第二十話
屋敷の地下で目覚めた直後、その場に居合わせた白衣の男たちを肉片にして、香織はシャワーを浴び、部屋の隅に置かれた自身の荷物の中から携帯電話を取り出した。ここまでほぼ思いつきだけで行動していたが、蹴散らした肉片の中に父親と思しきソレがあったことに気が付き、自分と同じように父親を嫌っていた妹を呼び出すことにした。
呼び出された彩乃は、屋敷に入る前から恐怖に震えていた。そんな震える妹を抱きしめようと歩み寄る香織は、しかし父を殺害したことを指摘され、ふと気が変わった。
慰めるより、いじめる方が面白そうだ、と。
まず手始めに右腕を
次に左肩を
耳を
右の足首を
喉を
そこまで痛めつけて、もはや悲鳴を聞くことも叶わなくなってしまったことに気付いた香織は、泣く泣くこの遊戯を締めくくることにした。
愛しい妹を森に葬り、花を添える。他に着るものが無かったため、サイズが同じである彼女の着ていたブレザーを着用して、喪服の代わりとした。
彩乃を殺した、と言って一番悲しむのは誰だろうか、と香織は考える。両親は早々に候補から外した。娘をいたわるような性格ではないだろう、という確信があったからである。それから間も無くして、香織は結論にたどり着いた。
果たして佐条あきらである。
しかし彩乃と同じ方法で殺してしまうのは些か芸に欠ける。電話を呼び出そうとして、香織は動作を中止した。せっかく無二の親友をこの手で殺すのだ。趣向を凝らすのがせめてもの礼儀だろう。くつくつと笑いながら、香織は森へと歩き出した。
「一日綾乃になりすまして屋敷に誘い出し、彩乃と同じ場所に埋める」
計画と呼ぶには穴が多いが、案外勢いで何とかなるだろう、と香織は夜の森の中、笑った。
その思いつきがほぼ達成され、屋敷に佐条あきらを招き入れるも、思わぬ第三者の介入によって殺害を失敗し、しかし今ではその第三者に恋慕の情を抱いてさえいる。これまでの自分の立ち振る舞いを思うと、その行き当たりばったり具合に香織は笑いがこみあげてきた。
公園で鼻歌を歌いながらくすくすと笑う少女が、僅か三日ばかりのうちに父親や妹をはじめとして三十人近い人間を肉塊に変えてきたことなど、余人には知るべくもない。




