていったはずなのに、少女の存在は消えない。

“今だってそう、あなたはいつだって独りよがり。わかっているでしょう?”3日ほど前の三者面談がミサの脳裏に自然と回想されていた。

ひどく惨めで、・・・言葉にならない。“・・・何度言ったら・・・無理に決まって・・・”それで私は逃げたんだ、“ほら”ミサはほほ笑む。

曖昧なこの笑みは・・・“あなたのお得意技ね”・・・彼女は目をつぶった。

                  *

どれくらいそうしていたのかはよく分からなかった。

だが、目を開けた時には“彼”がいた。少女の気配は既になく、ミサはそのことすらはっきりとは思いだしていなかった。

夢見が悪かった夜から急に朝になったみたいだ・・・。“彼”はミサがそう思ったほどいつもと変わりなかった。

「こんばんは。」


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