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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
92/95

第84話-提示された条件

「あの、ちょっといいですか?」


「ん。エイジ?

 ……なんだ?」



俺の質問が、レッカードさんの沈黙を破る。


依然としてアルバトロス邸での話し合いは続いている。

話が長いせいか、皆の様子もどこか疲れているようだ。

決して、だらけているわけではないが、

崩れかけている姿勢から、疲労の色がうかがえた。


そろそろ、話し合いを終わらせた方がいいのは、

誰が見ても明らかだった。


俺は一呼吸おいて考える。


――俺が隠している事は、もう何もない。

異世界から来た、新原英治こと

エイジ・ニューフィールド。

それが俺の正体である事は十分理解されたはずだ。


しかし、あまりに現実味のない内容だけに、

このまま放っておくと、延々と話し合いは続いてしまう。


個人の信じる、信じないは別として、

この話し合いの目的は既に達成されたと解釈すべきだろう。


それならば、この話し合いを終わらせるために必要なのは、

もはやこれまでの確認ではない。

これからどうするかという今後の方針だ。



……そして、その方針を決める仮説を、

  俺は、先ほど思いついた。



その鍵となるのは、先ほどの引っかかりの解答。

俺の出した解答は、もとの世界で読んだ

異世界モノの展開としては、ありきたりのものであり、

こちらの世界で生活している住人にとっては、

バカげたものだろう。


俺は、その思いついた解答を確認するため、

レッカードさんに質問をしてみる。



「えっと……俺の世界と違って、

 この世界って神様が実在するんですよね?

 神様でもなければ不可能って、

 逆にいえば、神様なら可能ってことですか?」


「あぁ、そういうことになるな……

 それがどうかしたか?」



……やはりか。

期待通りの答えに、俺は手ごたえを感じた。


俺の手は、自然と堅く握られていた。

握られた手のひらの中が、汗ばんでいくのがわかる。


マリーさんと初めて会ったとき、

俺たちは「人」と「エルフ」の表現に関する

勘違いをした事があった。

「そんなこと出来る『人』いないが、出来る『エルフ』はいる」

そんな言い回しに関する勘違いだ。


異世界であるこの世界では、

元の世界で通用していた言い回しや表現が、

思いもよらぬ意味で使用されることがある。


つまり、元の世界で「神様でもなければ不可能」

という言い回しは、実質的に不可能を意味するが、

この世界では、「神様もしくはそのレベルの能力が

あれば可能」と言う意味になる。



そこまで確認できた俺は、仮説を展開することにした。

そう。その仮説とはつまり、

「生存中」に関与できない爺さんが、

「死亡後」に関与している可能性……



「……じゃあ、ウチの爺さん。

 いや、ダンクさんが人間の神様をやっている

 可能性って……」


「……いや、それは……

 …………

 …………あり得るな」


「叔父様?」



一瞬言葉に詰まったようだが、

何かに気づいたようにレッカードさんが頷く。


俺が言わんとした事を理解したようで、

レッカードさんは、ウチの爺さんが

神様である可能性について考え出した。



「……あくまでも仮説だが、

 ダンクのステータスでいえば、

 優秀な人間として、死後に新たな『神』に

 選ばれていてもおかしくはねぇ……」

 

「……つまり、ダンクは今、

『人間の神』であるということですか?

 それは、余りにも……」



ネットさんは、まだ信じ切れていないといった表情だ。

確かに、この仮説は突拍子もないものなのだろう。

しかし、レッカードさんの解説は続く。



「いや、確かにこいつは盲点だったぜ。

 というか、俺たちはダンクが生きてる事に、

 あるいは、死んでる事に、こだわりすぎたのかもしれねぇ……

 これまでの捜索で、世界中を探しはしたが、

 ダンクが、生者でも死者にもなっていないとすれば、 

 1か所だけ探せていない場所がある」


「それが神々の住まう場所【神界】とでもいうのですか。

 叔父様……」


「そうだ。

 これなら、俺たちが見つけられないのも納得がいく。

 神はこちらの世界には干渉できないし、

 神には基本的には、授名式しか会えないからな」



そう、これも天空剣を直す時に聞いた

言葉の言い回し、

「神はこちらの世界には干渉できない」

ということは、逆にいえば

「俺の居た元の世界になら干渉できる可能性がある」

ということになる。



そして、死後に干渉できるとすれば、

時系列的にも整合がつく。



「もともと、この世界の住人だったダンクさんは、

【英雄】となったことで、

 ノーレッジ・ニューフィールドとなり、

 俺の居た世界に飛ばされ、新原則冶となった。

 そして死後、召喚術の法則に従って、

 再びこちらの世界に戻され、人間の神となり、

 なんらかの事情で、俺をこの世界に召喚した……」


「あぁ、その通りだ。

 そういうことなら、辻褄が合う」



レッカードさんの目が光る。

それを見て俺も無言で頷いた。



「そんな……まさか……」



ネットさんは、仮説を頭では理解しているが、

納得しきれていない感じだ。

それでも爺さんが死んでいるよりはマシなのか、

ネットさんの表情からは、信じようとする意思が見えた。



思わぬタイミングで思いついた仮説。

しかし、このタイミングは絶妙であり、

かつ、今後の行動方針を決める最大の物となり得た。



そうだ。

……もし、この考えが正しいとすれば、

俺が世界規模の危機を救い【英雄】になれば、

授名式とやらで、神であるウチの爺さんに会うことが

できるかもしれないのだ。


そして、直面している今回の大規模討伐戦は、

まさに世界規模の危機。


爺さんに会うため、ひいては元の世界に帰るための、

うってつけの機会なのである。



「元の世界に帰れるかもしれない……」



思わず、口から言葉がこぼれる。

誰に言うでも無い、独り言の様な呟き。

元の世界に帰ることを諦めかけ、

覚悟を決めようと思った矢先の希望だった。


俺はテーブルに座る全員に向けて言葉を放つ。



「……あの、もし俺の仮説が正しければ、

 今度の大規模討伐戦で活躍することで、

 ウチの爺さんに会えるかも知れません」



仮説を打ちたてた俺は、いよいよ話し合いを終わらせるため、

本題を切り出した。



「それで、これからの予定なんですが、

 予定通り、大規模討伐戦に参加しようと思います。

 俺が活躍できるとは限りませんが、

 少なくとも、チャンスではあると思うんです」



テーブルの周りから、視線が集まる。



「だから、信じる信じないは別として、

 今まで通り、皆、俺に力を貸して下さい。

 異世界から来ていたとしても、

 俺は俺、エイジという人間に違いは無いんです」



そして、俺は深々と頭を下げる。

太腿に手を添え、腰から直角に体を曲げる。



「そして、素性を隠していた事は……謝ります。

 申し訳ありませんでした」



秘密にしたのは自衛のためという理由もあるが、

それは言わない事にする。

理由に関係なく、騙していた事実はあるのだから。



俺が頭を垂れると、黙っていたパーティメンバーの3人が、

それぞれ口を開いた。



「エイジ君……」


「そ、そんなこと、気にする必要はありませんわ」


「そうじゃ、むしろおぬしの異常さが

 納得できたのじゃ!

 これまでどおり、

 エイジはわしらのなかまじゃ!」



3人から送られる温かい言葉。

バディさんも、腕を組みながら、うんうんと頷いている。


場の閉塞感が和らぎ、それを感じたレッカードさんが

すかさず声をかけた。



「というわけで、話し合いも、

 そろそろ終わりにすっか。

 なんだか、腹減っちまったしなぁ。

 バディ、飯にしてくれや」


「おう、構わぬぞ。

 さぁ、皆も疲れたじゃろ?

 飯じゃ飯じゃ、一旦切り上げよう」



バディさんの掛け声で、皆がばらばらに席を立つ。

背伸びする者、腰をたたく者、

いくら良い椅子とは言え、座りっぱなしでは

疲労がたまっていたみたいだ。

皆気の抜けたような顔をしている。


とりあえず、話し合いは終わった。


俺もいったん部屋に戻るか、そう思ったときだった。

ネットさんの絞り出すような声が耳に届いた。



「……なりません」



「えっ?」



一瞬にして、皆の動きが止まる。

決して大きな声で叫んだわけではない。

むしろ、聞こえるか聞こえないかの声量だった。

しかし、声にこもった気迫が動きを止めたのだ。


ネットさんは、自分の声が全員の動きを止めた事に気づき、

慌てて訂正をする。



「あ、いえ、話し合いを続けようというのではありません。

 皆さんは楽にしてください。

 ですが、エイジよ……

 私は、あなたが大規模討伐戦へ参加することは認めませんよ」



ネットさんの顔は真剣だ。

我儘を言う子供を諌める親の様な目で、

俺を見つめ続けている。



「お婆様? 一体なぜですの?」



ネットさんの発言に、マリーさんが横やりを入れる。

ネットさんは、マリーさんの方に向き直り、

静かに質問に答える。



「理由はいくらでもあります。

 まず1つは、討伐戦が危険だからです。

 確かに、今回の大規模討伐戦においては

【英雄の子孫】は強制参加です。

 しかし、エイジがダンクの孫と分かった以上、

 みすみすと危険な場所に送りたくはありません。

 そもそも、エイジは魔法が使えないのでしょう?」


「そんな……

 ですが、エイジさんの強さなら、

 魔法が使えない不利は、たいしたハンデには

 ならないはずです。

 それに、エイジさんが、大規模討伐戦で活躍なされば、

 ノーレッジ様に会えるかも知れないのですよ?

 ひいては、エイジさんが、

 元の世界に帰る方法だって……」



そこまで言いかけたマリーさんを遮って、

ネットさんは言葉を続けた。



「だからこそ認めないのです。

 仮にエイジが【英雄】となりダンクに会ったら、

 エイジは元の世界に戻ってしまうかも知れないのよ。

 マリー、あなたからの報告の手紙を読んで、

 私があなたの気持ちに気付かないと思っているの?

 ライクさんとアインさんだって、

 エイジが居なくなるという事を望んでいるのかしら?」



「そ、それは……」



ネットさんに言い負けて、マリーさんは黙ってしまう。

再び俺の方を向き、ネットさんは喋りだす。



「そういうわけで、大規模討伐戦への参加は認めません。

 私はね、自分の孫にまで同じ悲しみを味あわせたくないの。

 分かって頂戴ね。

 とにかく、魔法庁長官の権限で、あなたの参加は

 はずしておくから、後は私に任せておきなさい」



ぴしゃりと、有無を言わさぬ物言いで、

ネットさんは勝手に全てを決めようとしていた。


どうやら、話を聞いていると、

俺が仲間を捨て、元の世界に帰ることを危惧している様だ。

しかし、俺も一度はこの世界に残る事を真剣に考えた身だ。

少なくとも、自分勝手にもとの世界に帰る事などしない。

もし帰るならば、この世界の人達にきちんと

けじめをつけてから帰るつもりだ。

そもそも、俺の意見を聞かず、この世界に留めようとするのは

少し横暴なのではないか?


そう思った俺は、慌ててネットさんに抗議した。



「ちょ、ちょっと待ってください。

 酷いですよ。

 なんでネットさんが、勝手に留まる事を決めるんですか?

 俺はもとの世界に帰るチャンスを潰したくはありません。

 それに……

 ……仮に帰れるとしても、俺は爺さんみたいに

 突然居なくなるつもりはありませんよ」



俺の言葉を聞いて、ネットさんはうっすらと笑みを浮かべた。

だが、その笑みは楽しくて浮かべたものではない。

悪意や嘲笑と言った黒いものを隠すための笑みだ。



「そうですか。

 まぁ、覚悟など口ではいくらでも並べられます……

 いいでしょう。では条件を出します。

 その条件がクリアできれば、

 大規模討伐戦への参加を認めましょう」



ネットさんは笑みを張り付けたまま、そう言った。



「条件ですか……?」



そうだ、とネットさんは頷き、

さらに、こう続けた。



「パーティを解散して、マリーシアと結婚なさい。

 それが、討伐戦参加の条件です。

 覚悟があれば、それくらい簡単でしょう?」

 



■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 エイジ・ニューフィールド(けっこん?)←NEW!

職業 

   略 

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