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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
90/95

第82話-遭遇

7月2日 火の日 PM13:12



「……私としたことが、

 不覚にも気絶するなんて……」



大魔導師ネット・スローウィンは、

【ラジレイク】の街道を歩きながら、

反省の念に駆られていた。


まだ落ち着かない頭を片手で押えながら、

湖畔の街並みを通り抜けていく。

気絶の原因は、言うまでもない。

あまりに破廉恥な【ドワフィリア】での

あの情報だ。


まさか、かつての自分の憧れであり、

思い人でもあるダンクが、

あんな性欲の権化の様な行動を取るとは、

未だに信じられなかった。



「まぁ、何かの間違いかもしれませんし。

 それに、殿方であれば、

 致仕方ないことでもあります……」



ネットとて、孫を持つ身だ。生娘ではない。

男性と言うものについて、

頭では理解はしているつもりだ。


300歳という、エルフにしては短い生涯を閉じた夫。

彼は優しい男だった。


家同士の政略結婚でもあったが、

忘れられない人がいると正直に打ち明けたとき、

それでも構わないと言ってくれた。


もともと長命種であるエルフは、

繁殖というものへの本能、ありていにいえば、

性欲が薄く、生涯にほんの数回だけ異性と交渉を持ち、

しかし、その数回で確実に1人か2人だけ子を生む。


ネットが夫と床をともにしたのも、

後継ぎを生むための1回だけだ。


純情な彼女の場合、

精神的にはまだまだ乙女と言っても良い。

同性とのお茶会に憧れる可愛さも、

恋愛結婚に憧れる可憐さも持っているのだ。

それゆえに、頭では理解していても、

気持の面で、破廉恥な言動には対処できない。



「しかし、妙なのはバディの言動……」



道を歩きながら、ネットは考えた。


アルバトロス邸へと向かった後、

ネットは、古い友人である

魔石商のドワーフ、バディ・アルバトロスに会った。


お互い、責任ある立場になってしまった故、

ほとんど会うことはできないし、

友人と言っても、同じ苦楽を共にした

冒険仲間の3人に比べれば、友情にも自然と差がある。


それでも、お互いに信頼しているし、

彼は職人気質で楽天家の多いドワーフでも、

わりと堅実でしっかりしている方だ。


しかし、その彼が、

家に入って行くのが目撃されているのに

ダンクのことを知らないと言い、

事情を話して似顔絵を見せると、

今度は、何か納得したように【ラジレイク】の

オフサイド叔父様のもとに行けと言う。


移転術を使用する召喚士の魔法力は、

団体で移動するには限界だった。

やむを得ず、ネットだけが単独で

【ラジレイク】へと向かった。



「一体なぜ……?

 まぁ、とにかく今は急がなくては」



歩き始めてから、はや数十分が経過している。


バディ・アルバトロスの言動に

疑問に明確な答えの出せないままだが、

ネットは今、徒歩をやめて街道を急いでいた。


急ぎ始めた理由は、

道すがら、またもや嫌な噂を耳にしたからだ。


つい先ほど、エルフの女と人間の男のカップルが、

口に出すのも恥ずかしい言葉を

女に大声で叫ばせていたという。


情報の種類からして、今までと同じ、

ダンクに似た男の情報に間違いないだろう。


だが、この情報は新しいものだ。

バディの言う通りに、

急いでオフサイド叔父様のもとに行けば、

ついに情報の源に追いつくことが出来るかもしれない。

そう考えると、急がずにはいられなかった。


商店街を過ぎ、路地を抜け、

下町の集合住宅街に向かう。

そして、とうとうオフサイド・レッカードの

家へと辿り着いた。


中に入ろうと近づくと、

家の中から、何やら会話が聞こえる。

「なぁ……別の……ダンク……」

会話の内容は聞き取れないが、

ネットは出てきた単語に驚いた。


ダンク。そう確かにダンクと聞こえたのだ。


レッカードの家の通りに面した大窓。

その窓から、ネットはそっと中を覗く。



「……いた!」



そこには、待ちわびたあの人の姿があった。


高鳴る鼓動! 一気に目頭が熱くなる。


居ても立ってもいられず、ネットは

無礼を承知で、扉を開けて飛び込む。



――そして最愛の人に抱きついた。




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