第三十二話
燃え盛る炎に肌をチリチリと炙られて、汗をかいてもすぐに蒸発していく炎熱地獄の中、オーバーヒートによってしばらくの間、少女はその場に座り込んで冷却処理をしていた。
人間だった頃、橘花音と呼ばれていたこの少女が桐谷静馬に出会ったのは、今から六年前の出来事である。
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当時彼女が働いていた花屋にアルバイトとしてやって来たのが、初めての出会いだった。
店長曰く、『履歴書と見た目には少々不安はあるが、割と多芸』であるらしいその男の第一印象は、あまり芳しくなかった。
耳を見られたくないらしく、常に耳あてをしており、外せと言っても静馬は聞こうとはしなかった。
他にも、子供を見るとえづく、愛想は無い、時々放心するなど、静馬の業務態度に少なからず不満を募らせていた。
「ねえ桐谷くん」
「どうしました橘さん」
こんな調子でいつも真面目に取り合おうとしない静馬に対して、ムキになっていることを半ば自覚しながらも、花音はことあるごとにつっかかっていった。
食事を毎日とっているのか怪しくなるくらい細い体で、いつも表情が無く、仕事は上手いが人付き合いは極力避ける、といった弱々しい外面的な印象とは裏腹に、静馬がまれに滲ませる雰囲気にいつも店内は戦慄していた。
だが、怖がる周囲とは反対に、花音は一歩前に出てそんな静馬に強気の姿勢をとりつづけていた。そのため花屋の中で、花音は静馬担当という別の仕事を任されるようになっていった。
当初はそれを嫌がった花音だったが、周囲の態度から店員の誰もが忌避する静馬のお目付け役は自分以外に務まらないという現状を改めて認識し、渋々その役割を引き受けることになった。
それから、二人きりの時間は多くなっていった。




