GAME START
―青年は銀色の部屋に立っていた。
部屋には何も物は無く、殺風景だった。
どうやってこの部屋にきたのかは分からない。
意識はきちんとしているのだが…スタートを押すとここにいた。
すごくぶっ飛んだ説明だが本当にこれしか説明できない。
このゲームのキャッチフレーズは「まるでゲーム内にいるかのような一体感!!」だった。まさかここはゲームの中か??だとすればかなりすげぇ!と彼は思った。
辺りを見渡すと周りには自分と同じ様な青年にヤンキー、女子高生、サラリーマンなど20人くらいの人がそこに立っていた。
皆、部屋の中を歩き回ったり周りを眺めてみたり個々の反応はどれも違うが、この状況を理解しているようなのは一人も見受けられない。
彼らも彼と同じ様にこの部屋にどうやってきたのか分からないのだろう。
突然女性の声が響いた。
「皆さん。こんにちは」
銀色の何もない部屋のどこにそんな装置があるのかは分からなかったがホログラムのような3D映像が部屋の真ん中に映しだされる。
赤い長い髪の綺麗な女性が見たことのない青い乗り物と共に現れた。
青い乗り物は新幹線を縮めたような形でボディは青くアクリルのようにピカピカ光っている。
そしてそれは宙に浮いていた。
キタキターー!!
これこそがゲームの醍醐味だ!!
見たことのない乗り物に綺麗なおねぇさん!胸が高鳴った。
彼女はRPGでありがちの似合わないゴテゴテのサングラスをしており表情は伺えなかったが無表情に見える。
白い肌にわざとらしい赤い口紅をしている。
赤い口紅は赤い長くまっすぐな髪の下でよく似合っていた。
未来型のゲームだからおねぇさんも未来系のファッションを着ていると考えれば全てが納得できた。
「ようこそ。FLATへ。」
と女性は乗り物の上で直立不動のままそう言った。
その声には感情は一切乗っかっていなかった。
「はじめまして、私は案内人のケビーです。FLATには15の種族と17の職業が存在しております。まず皆さまには種族と職業を選んでいただきます。」と彼女は淡々とまるでスピーカの様だった。
「みなさんの右側の柱に手を置くと画面が起動します。そこから自由にお選びくださいませ。」と彼女が言うと右側に青い柱が現れた。
「なお、種族と職業を選ぶとやり直しはできませんので慎重にお選びになってください。また、ここでゲームを止める方がいらっしゃりましたら名乗り出てください」
その言葉に誰も手をあげなかった。
青い柱を彼らは起動し選択を始めた。
―なぜ?あの時あの柱を触ってしまったのだろうか?
―どこで俺は選択を間違えたのだろう?
あの時手を上げれば…戻れたかもしれない。
「なぁ、知ってる?」と突然、友達の晴にそう言われて宮野涼はうん?と返事を返した。
「FLATって言うゲームだよ。」と晴は運ばれてきたアイスティを飲みながら尋ねた。
「CMでやっているやつだろ?知らないわけねぇじゃん!!まるでゲームにいるような一体感!!だろ?」と涼は目を輝かせた。
「そそ」
「俺も気になっていたんだよ。それ!」
FLATとは今大売り出し中のオンラインネットゲームだ。
基本料は無料でキャッチフレーズは「まるでゲームにいるような一体感!!」だ。ゲームでは有名なEONSという会社の新作であり最新作であった。
ゲーマーの中で話題沸騰中なのだ。
「あれ本当にヤバイらしいよ?」
「ヤバイって?」
「自分がゲーム内に入ったような感覚が味わえるらしい。テスターが言っていたから間違いないぜ」
「本当か?それはヤバイな」
「だろ??」と晴は満面の笑みを見せた。
晴と涼は小学生以来の付き合いだ。
どちらもかなりのゲーマーで高校は違う高校に進んだが高校帰り地元で待ち合わせて喫茶店に入るのは日常茶飯事であった。
今日も高校が終わると晴からメールが来ていたので涼は帰りがけにこの喫茶店いぐさに立ちよった。
晴の学校は進学校のこともあり彼は黒ぶち眼鏡に短髪の黒髪という優等生の格好だった。金髪にピアスの涼とは180°違う。
全くもって正反対の二人ではあったがとても気があった。
「そのゲームもうサービスはじめてるんだっけ?」と涼は晴にそう尋ねた。
「うん。もう始まっているよ。涼EONSのアカウント持っているよね?」と晴は尋ねた。
「一応…あることはある」
「じゃあ、一緒にやろうぜ!涼」と晴は楽しそうに言った。
「いいぜ!」と涼は承諾した。
その後、世間話をしてFLATをやるという約束をして晴とは別れた。
家に帰るとさっそく涼はFLATをインストールしようとパソコンの前に立ちパソコンの電源を入れた。
しかし…。
一向にPCの画面は暗いままだった。
コンセントがちゃんとささっていることを確認してもう一回電源ボタンを押してみる。
今度はコンセントをはずして繋ぎ直して押してみる。
長く電源ボタンを押してみたが真っ暗な画面のまま…。
何回、電源ボタンを押してもダメで…。
「そういえば昨日も調子わるかったなー買い時かな…」と涼は呟いた。
昨日、動画サイトで動画を見ていたのだがその際、何回もフリーズし再起動を繰り返していた。
あーこんな時に限って!!!
とイライラしていると携帯が鳴った。
晴からのメールだ。
「涼、FLATダウンロード出来た?」
「ごめん。PC壊れた」と涼は晴にメールを返す。
すぐに晴からメールが来た。
「マジかよ!!俺FLATダウンロード完了したぜー♪先にキャラ作っておくからお前も早く来いよ―」
「まぁ、楽しめ。明日にでも感想聞かせてな!」という涼のメールに晴は「りょーかい(^^♪」という楽しそうなメールを返してきた。
次の日、学校帰りに晴にメールを送った。
「学校終わったー。晴、昨日のゲームの感想聞かせろよ。いつものとこで待っている」
いつもはメールをすぐ返す晴がその日に限って一向にメールが返って来なく。
いつもの喫茶店いぐさで彼を待ったが22時になっても彼は姿を現さなかった。
涼は何回も彼に電話をかけたのだが電波の届かないところにいるか電源が入っていないため…というお決まりの文句だけが流れた。
諦めて家に帰ろうとした時電話が鳴った…。
晴からだった。
「おい!お前なんで電話に出ないんだよ!!」と涼は開口一番にそう怒鳴ったが向こうからはすごい雑音が聞こえてくるだけだった。
「…りょう…来ちゃダメだ…」
それは確かに晴の声なのだが雑音でよく聞き取れない。
「この…ガガガガ…は―――で―――――」
「あ?なに??」
「だから――――だ!」
「よく聞こえない!!」
「――は―――ダメだ!FLATには来るな!!!」
とそれだけ言って晴の電話は切れた。
「んだよそれ…」
と涼は自分の電話にそう言ってもう一度晴に電話をかけたがおかけになった電話番号は現在使われておりませんというアナウンスが今度は流れてきた。
あれから3日たったが晴からの連絡はあれ以来ない。
それどころか携帯に電話をしても「おかけになった電話番号は現在使われておりません」というお決まりのアナウンスがながれてくるだけだった。
学校から帰ると母が声をかけてきた。
「涼!」
「あ?」と自分の部屋階段を上ろうとしていた涼は足をとめた。
「あんた晴ちゃんと仲良かったわよね?」
「うん」
「晴ちゃんのお母さんから連絡があったのだけど…晴ちゃんに行きそうな場所しらないかしら??」
「行きそうな場所??」なんでそんなことを聞くのだろうと疑問に思いながらそう返す。
「晴ちゃん4日前からお家に帰ってないそうなのよ。」
「えっ??」涼は大声をあげた。
「あんたなんか知ってるの?」と母親は涼の顔を見つめる。
「あ…いや、知らない。」と涼はとっさにそう言った。
「そう…」と母は視線を落とし残念そうな顔をした。
「お、おれ部屋に戻るわ!」と涼はそう言って階段を駆け上がり自分の部屋に飛び込んで乱暴にドアを閉めた。
動揺したせいか階段をかけあがったせいか心臓が高鳴っていた。
4日前っていえばあの電話のあった日だ。
でもそんなこと言えない。
あの時はイライラしていたせいもあって晴の話をよく聞いていなかった。
今考えてみれば変な電話だった。
雑音でなに言ってるか聞き取れなかったし、晴の声はとても緊迫しているように思えた。
あれ?あいつ最後になんか言ってなかったっけ??
なんだっけ??
突然フラシュバックのように脳内で晴の声が響いた。
――は―――ダメだ!FLATには来るな!!!
FLATには来るな??
FLATってあのオンラインゲームの??
そういえば晴に連絡つかなくなる前晴はFLATをダウンロードしたって言ってたな。
晴がいなくなったのはFLATと何か関係があるんじゃないか?と涼は自分の部屋のパソコンを見た。
今すぐにFLATをダウンロードしたいのだが、まだ新しいパソコンを買いにいってなかった。
「ネット喫茶でも行くか…」と腕組しながら考えた。
突然、涼は思い立ったように部屋を飛び出し、隣の部屋に入った。
兄貴の部屋だ。
部屋の電気をつけるとベッドと本棚と机という殺風景な部屋が現れた。
机の上に新型のパソコンがおいてある。
涼は机へ向かうとパソコンの電源を立ち上げた。
ゴーオーとハードディスク起動する音がする。
涼の兄貴は3つ上で今、大学生だ。
弟の涼と違って圭はゲームを一切やらない。
だから、もうパソコンをつけた瞬間に容量の少なさとあまりの軽さにに涼は驚愕した。
「800GBしか使っていななら新型のパソコンなんていらないんじゃねぇの?」と思わず呟いてしまうほどだ。
ゲーマーの涼にとっては信じられなかった。
「えーと…ネット検索―ネット検索―」
FLATは検索するとすぐヒットした。
来るなといわれたら行きたくなるのが人間の性というものだ
さすがに今話題のゲームだけはある。
メインページを開くとEONSRPG FLAT PACE CABLE ONRAIN書かれた文字がでかでかと表示され、RPGっぽい音楽と動画が流れた。
「FLATには15の種族が太古の昔より共存してきた――」というナレーションの声と共にFLATのゲーム紹介が物語風に流れている。
だが、涼はそのページを飛ばし、違うページを探していた。
それは次の画面に大きく書いてあった。
インストーラダウンロード。
それを涼はダブルクリックした。
すぐに画面が切り替わり、FLATの世界感を表現した銀色のダウンロード画面になりダウンロードが開始された。
ダウンロードは1時間くらいかかりその次のインストールにも1時間かかった。
涼は持ち込んだ学生鞄からウォークマンを取りだしのんびり曲を聞きながらそれらがおわるのを待った。
多くのインターネットゲームをしたものならこのくらいのダウンロードもインストールもかかるのが普通と知っていたからイライラすることはなかった。
そして一回ダウンロードしてしまえば、今度、入る時に時間がかからない。それをちゃんと涼は知っていた。
これが今のインターネットゲームだ。
やっとダウンロード100%とになり、ダウンロード中と書かれた表示の上にログイン画面が現れた。
ごく普通のログイン画面だった。上にID下にPWをうちこむ場所がある。
ID:ryo1025
PW:95r80y2013
涼はそこにEONSのアカウントを入れログインボタンを押した。
「ログインが完了いたしました。GAMESTARTからFLATの世界へ!!」
と書かれたウィンドウが表示された。
そして、さっきまでダウンロード中と光っていたタグがGAMESTARTという表示に変わり赤く点滅していた。
涼はGAMESTARTという大きなボタンをクリックした。
そして今、俺はこの部屋にいるというわけだ。
さぁ、GAME START
FLAT PACEってなんだろう(笑)
ゲーマーすぎてパソコンのことPCって書いちゃう…。
さぁ、GAME START!