第76話-ドラゴン・エンジン
7月1日 光の日 PM3:45
ここは、アルバトロス家の敷地内。
「あっ…いや…
でも、まさか、本当に……
こんなに大きくなるなんて……」
「だっ、だめじゃといっておるに……
あん……こ、こら!
そ、そんなに舐めるでない!」
「あぁ!立った!立っちゃったっ!
……これ……ちんちん?
だめっ!……やっぱり……大きいっ!
あぁ、出ちゃう!出ちゃうよ!」
「…………
……あのさ、悪いんだけど、
3人とももうちょっと表現、変えない?」
「……えっ?」
エロい事など何一つしていない!
異世界クエストは良い子の小説です!
……あれから数時間後、
俺たちは順調にアルバトロス家に辿り着き、
軽く『炎の遺跡』に行った後、4人一緒に休息を取っていた。
いや、正確にいえば、4人と1匹……
そう、俺たちは今、懐かしのロンリー・ウルフ
『ろん』と一緒に戯れているのだった。
えっ? 何で犬 (あっ、正確には狼か)と
戯れて、ああなるのかって?
よろしい。日本語の他、ブロント語とみさくら語を操る
マルチリンガルな俺が説明してしんぜよう。
……今の場面、わかりやすく補うとこうなる。
「あっ…いや…(勢いよく来られると少し怖い)
でも、まさか、本当に……(あの『ろん』ちゃんが)
こんなに大きくなるなんて……」
「(檻の中から出ては)だっ、だめじゃといっておるに……
あん……こ、こら!
そ、そんなに(わしの顔を)舐めるでない!」
「あぁ!(後ろ足で)立った!立っちゃったっ!
……これ……ちんちん(犬芸)?
だめ!……やっぱり……(立つと全長が)大きいっ!
あぁ、(跳ねると檻から)出ちゃう!出ちゃうよ!」
なっ? もうなにもエロくない。
……と、まぁ、俺たちも、ただこんなアホなことをして、
遊んでいたわけではない。
なぜ、こんなことをしているのかと言うと、
それは、『炎の遺跡』のドロップ回収を兼ねて、
俺の職業【獣使い】の実験をしていたのだ。
「ってか、改めて見ると、デカイよなぁ……
やっぱ、俺が経験値を稼いだ分
育ってんだなぁ……」
「まだ、言っておるのか?
だから、わしが前にそう言ったじゃろ?」
「いや、それもそうだけどさぁ……
何と言うか……ほら……
……うん。
……これ、育ちすぎじゃない?」
だが、実験の説明をする前に、かなりの変化なので、
もう少し『ろん』について話しをしておこう。
今までの会話で、大きい、大きいしか
言ってないから、あまり伝わっていないと思うが
『ろん』の成長は、想像以上に凄まじかった。
実際、どれほどかと言うと、
まぁ、まずは、ものの○姫のあの犬(子供の方)を
想像してみて欲しい。
はい! そして、そのまま
あの犬を青毛にしてみよう。
そう! まさにそれが今の『ろん』の姿だ!
……うん。まじ超絶怖いよ。
あの愛らしいまめ芝の容姿が嘘のよう。
『ろん』は立派すぎるほど立派な
体長2~3メートルの狼に変身していた。
もう気安く『ろん!』とか呼び捨てにすると、
渋いバリトーンボイスで、
失せろ、わが牙の届かぬうちに……!
とか言われそうで、あまり呼び捨てにしたくない。
下手すると美味しく喰われる。
「まぁ、おぬしだけでいえば……
『ろん』を従えてから神殿で
2回も戦っておるからのぅ……
経験値もすごい速さでたまったのじゃろ?」
「ふーん。そんなもんか……」
「でも、本当に『ろん』ちゃんを
仲間にしといて良かったよっ!
ほら、ちゃんと首輪の袋にドロップが!
よしよし! ちゃんと回収できたねっ!」
「うーん。
でも俺はいまいち信用できないんだよなぁ……
倒したモンスター、
こんなに少なかったっけ?」
「こんなもんじゃろ?
大丈夫じゃ!
おぬしが『アイテムを回収しろ』と
めいじた以上、ぜったいに実行されたのじゃ!」
「そうですよ。エイジさん。
【獣使い】のジョブはそういうものです。
ロンリー・ウルフは
もともと視力や嗅覚の良い魔物ですし、
信用しても良いと思いますよ?」
「うーん。
そうかなぁ……」
えっ?
まだ『ろん』の存在とドロップ回収が結びつかない?
あぁ、それは無理もないかもしれない。
俺もこんなこと出来るとは思わなかったからな。
簡単にいえば、俺たちは【獣使い】の力を使い
『ろん』に『炎の遺跡』のドロップ回収をさせたのだ。
そもそも『ろん』に回収させたのはアインの提案だ。
俺が『炎の遺跡』の探索に行こうとしたところ、
アインが【獣使い】を試せとしきりに言うのでこうなった。
どうやらアインには何か、確認したい事があったようだ。
まぁ、俺たちがダラダラとドロップを探すよりも、
マリーさんの言う通り、
探索能力が優れる『ろん』が探した方が、
確かに合理的だったのかもしれない。
そして、あとは先ほどから見ての通り、
ちょうど今、時間を見計らって、
俺が【獣使い】の移転術で『ろん』を
檻の中へと戻したところだ。
「よしよし、
ちゃんとエイジは【獣使い】の能力を
使えるようじゃの!」
「あぁ、俺にもこんな不思議能力が
使えるなんて現実味がないけどな……」
まぁ俺もVRゲームで魔法くらいは使ったが、
異世界に来てこんなファンタジーな能力を
使ったのは初めてだ。
特に、モンスターが自分の命令どおりに
動くというのは、余り実感がわかない。
「まったく、げんじつみがないとか
しんようできんとか……」
アインがやれやれと首を振りながら俺をなじった。
「まぁ、そんなにしんようできんなら、
念のためあとで見回りに行かせるがのぅ。
でも、ドロップの数が少ないということは、
おそらく先に誰かが拾ったのじゃろう?」
マリーさんが『ろん』を撫ぜながら相槌を打つ。
「まぁ、ドロップが勝手に消えるとは
思えませんし……
『ろん』ちゃんを遺跡に送って行った時も、
ドロップが再び魔物になっていた様子も
ありませんから。」
「でもさぁ。
フレア・コングのドロップも無いけど?」
「それこそ、ほら、
貴重なドロップだから
まっ先に拾われたんじゃないっ?」
どうやら、懐疑的なのは俺だけで、
ライクちゃんも、ドロップの回収は
無事終了したと考えている様だ。
でも、俺は何か引っかかる……
「ほれほれ! そんなことより、
そろそろ『飛行艇』のところに行かんとの!
エイジが【獣使い】を使えるとわかった以上、
次はドラゴンの確保じゃからな!」
「……?
ドラゴン……?」
「えぇ! そうですわね!
さっ、アインさん、お願いします!」
「『ろん』ちゃん!
また後でね!」
アインの口から、ドラゴンがどうのと聞こえたが、
ライクちゃんとマリーさんは、
特に気にする様子もなく、
ニコニコとアインの後ろについて移動し始めてしまった。
「……ドラ……ゴン?」
そして、20分後。
屋敷の敷地を移動し、
俺たちは、裏庭近くの巨大な倉庫に辿り着く。
シャッターの空いた倉庫の入り口に
うっすらと、小さな人影が見えた。
「あっ、バディ爺!
なんじゃ、倉庫におったのか!
屋敷に着いてすぐ、
挨拶しようと探したんじゃぞ!」
「おう、アイン!
なんじゃ、帰ってきとったのか!」
影の正体は、アインの祖父、バディさんだった。
相変わらずの小太り、白ひげの好々爺で、
いかにもドワーフ、といった感じだ。
「おう! エイジもおったのか!
それと、ライクちゃんとマリーちゃんじゃな!
マリーちゃん、ネットの奴は元気かい?」
「えぇおかげ様で。
お久しぶりです、バディさん」
初めてアルバトロス家に厄介になった時は、
俺だけがバディさんに会ったはずだが、
天空剣の修理やその後の滞在を通じて、
ライクちゃんもマリーさんも、
今ではバディさんとすっかり仲良くなっている。
「みんな元気そうじゃのぅ!
そうじゃ、エイジよ、
天空剣の調子はどうじゃ?」
バディさんは、はっはっはと軽快に笑いながら、
俺にも話しかけてきた。
「えぇ、ばっちりです。
あっ、でも少し聞きたいことが
あるんですが……」
と、以前に、ギルドで測定(破壊)を行ったとき、
攻撃力の数値に引っかかりを感じていた俺は、
バディさんに質問をしようとする。
しかし……
「そんなのは後じゃ!
のぅ、バディじぃ。
これから少し、わしの『飛行艇』を使うぞ」
「おー使え使え!
何なら、わしのを使っても良いぞ!」
今日入荷したばかりの新型じゃぞ!
し・ん・が・た!
はっはっは!」
アインの強引な割り込みによって、
俺の質問は、うやむやにされてしまった。
まっ、バディさんも『飛行艇』まで
ついてくるみたいだし、後で聞けばいいか。
「しかし、本当に立派な倉庫ですね。
わたくし、
どんな『飛行艇』か、
わくわくしてしまいます!」
「はっはっは、
『飛行艇』はわしの趣味じゃからのぅ!」
俺がもたもたしている間にも、他の4人は
どんどんと倉庫の中に入っていく。
どうやら、倉庫には地下があるようだ。
バディさんとアインの後に続き、
俺たちは倉庫をさらに地下に地下にと降りていく。
……だが、先ほどから何かおかしい。
話を聞いていると、どうやらアインもバディさんも、
自分で『飛行艇』を持っているようだ。
確かに、昨日の話では、「確保」「確保」と、
予約制みたいな話をしていたはずなのに……
俺は、嫌な予感を感じながら、
離されないように他のメンバーの後ろをついていく。
カンカンカンと鉄板製の階段を下りる音が
倉庫に響く。
そして、それに混じって、
下に降りるほどに聞こえてくる
ギャース!ギャース!という謎の鳴き声……
「ドラゴン」「確保」「獣使い」……
「移動だけで」3週間……
「エイジなら大丈夫」……
あぁ、なんだか展開が読めてきた……
「さぁ、着いたぞ」
その言葉に足をとめた俺たちは、倉庫の中空、
ちょうどロフトの様な場所で下を見下ろす。
「ほれ、この下じゃ」
バディさんが指さした先には、
観光バスの様な形の翼の付いた車と
そこから延びる鎖に繋がれた、
乗用車ほどのサイズのドラゴンが2頭……
「あぁ、やっぱりか……」
どうやら、この異世界の飛行艇は、
F○やドラ○エに出てくる魔法の動力で動く
船型の『飛行艇』ではなく、
ドラゴンが引く馬車の様なものらしい。
「……アイン、一応聞くけど
『飛行艇』って動力はドラゴンか?」
「……あたりまえじゃろ?
他に、車を引けるような
ひこう型の まものがおるのか?」
……やはり、動力はドラゴンか。
しかし、それだけならば構わない。
問題は、俺の嫌な予感が当たっているかだ。
「そっ、そうか。
で、でも、あのドラゴンがいるから
俺たちは何もしなくても……良いんだよな?」
「はぁ……
おぬしは、なにを言っておるんじゃ……
遊覧用の『カイトドラゴン』じゃ、
とても間にあわんじゃろ
それに3週間もあの小さな『飛行艇』ですごせるか?
わしの『飛行艇』はあれじゃ……」
「小さなって……?」
アインは黙って、俺が見ていた『飛行艇』の後ろを指さす。
そこには……
「……うそだろ」
その先には、普通の一戸建て程の大きさの『飛行艇』と
1本が人間3人ほどのサイズの、超極太の鎖が4本……
「さっ、それじゃあ、エイジよ!
『マッシブ・ドラゴン』4匹!
【グランキャニオン】まで、さっそく確保しに行こうかの!」
「あっ、あぁぁ……」
……残念ながら、俺の予感は的中した。
……こうして俺は、(おそらく)超巨大サイズのドラゴンを、
(おそらく)1人で、4匹もハントすることになった。
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名前 エイジ・ニューフィールド(かんちがい)(絶望)←NEW!
職業
略 【獣使い】
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