第81話-暴かれた秘密
「あっ!こら!まて!この!
おい!
……よし!
よーし!よーし!
そのまま……あっ、クソ。
またかよ!」
現在、7月2日 火の日 PM13:12
レッカードさんに洗礼をお願いしてから、
早くも30分近くが経過している……
「よーし!よし!きた!
入ったぞ!
あっ、くそ!やっぱダメだ!
ケツだけ出してやがる!」
だが、洗礼は未だ、いっこうに終わる気配が無い……
なぜかって?
「くそ!どうなってんだ!
ダメだ! 憑依しねぇ!
光の精霊が……
精霊が、全力で拒否してやがる!」
そう。
俺、精霊に嫌われてるみたいなんだ……
「はぁ……はぁ……ったく!
一体、どうなってんだ!
なんで、なんで精霊が入らねぇ!」
レッカードさんは、必死の形相で水晶に向かい、
手をあちらこちらに動かしている。
もう30分近くもこの動作を繰り返しているので、
その額には、うっすらと汗が浮かんでいる。
「……あの、なんか。
……ほんと、すみません。
無理でしたら、止めて頂いても
結構ですから……」
俺は、いたたまれない面持ちで、
レッカードさんに話しかける。
異世界に来て、3か月……
ようやく、ぼっちで無くなったと思ったら、
精霊さんに全力で避けられる……
これはこれでショックがでかい……
「くそっ!あっ、ダメだ!
……ハァ……ハァ
……そうだな、悪りぃ……
ちょっと休憩するか……」
レッカードさんが、手を止め、
ふぅ、と深い息を吐いた。
その瞬間、精霊はどこかに消えたようで、
張り詰めていた場の雰囲気が元に戻る。
まぁ、戻ったところで
何とも言えない気まずい空気になっているのだが……
「はぁ……
なんていうか……
その……
まさか、あそこまで手ごわいとはな……」
「師匠……
どうしてこんなことに……
やはり……
エイジさんに何か問題があるのでしょうか……」
マリーさんが悲しそうな顔で、レッカードさんに尋ねる。
まるで夫の病気を医者に尋ねる妻の様な顔だ。
やめて、そんな顔しないで!
ますます、いたたまれなくなるよ!
俺の沈痛を察してか、レッカードさんは、呼吸を整え、
なるべく真剣にマリーさんの質問に答えた。
「あぁ、誓って言うが、
決して俺が手を抜いてるって訳じゃねぇ。
もちろん、洗礼の術式にミスもねぇ。
普通は、すぅっと入るのにな……
っていうか、ありえねぇだろ、こんなの!」
だが、やはり予想していなかった結末に、
驚きを隠せないようだ。
レッカードさんはパイプを取ると、小声で呪文を唱え、
指先から小さな炎を出す。
銜えたパイプから紫の煙が立ち昇る。
「では、やはりエイジさん自身の問題ですか……
困りましたね。
一体、何が原因なのでしょう……」
「さぁな……
俺もこんなのはじめてだからな。
そもそも、何でエイジは、
その年まで洗礼を受けて無ぇんだよ?」
「ハハハ…
なんででしょうね……
やり忘れかなぁ……?」
異世界から来たからだよ!とは言えない。
俺は、笑ってごまかすことにする。
「下手くそ魔導師が、
赤ん坊の時にミスったのか……?
いや、でも洗礼を失敗する奴なんて、
そもそも魔導師になれねぇだろ……」
「……わかりませんね」
「あぁ、わかんねぇ。
やっぱり、魔法が使えねぇと不便だよな?」
「えぇ……
ちょっと『マッシブ・ドラゴン』を
4匹ほど狩らないといけないんで……」
まぁ本当は、特に不便はないんだけれど。
ここはさりげなく苦労をアピールしておく。
あなたの弟子にコキ使われてんですよ。師匠。
「あぁ『マッシブ・ドラゴン』?
ひょっとして『竜筋丹』でも欲しいのか?
まぁ、お前さん、
ちょっとヒョロイからな。
でも、止めた方がいいぞ」
「『竜筋丹』?」
「なんだ、知らねぇのか?」
「エイジさん。
『竜筋丹』は、『マッシブ・ドラゴン』の
ドロップアイテムですよ。
これくらいの粒状のアイテムで、
一粒飲めば、筋骨隆々になると言われています」
マリーさんが、親指と人差し指で、
ヒマワリの種ぐらいの大きさを作りながら説明する。
へぇ。そんなドロップが取れるのか。
ちからの種的なアイテムってことだよな。
それって、結構使えるドロップなんじゃないか?
「あぁ、そうなんですか。
それは、かなり魅力的なドロップですね。
ひょっとして、
それで、『マッシブ・ドラゴン』の
個体数が少ないとか?」
ドロップ目当てで乱獲、なんてのはありそうだ。
まったく動物虐待も良いところだな。
えっ?ブーメラン発言?
いやいや、岩トカゲは害獣駆除ですから。
ギリセーフですから。
「いえ、『竜筋丹』には副作用があって、
あまり、使用されませんね」
「副作用、ですか?
飲むと脳筋……頭が悪くなるとかですか?」
「いえ、別に頭が悪くなるわけでは、
むしろ、ある分野については
非常に知識が深まります」
「あぁ、こと筋肉の話題になると、
突然、饒舌になり2、3時間は
語り続ける様になるんだ。
だから止めとけ」
えぇぇぇ、超いらねぇ……
ある意味、脳筋よりタチ悪いよ。
フハハハ!この上腕筋がですねぇ…!とか、
延々語られるってことでしょ?
よし絶対、『竜筋丹』だけは飲まないし
誰にも飲ませないようにしよう。
俺は、危険アイテムの名前を記憶し、
心のノートに太字でマッハの速度で書き込んだ。
「まぁ、ドロップ目当てで、
個体数が減ったってのは本当だけどな」
「えっ?
そんな毒プロティンみたいなもの
欲しがる奴がいるんですか?」
「ぷろて?何んだって?
まぁ、いいか。
あのな『竜筋丹』てのは『不死鳥の涙』と合成すると
特別なアイテムになるんだよ」
「えぇ、死者をも蘇らせるという
伝説のアイテム『エーテリオン』になるそうです」
「へぇ!
それはすごいですね!」
死んだ人間を復活させるなんて、
さすが異世界って感じだな。
そりゃ、乱獲になるわけだ。
「まっ、だけど、その『不死鳥の涙』ってのが曲者でよ。
こいつが幻級に手に入らねぇんだわ。
皆、『エーテリオン』を作ろうと、
『竜筋丹』だけは、どうにか手に入れるんだが……
結局最期まで『不死鳥の涙』を入手できず、
誰も『エーテリオン』を作れないってのがオチよ」
ふーん、まぁそう上手くはいかないよな。
死人が簡単に復活したら、大混乱になりそうだし。
まぁ、なんだ。あの『マッシブ・ドラゴン』に
こんな裏話があったとはな。
世間話もしてみるもんだ。
「おっと、なんだか話がズレちまったな。
よし、じゃあ、
そろそろ洗礼を再開するか?」
「あ、はい!
よろしくお願いします!」
そう言うと、レッカードさんは
首をコキっと鳴らし、再び水晶に手をあてた。
「あっ、そうそう。
お前さんが、洗礼を受けられない原因。
荒唐無稽なもんだが、
ひとつだけ説明できる考えがあるんだ」
「えっ、原因、わかるんですか?」
たとえデタラメでも、わからないよりマシか。
そう考えて喰いついた俺は、
数秒後、自分の耳を疑うことになる。
「なぁ、ひょっとして、お前さん。
……別の世界から来た
ダンクの子孫か何かか?」
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名前 エイジ・ニューフィールド(かんちがい)(動揺)←NEW!
職業
略
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