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灰色男と恋わずらい  作者: 榊原啓悠
惨劇の序章
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第二話

 当時中学三年生であった佐条あきらは、幼馴染である麻倉姉妹とその年まで交流を深めていた。一卵性双生児であった麻倉姉妹の姉、香織と妹の彩乃はすこぶる仲が良く、あきらも交えて幼稚園の頃から付き合っていたのだ。

 佐条家はいたって平凡な核家族であったが、麻倉家は父親が科学者、母親が精神科医と、両親ともに秀才であり、家庭も裕福であった。そんな家に生まれた麻倉姉妹と佐条あきらの間に友情が育まれたきっかけは、姉妹の仲違いであった。野良犬を棒で叩いた姉の香織に妹の彩乃が可愛そうだと口ごたえをし、それをきっかけに口論に発展、自宅でも幼稚園でも口を聞かなくなった二人の仲を上手く取り持ち、最後には仲直りをさせた功労者であるあきらは、その後も姉妹と友好関係を築いていったのだ。

 それから十一年たってあきらたちが中学三年になった時、その事件は起きた。


 生まれ持った性質か、それとも彼女の両親の教育が悪かったのか、あきらにはもはや知るすべは無いが、


麻倉香織は殺人を犯した。

 

被害者は同じクラスの男子生徒で、双子の姉である香織に以前から好意を寄せていた。彼はある日、意を決して香織を校舎の裏に呼び出し、想いを告げたという。しかし香織は断っただけではなく、呼び出しをした態度が気に入らないと言い放ち、その後数時間にわたって少年を痛めつけ、殺害した。

このことをあきらと彩乃が知ったのは、それから間もなくのことであった。妹の彩乃と違い、情緒不安定気味なところが見受けられていた香織だったが、まさか殺人をするだなんて、というのが周囲の人間の反応だった。しかし中にはやっぱりな、というような反応を見せる人間もおり、やがてそれが周囲に伝染していき、次第に妹の彩乃や、親友のあきらまでもが周りから敬遠されがちになっていった。

当の香織は、僅か十五歳にしてあまりにも酷たらしい事件を引き起こしたこともあり、美少女殺人鬼の触れ込みで各報道機関でしばらくネタにされていた。しかしそんなちょっとしたブームも過ぎ去り、ほとぼりが冷め始めた時、精神病院に入院をしていた彼女は錯乱を起こし、階段から落下、病院に勤めていた彼女の母親に看取られて、麻倉香織はこの世を去ったのだった。


死んだ人間を悪く言ってはいけない、そんな常識を周囲の人間が持っていなかった訳ではないのだろう。しかし麻倉香織の所業はそんな彼らの良心を黙らせるのに十分すぎる威力を発揮していた。敬遠されるだけでは済まなくなった麻倉家の三人はその年のうちに隣町に引越し、彩乃は本来の志望校とは違う学校を選択した。佐条あきらもそんな彩乃を支えるために志望校を変更し、晴れてこの春に同じ高校に入学した。本来あきらにとって学力的に難しい高校選択であったが、それをはねのけて合格を掴んだのは、ひとえに彩乃への友情からであるといえるだろう。それゆえに、彩乃にとってあきらは単なる【お友達】では無くなっていた。

 



そのような事情があるにも関わらず、わざわざあきらのための写真を撮るためだけに因縁の街に赴いた彩乃に、あきらは感謝こそすれ、疑うことは一切無かった。

 入学祝いに彩乃が買ってくれた新品のヘアピンを撫でながら、あきらは遂に幽霊屋敷の前に到着した。半拍遅れて彩乃も横に並び立つ。彩乃の顔を覗き込み、心を決め込んだあきらは、屋敷の正門の戸に手をかけた。鍵はかかっていなかったという彩乃の言葉通り、たやすくその門は開かれ、中から漂ってきた異臭にあきらは顔をしかめた。

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