コンプレックス爆発五秒前
私は今をときめくトップモデルのリカ。小さい頃から可愛い可愛いと周りから言われながら育ち、生意気なお子様になった。本当に小さい頃は、世界は私を中心に回っていると思っていた。そんな中、幼稚園からの幼馴染、ユウ君とナオ君に淡い恋心を抱いていた中学生時代。もちろん中学校でも私は、みんなの憧れの的。それはもうモテた。近隣の中学高校生からも、沢山告白された。だから私は、二人が私を好きになることを疑わなかった。
しかしなんと、ユウ君(男)とナオ君(男)はいつのまにか恋人同士だったのだ!
こうして私は、長く伸びすぎた天狗の鼻を折られプライドを粉々にされた。どうして男に走るのか?!貴方達の近くには、こんなに綺麗で美人で成績優秀の、それはもう連れて歩くには最高の女が近くにいるじゃない!と怒った。それはもうのた打ち回る位に、怒った!心の中で。だって態度に出すのは私のプライドが許さない(泣)百歩譲って、まだ他の女にとられるなら我慢できた。男同士じゃ、間にも入れないじゃない。………それに一番悲しかったのは、仲が良かったのに、なんの相談も付き合うようになったよ~的な報告もなかったこと。そうしたら私だって、素直に二人を祝福したと思う。……たぶん。
とにかく二重にプライドをズタズタにされた私は、高校進学と同時に住みなれた地元を離れ東京に上京した。そして、モデルにスカウトされ今に至る。
「りかちゃ~ん、どうしたの?眉間に、し・わ♪出来てるわよ??」
鏡越しに私の顔に出来てるシワを見て言ったのは、私のヘアとメイクを担当してくれているアヤさん。私がモデルの世界に入った時からのお付き合い。初め右も左も分からなかった時から、礼儀作法とか教えてくれてたり、心構えとまあ色々教わって、この業界で一番信頼しているのが彼?(彼女?)だ。少しウェーブの掛かった長めの黒髪を首の後ろで緩く縛り、細身で長身の男性が首を傾げている。目元の黒子な艶めかしい。自身もモデルで十分食べていけるくらい、美形だ。そして、オネエだ。(と私は思っている。)
「う~ん何でもない。何か久しぶりに懐かしい夢見たから、それを思い出していたの」
「懐かしい夢を見て、眉間にしわなんか寄るかしらぁ?本当は何かあったんじゃないの?」
あいつとか、あいつとか、あいつとか。指折り数えて、いわく付きのカメラマンやアシスタントやプロデューサーの名前を上げていく。私がその人たちにセクハラされたと思い込んでいるらしい。よくも私の私の妹を!!こ・ろ・す★と青筋立てて怒っている。綺麗な顔が、台無しだ。
「いや、本当に何でもないの。情けない話なんだけどね、その夢って言うのは、私が片思いしていた 相手に振られる、っていう内容なの。だからちょっと沈んじゃった。恥ずかしいよね、今もまだ引 きずってるなんて」
実際には彼らに告白すらしていない。放課後、ユウ君とナオ君を探していたら校舎裏で、二人がキスしてピー(20禁)している場面を目撃しただけだ。はい、食い入るように見てしまい、余計にトラウマになった。私も変態です、すみません。その情景を思い出し、また気分が沈んでいく。
「え~やぁだ何それ!その甘酸っぱい初恋の思いで!可愛いじゃない♡リカ♪♪♪あなたでも、振られるなんてあったのね~」
後ろから抱きつかれ、頬をすりすりされる。彼に性別の壁を感じないず、実の姉のように慕っているので、抱きつかれても男にされるような下心は感じない。むしろ荒れた心が少し癒される。
私の顔に笑みが浮かんだのを見て、アヤさんも微笑んだ。
「よかった。あなたは笑顔の方が、似合うわよ。そ・れ・に、今のあなたに惹かれない男なんて、いないわよぉ♡自信もって♪」
抱きつかれたまま、アヤさんの手に顔を固定される。鏡に映る私は綺麗だ。それはそうだ。この体型をキープするのに、食事制限をしたりジムに行って運動をしたりそれ相応の努力をしている。メイクだって、アヤさんに教えてもらってプライベートでも気を抜かない。女性からも男性からも私は支持を受けている。だから、私が綺麗なのは、知っている。なのに私は、いまいち自信が持てない。
「ね、あなたを綺麗だって言う、私を信じて」
アヤさんが、私の耳に口を寄せて囁いた。
「あなたは綺麗。でもそれだけじゃないのよ?中身だってステキ。まるで、子猫ちゃんみたいよ。そろそろ近づいてきて、手を出すと、引っ掻いて逃げていく。でも、壁から様子をうかがって、また近づいてくる。……そんなあなたに、私は惹かれたのよ」
アヤさんにそう言って貰えると、外見だけじゃなくて中身まで綺麗になれた気がする。ふ、と気がつくとアヤさんの唇が目前に迫っていた。
「り、リカ!!」
ダンッ!!という大きい音を立てて、部屋の扉が開かれた。慌てて入ってきたのは、マネージャーのクロサキさんだ。この人が町を歩いていた私を、モデルにスカウトした人なのだ。肩を怒らせながら、こちらに向かってせかせかと歩いてくる。目を隠す伸びすぎた黒髪に、黒ぶちの眼鏡。ちょっと体には大きすぎるんじゃないか、と思うスーツを着ている。クロサキさんが近づいてくるのを見ると、アヤさんはすっ、と離れていった。
「あ、アヤさん!いつもいつもリカにベタベタ触って!こんなところを誰かに見られでもしたら、どうするんですか!」
「あら、少し女同士でおしゃべりしてただけじゃない。それをそんなに目くじら立てていやねぇ」
「貴方は、男でしょう!」
「きーきーうるわいわねぇ。あんた男でしょ?小さいこといちいちほじくり返してたら、リカに嫌われちゃうわよっ」
捲し立てるクロサキさんを面白そうにからかっているアヤさん。もう見なれた光景だ。私とアヤさんが話していると、クロサキさんがその都度間に割って入ってくる。アヤさんは、物凄く楽しそうだ。この光景を見て、また気分が沈んでいく。
もしかしたら、アヤさんはクロサキさんのことが好きなのかもしれない。だから、クロサキさんを嫉妬させるためにわざと私に近づき過ぎな距離で話したり、スキンシップをするのかも。
クロサキさんはクロサキサンで、もしかしたらアヤさんが好きで私が彼に近づくのを嫌って、毎回アヤさんに喰ってかかるのかも。この業界、ゲイなんか珍しくもないし。
(私って、最悪。)
アヤさんはいいお姉さんだと思っているのに、アヤさんから向けられる好意も疑っている。クロサキさんだって、本当に私のことを思って言ってくれているのかもしれなのに。
だから私は、捻くれてるし性格は最低なのだ。私がいいのは外見だけ。
「っ、ごめんなさいっクロサキさん!それより、もう時間もないしスタジオ入りましょっ」
勢いよく椅子から立ち上がって、下からクロサキさんをのぞき込む。うっとおしい髪の隙間から見える頬が、微かに赤い気がするけど気のせいだろう。適当に謝って、クロサキさんの手を取って部屋を出ようとすると、
「いってらっしゃい、頑張るのよ!」
とアヤさんが手を振ってくれた。クロサキさんも、私の手をぎゅっ、と握り返した。
(うん、元気出た)
芸能界なんて、容姿が綺麗な人なんて、五万といる。私だけが特別じゃない。でも私に誇れるものは、外見しかない。だから、他の人になんて負けない。努力なんて、いくらでもする。そうして頑張っていれば、いつか私のこと本当に、好きになってくれる人が1人でも現れるかもしれない。だから、頑張る!きっといつかハイスペックの彼氏をゲットしてやる!!
実は私のことが好きで、ストーカーまがいの行為をされているなんてことは、その時の私には知る由もなかった。(しかも複数!!)
「リカの唇を拭ったティッシュ、ゲット♡リカ、あなたは私だけのものなのよ」
偽オカマがいたり、
「リカ、君のことはいつも見ているよ………」
私の部屋に盗聴器と、盗撮器を設置しているマネージャーがいたりすることを。