米田君と山本さん(お試し版)
ゴールデンウィークなので、サクッと読める学園性転換コメディーを書きました。
男子校の男子高生が女子高生になります、それだけの話。
もし需要があるようなら、続きを書きたいです。
俺の名前は、米田晶。花も実もない、灰色の男子高校の生徒だ。
そんな俺の目の前に、目がパッチリした小柄な可愛い女子高生がいる。俺好みの黒髪ロングで、触りたくなるようなふっくらとした胸の二つの膨らみはD以上G未満と見た。
本音というと、Cぐらいが手に収まるサイズで好きだが、大きいことは良いことだ。おっぱいが嫌いな男はいないだろう。少なくとも俺は、嫌いな男に会ったことは一度もない。
女は心配そうな顔で、床に仰向けに倒れている俺の顔を覗き込んでいる。女らしからぬハスキーボイスで、問い掛けてくる。
「大丈夫か? 米田さん」
見覚えがない女だが、良く知った奴の面影があった。その声も独特のイントネーションも、聞き覚えがある。
思わず俺は、乾いた笑いを上げる。
「ははっ……今のお前なら、抱けそうだわ」
「冗談でもやめろ」
明らかに嫌悪した顔で吐き捨てると、女は自分の耳の裏を掻いた。困ったり悩んだりした時に耳を掻くのは、奴の癖だ。
奴――山本善士夫は、男だったはずだ。でも、今はどうみても女だ。
そして、便所の鏡に映った俺も、まごうことなき女の姿だった。念の為確認してみると、俺の立派だった男のシンボルも綺麗さっぱり姿を消していた。代わりにあるのは、奴ほどデカくはないが柔らかそうな胸の膨らみ。
なんてこった、俺も女になってやがる。
どうしてこうなった。
こうなったきっかけを思い出そうと、頭を巡らせる。
俺は今高二で、バスケットボール部の副部長をしている。ポジションは、センター(=高身長とパワーが必要とされる。リバウンド、スクリーン、ゴール下での得点とディフェンスでチームを引っ張る)。身長は百八十センチだが、贅沢を言うならあと十センチ、いやせめて五センチは欲しかった。バスケは身長が高ければ高いほど、有利だ。
自分で言うのもなんだが、そこそこ整った顔立ちで、流行りの髪型を茶髪に染め、鍛え上げられた肉体をしている。これで共学だったら、さぞやモテただろう。
だが悲しいかな、ここは男子校。野郎にモテたところで、嬉しくもなんともない。
本当は共学に通いたかったが、俺の学力で行ける一番近い高校がこの男子校だったから仕方がない。
以前校内で行われたアンケートで「抱かれたい男No1」に選ばれたらしいが、かなり不本意だ。女に言われたなら素直に喜べたかもしれないが、俺はノン気だ。野郎を抱く趣味はない。
そして同じく不本意No1に選ばれた男が、親友の山本善士夫こと「山もっさん」だ。こちらは「抱きたい男No1」だそうだ。奴もノン気なので、ぶつくさ文句を垂れていた。
山もっさんは俺と同じ高二で同じクラスだ。空手部部長を務めていて、師範代の腕を持っている。でも、見た目はすげぇ弱そうに見える。着痩せするタイプで、小柄で童顔。脱いだら、筋肉ムッキムキなんだけどな。
俺と山もっさんは、ハッキリ言って何もかも逆だ。専門教科は、俺は理数系で山もっさんは文系。山もっさんの髪型は短髪で、染めてないから真っ黒だ。俺は人見知りが激しいけど、山もっさんは社交的で誰とでも付き合える。俺と違って頭も良いし、世話好きな兄貴気質。
自由奔放な次男坊の俺は、世話好きな長男の山もっさんに甘えている自覚はある。気が利いてなんでもやってくれるから、ついつい頼ってしまう。マジ良い奴なんだよ、山もっさんって。
ただし女が苦手でチキンなのが、玉に瑕。その理由は、また何か機会があった時に話すとしよう。
タイプは真逆なのに、俺と山もっさんは何故か気が合って、親友と呼べるくらい仲が良い。いつも一緒にいるせいか「付き合っているんじゃないか」と、噂が流されているらしい。
「ふざけんな! 冗談じゃねぇっ!」って、山もっさんがむちゃくちゃキレてたし、俺も同感だ。
でも、おかげで俺に「抱いて」とか言う変な奴が寄って来なくなった。
山もっさんの方も「抱きたい」と、告ってくる奴はいなくなったらしい。
非常に不本意だが、結果オーライだ。
もし、山もっさんが女だったら付き合っても良いと、実は心の中でこっそり思っている。いくら仲が良いと言っても、野郎は抱けない。女だったら、の話だ。
これ言ったら、山もっさん絶対キレるから言えないけど。沸点が異常に低いんだよね、あいつ。
野郎を抱くぐらいだったら、大魔法使いになっても構わない。誰かが「六十歳になったら極大魔法が使えるようになる」とかどうとか言ってたっけか。どんな魔法なのか楽しみだ。
今日もいつものように、俺も山もっさんも部活動に勤しんだ。俺はバスケ部で、ストレッチと基礎トレーニングの後、赤白チーム分けをして練習試合を行った。
最後に反省会と今後の練習課題を確認したところで、解散となった。終わる頃には、もう日はとっぷりと暮れていた。
蛇口のコックを捻り、流れ出す水を頭から被って洗うと結構すっきりした。
本当はシャワーを浴びたいところだけど、そんな気の利いたものはうちの学校にはない。あってもせいぜいプールぐらいか。まだ春だから、プールは閉鎖されている。
今頃プールは、藻やら雑菌やらが大量発生して、大変なことになっているだろう。……想像したら、鳥肌が立った。
タオルで汗を拭いて、ユニホームから制服に着替えた。片付けをする後輩達を尻目に、俺は空手部が使っている道場へ足を向けた。
道場では、俺と違って真面目な山もっさんが、後輩達に囲まれて何やら雑談をしていた。奴は兄貴肌なところがあるから、誰からも好かれる。特に空手部では、羨望と期待の眼差しを向けられている。空手界のホープだ。
かろうじてレギュラーにいる俺とは、違う次元にいる。ちょっと悔しい。悔しいので、邪魔してやりたくなった。
俺は道場の入り口から大声で奴の名を呼んで、大きく手を振る。
「おーい、山もっさーんっ! 一緒に帰ろうぜーっ!」
「おっ、米田さんじゃん! 分かったーっ!」
山もっさんは満面の笑みを浮かべて振り返り、手を振り返してきた。周りを囲んでいた後輩達と何か言葉を交わして、人の輪から出た。
俺の方へ駆け寄ってくると、気さくに笑い掛けてくる。
「すまん。今着替えてくるから、ちょっと待ってて」
「分かった。四十秒で準備しな」
からかうように俺が言うと、山もっさんは声を立てて笑いながら耳の裏を掻く。
「はははっ! 四十秒じゃ、無理に決まってんだろ?」
「ならば、三分待ってやる」
人差し指と親指を立てて銃の形を作り、山もっさんの顔に向けて俺は不敵に笑った。奴も同じように指をこちらへ向けて、薄笑いを浮かべる。
「いいだろう。大人しく待っていろ」
「三分を一秒でも超えたら、罰ゲームな」
意地悪な笑みを浮かべて嫌味ったらしく言うと、山もっさんは耳を掻いて苦笑する。
「マジかぁ」
「マジです」
「じゃあ、あと十分伸ばしてっ」
「駄目ーっ、三分って言ったら三分なんですーっ」
ゲスい声で子供のように言い張ると、山さんは大きく頷いて意味深長に笑う。
「分かった、三分以内だったらお前が罰ゲームな」
「えぇっ? なんでだよっ?」
顔をしかめてぶう垂れると、山もっさんは悪い笑みで俺を指差す。
「俺だけ罰ゲームなんて、おかしいだろ? お前も同じようにリスクを負わなきゃ、不平等だ。じゃ、三分計れよっ!」
鋭く言い放つと、山もっさんは豪速で道場の奥へと引っ込んだ。あいつ負けず嫌いの頑固者だから、本気で三分切る気だ。
三分過ぎたら、何してやろうかね。そんなことを考えながら、腕時計で時間を計り始めた。
結果として、山もっさんは二分五二秒で戻ってきた。罰ゲームとして、コンビニでジュースと菓子パンを奢らされたのが腹ただしい。
その後、ゲーセンに寄って対戦格闘ゲームをやったり、リズムゲームをやったりして遊んだ。五百円分の小銭がなくなったところで終了。
ゲーセンを出た後は「今の対戦はどうだった」とか「ゲーセンで五百円なんてあっという間だよな」なんて、たわいのない話をしながら帰路についた。
山もっさんと別れて家に帰って、晩飯食ってテレビ観て風呂入って。で、さぁ寝るぞってところで、マズいことに気が付いた。
「ヤベッ、宿題あったんだっけか」
明日、現代国語のノートを提出しなければいけなかったことを思い出した。しかも、ご丁寧に宿題付き。二限なら一限の間にやれば間に合うが、運が悪いことに一限だ。現国のヒヒジジイは、超厳しい。出さなかったら、超絶怒られることは目に見えている。
今の時刻は夜の十一時。まぁ、今からやれば余裕で間に合う。渋々通学鞄を開けて、現国のノートを探した。
「あれ?」
しかし、いくら鞄を漁っても現国のノートが見当たらない。思い切って鞄をひっくり返してみたが、現国のノートはなかった。どうやら、学校に忘れてきたらしい。
「うわぁ、どうしよう……」
明日、朝早く行くしかないか。宿題は、山もっさんに写させて貰うとして。って、いくら早く行ったところで、貸してくれる相手が遅かったら意味がない。
山もっさんはいつも来んのギリギリなんだよな。夜中までゲームやってっから寝坊すんだよ。さて、どうしたもんか……。
そこで、思い付いた。
「そうだ、今から取りに行けばいいんじゃねぇかっ」
ナイスアイデア。でも、夜中の学校にひとりで行くのは怖い。やはりここは、山もっさんを召喚するしかない。
携帯電話を取り出して、リダイヤルで電話を掛ける。三コール目で繋がった。
――こんな時間に、なんの用?
やや不機嫌そうな声の後ろで、軽快な音楽が聞こえる。聞き覚えのある音楽は、某有名ゲームのものだった。こいつは頭が良いから、宿題なんて早々に終わらせてレベル上げなんかしていたんだろう。余裕こいてる感じがむかつく。
よし、騙して誘き出してやれ。
俺は元気のない神妙な声を作る。
「……俺、もう駄目かもしんない……」
――え? どうしたんだよ?
俺の演技に騙された山もっさんが、驚きに染まった声で訊ねてきた。こいつ、真面目で信じやすいんだよなぁ。しかも、何度騙されても懲りないんだ。笑い出しそうになるのを、懸命にこらえた。笑いで声が震えるが、まぁこれも上手く使えば効果的だ。
「生きているのが、急に辛くなってさ……だから最期に、山もっさんにお別れの挨拶しようかと思って掛けてみたんだけど……」
――馬鹿野郎! 早まんじゃねぇっ!
必死に通話口に向かって叫んでいる光景を想像して、危うく吹きそうになった。左手では、耳を掻いているだろう。
笑いをこらえていると、山もっさんはさらに言葉を重ねてくる。
――最期とか言ってんじゃねぇよっ! 今からてめぇのツラ拝みに行って、その腐った根性叩き壊してやるっ! 今どこにいるっ?
叩き壊してどうするよ、直すだろうが。でもまぁ、計画通り。
俺は音を立てないように家から出て、自転車にまたがった。ペダルに足を掛けて、学校へ向けて走り出す。片手運転で、山もっさんに語り掛ける。
「どこだと思う?」
――どこでもいいから、とっとと教えろっ!
いらだった口調で、山もっさんが催促した。言ったね? 今どこでもいいって言ったよね?
俺は頬が緩むのを感じながら、場所を告げる。
「教室」
――あ?
「だから、教室。学校の教室だよ」
大事なことなので、二回言いました。俺が場所を教えると、山もっさんが吼える。
――分かった! 今すぐ行くから、死ぬんじゃねぇぞっ! ってか、ぜってぇ死なせねぇっ!
それを最後に、向こうから電話を切った。きっと大急ぎで家を飛び出して、こちらへ向かってくることだろう。無駄に熱くて正義感が強い男だからな。
山もっさん家から学校までの距離は遠い。何度も遊びに行ったが、学校からは自転車で二十分掛かる。俺ん家は、自転車なら軽く五分程度だ。確実に先回り出来る。
まぁ、こんくらい言わないと、山もっさんは夜の学校へなんか来やしない。正真正銘のチキン野郎だからな。
今思えば、人を騙すなんて悪さをしたから、罰が当たったんだ。巻き込まれた山もっさんは、不幸だったとしか言いようがないけど。
「うわぁ……不気味」
夜の学校ってのはどうしてこんなに怖いのだろう。昼は野郎の声が飛び交ってうるさ過ぎるぐらいなのに、今は異様なほど静まり返っている。闇に沈むコンクリートの塊。闇を映す無数の窓ガラス。殺風景な校庭もいつもより広く感じる。
まるでホラー映画の冒頭シーンのようだ。薄ら寒いものを感じて、全身に鳥肌が立った。背中には冷たい汗が流れて気持ち悪い。口の中が渇いて、唇を噛み締めた。
魔王の城へ挑む勇者は、もしかするとこんな気持ちなのかもしれない。俺は勇者になったつもりで、足を踏み出した。
ボヤボヤしていると、山もっさんが着いてしまう。その前に教室に入らなきゃ。
正面門は、堅く閉ざされている。が、こんな門あっても大した障害じゃない。俺ぐらいの身長になれば、一メートルぐらいの鉄の門なんて楽々と乗り越えられる。
不法侵入だが、この学校に警備システムなんてものは存在しない。常駐している警備員もいない。ザル警備にもほどがある。
難なく門を乗り越えた後は、どうやって教室に入るかが問題だ。当たり前だけど、扉という扉は全て閉ざされている。窓を割れば容易に入れるけど、さすがに良心が咎める。俺は善良な一生徒だ。
わずかな希望を胸に、ざっと見回ったところ、無用心なことにひとつだけロックが掛かっていない窓があった。よっしゃっ。窓を音を立てないように開けると、体を滑り込ませた。念の為、ここの窓は開けておくことにしよう。
入り込んだのは、一年の廊下の窓だ。二年の教室は二階にある。外灯だけが頼りの薄暗い廊下は、静かで寒々しい。室内なのに、外気温よりも冷え切っているような気がしてならない。
赤く灯る消火栓のランプが、闇を丸く切り取っている。色のせいか、なんだかあったかそうに見えた。同時に血の色を連想させられて、少し不気味な感じもした。
悪寒と恐怖を感じるのが嫌で、それらを振り払うように全力で廊下を駆け抜けて階段も駆け上がった。このくらいじゃ、息も上がらない。バスケット界のプリンスを嘗めんなよ。
二階に上がると、自分のクラスの札が掛かった教室へ入る。外灯や町の明かりだけが差し込む薄暗い教室は、いつも見慣れていたはずなのにまるで違って見えた。光のあるなしで、こんなにも違って見えるものなのか。よく知る友達に他人面されたみたいな妙な気持ちになった。
入り口の壁に付けられているスイッチを押すと、教室の蛍光灯が一斉に白く光だした。闇に慣れていた目は、蛍光灯の白さに一瞬眩んだ。何度も瞬きを繰り返すと、いつも教室が見えた。なんだ、やっぱり俺がよく知る教室じゃないか。
安堵すると、俺は自分の机へ近付いて机の中を探った。思った通り、現国のノートは机の中に入っていた。
「目的達成っと」
俺は破顔すると、ノートを持ってきたショルダーバッグに入れた。
黒板の上に掛けられた丸時計を確認すれば、そろそろ山もっさんが学校に着く頃だ。さて、どうしよう。このまま三文芝居を続けるか、それともあっさり嘘だとバラすか。
続けますか?
・はい
・いいえ
「はい」
せっかく教室まで来たんだし、もうちょっと続けてみるか。山もっさん、どこで嘘だと気付くか見ものだし。
となれば、教室の電気は消しておくか。自殺しようって奴が、煌々と明かりが点いてる教室にいるってのはおかしいもんね。
入り口へ戻って、スイッチを切った。明かりが消えると、さっきと同じ薄暗さが戻ってきた。うーむ、やっぱり暗闇は慣れない。
自分の席に着いて、しばし待つ。
ややあって、どこかで派手にガラスが割れる音が聞こえた。あいつ、ガラス割ったな? ご丁寧に一階の廊下の窓開けておいたのになぁ。
それから豪速で走る足音が近付いて来て、教室のドアが乱暴に開け放たれた。
「米田さんっ! 生きてるかっ?」
必死の形相で山もっさんが荒い息をして、肩を大きく上下させていた。薄暗い中でも、それがはっきりと分かった。着のみ着のまま飛び出してきたらしく、パジャマ姿だった。パジャマ派だったんだな、ちょっと意外。しかも、子供っぽい可愛いデザインなのは母親の趣味か。それが妙に似合っちゃってるお前って、どうよ?
「――ぶふ……っ!」
色んなことがおかしくて、俺はもう吹き出す寸前だった。手で口と腹を押さえてうずくまり、笑いで肩を震わせた。
それを見た山もっさんは、何を思ったか駆け寄って来て、俺の両肩を掴んだ。
「どうしたっ? 気持ち悪いのかっ? 毒でも飲んだかっ?」
どうやら服毒自殺を図ろうとしていると勘違いしたらしい。
いやいや、それはないから。弁解しようと思ったが、今口を開いたら絶対爆笑してしまう。あーおかしい! ホントちょろすぎるでしょ、山もっさんっ!
肩を震わせて笑いをこらえる俺の顔を、山もっさんが泣きそうな顔で覗き込んでくる。
「吐くかっ? 吐くならトイレに行こうっ! 立てるかっ?」
俺は黙って頷くと、山もっさんに肩を貸してもらって立ち上がった。俺を抱えた山もっさんの腕は、細いけれどたくましかった。伊達に空手部主将じゃないってことか。っていっても、身長が全然足りてないんだけどな。
「ゆっくり……ゆっくりでいいからな? トイレまで頑張れよっ?」
心配そうに俺を気遣いながら、山もっさんは便所まで連れて行ってくれた。
便所のドアをくぐり、洗面台の合わせ鏡の前を通った時だった。何十ものフラッシュをいっぺんに焚かれた時のような、真っ白い光が鏡から飛び出して闇を食い尽くした。
どこか遠くで、始業を知らせるチャイムが聞こえた気がした。
で、気が付いたら、この有様だ。
俺も山もっさんも、女になっていた。ふたりとも私服だったはずなのに、何故か女子高生の制服を着ている。
しかも真夜中だったはずなのに、あたりは昼間のように明るい。いや、昼間のようじゃなくて昼間なんだ。便所の電気は点いていない代わりに、窓の外から温かい日差しが差し込んできている。さらには、学校中から聞こえてくるかしましい女の黄色い声。
「どういうことだ?」
俺が首を傾げると、すっかり可愛い黒髪ロングの美少女に変わってしまった山もっさんが、声を荒げる。
「聞きてぇのは、こっちの方だっ! 気が付いたら女になってて、横にいたはずのお前も女になってて気ぃ失っててっ! そんでもって、なんか明るくなってっし、あっちこっちから女の声はするし、もう何がなんだか……っ!」
山もっさんは相当混乱しているようだ。そりゃそうだ、俺だって訳分からん。
夜から昼になったのは、それまで気を失っていたと考えれば、なんとか理解出来る。だが野郎の声が一切聞こえず、女の声が溢れかえっている状況。そして何より、俺達が女になってしまったことは説明がつかない。
「これはひょっとして夢……かな?」
「いや、夢じゃねぇよ」
何気なく呟くと、山もっさんに即刻否定された。俺は思わず顔をしかめて聞き返す。
「何で夢じゃないって、言い切れんだよ?」
「痛ぇから」
どうやら俺が気を失っている間に試してみたらしい。山もっさんの拳が痛そうな赤に染まっていた。
一体何を殴ったんだか。
ここまでお読み下さった方、ありがとうございました。
並びにお疲れ様でした。
もし、不快な気持ちになられましたら、申し訳ございませんでした。