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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
94/95

第86話-それぞれの夜(エイジ、ライク、アイン、マリーシア)

こうして皆で部屋に集まるのも、

なんだか慣れたもんだな。

俺はテーブルに座るライクちゃんとアインの顔を見ながら、

不思議と安らいだ気分になっていた。


マリーさんは、今この場にはいない。

先ほどの条件の事について、

ネットさんに抗議をしに行っているところだ。

「この件は、わたくしに任せてください」

と珍しく気負って言ったので、

もうしばらくは帰ってこないだろう。


先ほどのネットさんの条件。

直面している問題は、

決して楽しい気分になる様なものではない。

しかし、俺の気分はすっきりとしていた。


今まで隠していた秘密を打ち明けた解放感が、

珍しく気分を明るい方向へ導いているのかもしれない。


とにかく今日は疲れた。


ネットさんの示した条件の事は、

マリーさんの抗議の結果を受けて考えよう。

けだるい意識の中で、俺はそんな風に考えていた。




7月2日 火の日 PM9:45



ここは、俺に割り当てられた客室。

俺とライクちゃんとアインは、

テーブルを囲み、3人で椅子に座っていた。



「あ、あのね……

 エイジ君……」



俺が頬杖をついて、ボーっとしていると、

ライクちゃんが上目づかいで、

言いづらそうに話しかけてきた。



なに? 視線でそう答えると、

ライクちゃんは控えめに言葉を続ける。



「……エイジ君って、

 本当に別の世界から来た人、なの?」



この日、何度目になるだろうか。

誰の口からも、口を開くたびに出る同じ質問を

再び確認してきたのだ。



「……あぁ、ほんと。

 っても、すぐには信じられないか。

 騙すつもりは無かったんだけど、

 今まで内緒にしててごめんね?」



俺は、このやり取りに少し疲れていたものの、

なるべく優しい顔で返事を返した。


ごめん、という俺の返事を聞くが早いか、

ライクちゃんは伸ばした両手を胸の前で振り、

あ、あやまらないでっ! と慌てていた。


俺が笑いながら、わかったと頷くと、

今度は、先ほどの俺と同じくらい

優しい表情で語りかけてくる。



「……そっか、

 あのね、隠してた事は別に気にしなくていいよ?

 知らない世界に来て色々大変だったんだと思うし、

 隠していた事は、悪いことじゃないんだよ?」


「……うん

 でもなんかさ、ほら、

 今まで仲良くして貰ってたのに、

 隠し事していたなんて、後味悪いじゃない?

 というか、ライクちゃん、ちゃんと理解してたんだ?

 完全にフリーズしてたから、聞いてないと思ってたのに」



俺は、へへっと顔で頭を掻いてみる。

その冗談が、沈み込んだ雰囲気の中で

完全に浮いていた。


いつもなら、ちょっとした失敗で、

ガミガミ小言を言うはずなのに、

今日の2人は静かに俺を見つめている。


黙っているが、怒っているわけでもなく、

悲しんでいるわけでもない。

ただ、優しい眼差しで俺の事を見ているだけ。



……なにこれ。調子狂うんですけどぉ。




異世界から来たというカミングアウト。

罪悪感と言うほどではないが、

友達に嘘をつき続けていたことをばらす様な、

そんな後ろめたさは、確実にあった。


あったからこそ、いつも通り、

彼女たちはギャーギャー文句を言うのだと、

俺は勝手に解釈していた。


しかし現実はどうだろう。



「のうエイジ……

 さっきも言ったが、

 おぬしは、わしらの仲間じゃからな?

 別の世界からきたことなど、

 ちっとも、気にはしておらんぞ?」



アインはテーブルをはさんで、

その小さい手で、俺の手を握り

ぎゅっと力を込めてくる。



……ほらこれ見て!

皆! ちょーやさしいの!



「いやさ、2人とも。

 気を使ってくれるのは嬉しいんだけど……

 ほんと、普段どおりでいいよ?」



正直、ライクちゃん達が、

ここまで優しくしてくれると思っていなかった俺は、

なんだか、むず痒い気持ちになった。

照れ笑い、苦笑いともつかない微笑で、

普段どおり、振舞うよう頼んだ。


だが、俺の言葉を聞いて、ライクちゃんが悲しそうに呟く。



「普段どおりになんて……

 出来るわけ無いよ……」



両手で顔を覆い、涙声になるライクちゃん。



「だって、エイジ君……

 居なくなっちゃうんでしょ……?」



――あ……

俺は、その一言で、俺の仲間たちが考えている事が、

なんだか解ってしまった様な気がした……




自分で言うのもなんだが、

異世界に来てからというもの、

元の世界でぼっちだった俺にしては、

ライクちゃん、アイン、マリーさんとの関係は、

極めて良好な方だったと思う。

それに、バレーやクロルとも短い期間だったが、

良い仲間になれた気がする。


そりゃ、色々と我儘に振り回されることもあったし、

育ってきた環境、というか世界そのものが違うのだから、

すれ違いも沢山あった。


だけど、すれ違いも、喧嘩も、トラブルも、

過ぎてしまえば、みんな良い思い出だ。




――想像してみてほしい。

お前らの友人が、異世界人だとカミングアウトしたらどう思うか。


たぶん、お前らは、そのせいで過去の思い出が

嘘になるなんて微塵も思わないだろう。

ましてや、その事を責めるなんてしないはずだ。


なんだかんだで、お前ら優しいもんな?


えっ? 気持ち悪い?

いや、聞けって、大事な事だから。


そして、おそらく興味の対象は、

過去ではなく未来に向けられるはずだ。

「いや、話はわかったけどさ。

 んで、お前これからどうすんの?」

たぶん、俺ならそう問うことになる。



ライクちゃんたちが置かれているのは、

まさにこの立場だ。


俺が異世界から来た事は信じる。

俺が黙っていた事も気にしない。

だけど、これからどうするの?


そして、その問いの答えに、

俺は身勝手にも既に答えを示してしまった。


――元の世界に帰る。


直接宣言しなくとも、あの応接室での態度は、

その事を雄弁に語っている。


元の世界への帰還は、この世界の人たちとの別れを意味する。

そしてそれは、おそらくは永遠の別れ。


俺なら、友達だと思っていた奴が、

突然いなくなるのは寂しい。

帰るのは仕方ないにしても、

帰還を決める前にせめて一言相談してほしい。


見方によっては、俺の応接室での態度は、

そんな仲間の気持を踏みにじるものだ。

ひょっとしたら、ネットさんのあの黒い笑みは、

それに気付かない俺をなじるものだったのかもしれない。



「……ひっく……ひっく……」



部屋の中に、小さな嗚咽が響く。

あのまま泣き崩れてしまったライクちゃんは、

テーブルに突っ伏して静かに震えていた。



落ち着くのじゃ、そう言いながら

アインがライクちゃんの肩を抱く。

ライクちゃんはぐしゃぐしゃの泣き顔で、

アインの小さな体に顔を埋めた。



「わしらはのぅ……

 なにか勘違いをしていたのかもしれん……」



慈しむようにライクちゃんの頭を撫でながら、

アインが目を閉じる。



「わしらは、エイジのことを

 どこか現実味のない、

 そう……超人の様に見とったのかもしれんのう。

 おぬしが強いがゆえに、たより、

 たよれるがゆえに、あまえていたのじゃ。

 思えば、おぬしの奇行も、元の世界にもどるための

 行いだったのかものぅ……」



目を閉じたまま、アインは微笑んでいる。

そして俺は気が付く。

彼女たちが、今日に限って騒がない理由を。

口の悪さも、ぞんざいな扱いも、

裏を返せば愛情表現だったのだと。


彼女は、甘えるため彼にぶつかる。

――それは、彼が倒れない事を信じているから。

彼女は、彼の愚痴を言う。

――それは、彼の愛が枯れないと信じているから。

彼女は、彼に無茶を言う。

――それは、彼なら出来ると信じているから。


だが、超人だったと思っていた彼は、

別の世界から来た、寂しい迷子だったのだ。

甘えきっていた己を恥じても、

どうして責めることなど出来ようか。

アインの頬笑みは、そんな憂いを秘めていた。



「そんなこと言うなよ……」



寄り添い抱き合っている2人の少女に向け、

俺は口を開いた。



「……ほら、まだ大規模討伐戦に参加したって、

 元の世界に帰れるって確定したわけじゃないし、

 帰る方法が分かった時はさ、ちゃんと皆に相談するから」



2人は顔を上げ、俺を見る。



「だからさ、無理かもしれないけど、

 やっぱり、いつも通りが良いよ。

【ラジレイク】での買い物もうやむやになっちゃったし、

【エルフム】にも言ってみたいし、

『マッシブ・ドラゴン』にも負けっぱなしじゃ悔しいから、

 リベンジしたいし、やりたい事は一杯あるんだ」



俺はあえておどけてみる。

やりずらいからではない、

2人の考えている事が少しだけ分かった気がしたから。

だからこそ、いつも通りに振舞ってほしいと強く感じたから。

まくしたてる様に喋る俺を見て、2人の顔が少しだけ緩む。

よし、あと一息だ。



「それにさ、ネットさんの条件だってあるじゃないか!

 ライクちゃんとアインが、

 いつもみたいに、しっかりしてくれないと

 俺、マリーさんと結婚することになっちゃうよ?

 そしたら、可哀想だろ?

 ……マリーさんが」


「ふっ……」



アインが少しだけ笑う。



「ははは、そうじゃな。

 もっともじゃ。

 じゃが、エイジよ。いつも通りではない。

 これからは、いつも以上に互いに協力してゆくのじゃ」



胸からライクちゃんを引きはがし、

椅子に座り直させる。

ライクちゃんも少しだけ元気になった様だ。



「ただ今戻りました」



ドアが、ガチャっと音を立て、マリーさんが帰ってきた。



「あっ、マリーさん。お帰りなさい。

 で、どうでした? 」


「はい。お婆様は、やはりあの条件を

 最善のものと考えておいでの様でしたが、

 次善の方法として、いくつかの別の条件を引き出しました。

 お疲れで無ければ、これからお話しますが……」



少し疲れた様子だが、マリーさんは結果を出せたようで、

明るい表情をしていた。

どうやら、抗議は上手くいったみたいだ。



「お願いします。

 とりあえず、聞かない事には何もできませんから」



俺は、マリーさんの椅子を勧め席に座るように促す。



……さて、まずはネットさんの条件をどうするか。

これからやることが山積みだ。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 エイジ・ニューフィールド

職業 

   略 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■



しめっぽい話で退屈かもしれませんが、

コメディーも頑張って用意します。

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