表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
83/95

第75話-勘違いグランアルプ編

7月1日 光の日(表)



「ねぇ……本当にさ。

 グランアルプに戻らない?

 俺、グランアルプで凄く

 大切な用事があるんだけど……」


「なんじゃ、急にやる気になったと思ったら

 今度は、戻りたいと言いだしたり、

 おぬしは本当にわがままじゃな!

 だいいち、昨晩、あきらめると約束したじゃろ?」



ここはアルバトロス家に通じる道の途中。

吹き出る蒸気と熱気のあふれる職人街。

……そう俺は今、既に【ドワフィリア】の町にいる。



昨晩、マリーさんから思わぬ報告を受けた俺は、

必死の抵抗でグランアルプに留まる事を主張した。


うちの爺さん新原則冶こと、

ノーレッジ・ニューフィールドが、

グランアルプで発見された。


これは元の世界に帰ることを第一目的に

行動してきた俺にとって、

なによりも優先すべき重大事件だ。


爺さんがこの世界に生きているのであれば、

おそらく俺が異世界に来た原因を知っている。


事の真偽を確かめるため、今後の活動を決めるため、

是非とも1度会っておきたい。

それは、例え俺がこの異世界に留まる覚悟を

決める場合でも、変わりはない。


……しかし、そんな俺の思いを秘めた主張は、

昨夜の段階で、仲間によってことごとく却下された。



「だめだよっ! エイジ君!

 アインさんの話だと

 大規模討伐戦まで結構ギリギリなんだから!

 あんまり、のんびりしてられないんだよ?」


「まったくじゃ!

 飛行艇の確保にどのくらい時間がかかるとも

 わからんのじゃぞ!?」


「お婆様を手伝っていただけるという

 お気持ちは大変うれしいのですが……

 エイジさんは、自分のやるべきことを

 なさってください。」



と、まぁ核心を隠しながら

ノーレッジさんを探したい、とだけ言えば

こうなるのも当然か……


いつもであれば、俺もこのあたりで

へたれるのだが、今回ばかりは事情が違う。


大規模討伐戦への参加を進める代わりに、

俺は、マリーさんにあるお願いをしたのだ。



「わかった。わかったよ。

 ノーレッジさんを探すのは後でもいい。

 でもその代わり、マリーさんにお願いがあります。

 1つ、ネットさんが、ノーレッジさんを見つけたら

 俺にも会わせてくれること。

 2つ、ノーレッジさんを見つけた人がいたら、

 その人に、あなたの孫が探している、と

 ノーレッジさんへの伝言を依頼すること。

 この2つをネットさんに約束してもらえませんか?」




結論から言うと、俺の願いはおそらく聞き入れられた。


おそらくというのは、マリーさんは移転術を使って

ネットさんと手紙のやり取りをしているらしく、

この程度の約束ならば返事を待つまでもなく

受け入れて貰えるだろう、

というマリーさんの言葉を信じてのことだ。


こうしておけば、ネットさんが捜索をしている以上、

俺がグランアルプを探さなくても爺さんは見つかるだろう。

仮に見つからなくても、目撃者を通じて

爺さんに俺の存在が伝わる可能性がぐんと高くなる。

そうすれば、向こうから何かしらの接触があるかもしれない。



こうして、俺はこの2つの予防線を張ったうえで、

飛行艇を手に入れるべく【ドワフィリア】に向かったのだった。






7月1日 光の日(裏)



ネット・スローウィンは、

宿営地で王都の騎士と談話して以降、

解散されていた、ノーレッジの捜索隊を再結成し、

また、自らも多忙な予定を無理にこなしてまで、

【グランアルプ】での捜索作業に加わっていた。


捜索本部となっている宿の一室、

自分の仕事の資料と捜索資料とが山になったテーブルで、

ネットは書類と格闘していた。



「ネット様……

 ネット様が騎士団長の記憶から見た

 青年は本当にノーレッジ様なのでしょうか?

 一応、似顔絵付きの手配書を用意し、

 グランアルプをくまなく捜索しておりますが……」



側近と思われる初老の男が、ネットに向かって話しかける。

ネットは、手を止め、質問に答えた。



「えぇ、あの顔、あの姿。

 多少筋肉が衰え、顔も緩んでいましたが

 間違いなく、あの頃のノーレッジの面影を

 残していました」


「ですが、ノーレッジ様が行方不明になったのは

 いまや50年ほども昔……

 我々、エルフならいざ知らず短命種な人間が

 青年のままの姿とは、とても考えられません」


「いいえ、召喚術においては、別の世界から

 精霊を呼び出した場合、その精霊の世界では

 時は止まったままになると言います。

 なんらかの魔法の影響で、ノーレッジが

 あの頃のままの姿でいるという可能性も

 捨てきれません」


「ですが、その様な事が……」


「それに、この本……

『世界アイテム装備図鑑』は間違いなくノーレッジの物でした。

 この書き込み……

 皆で闇の魔王を打倒しようと研究を重ねた

 あの頃の文字そのままです!」


「ですが、その本ですら、

 誰かのいたずらという可能性も……」


「……これを御覧なさい。

『世界アイテム装備図鑑』は何度も再版されている本ですが

 この本の版には『天空剣』の記載が不明となっています。

 それもそのはず、『天空剣』は、私たちが入手するまで

 他の神具と違い研究が進んでいないものだったのです」


「それは、存じておりますが……」


「そして、当然、今販売されている全ての版には、

 私たちが研究した『天空剣』の説明が記載されています。

 まぁその記載も完全ではなく

 固有スキルなど不明な点もありますが、

 そこは問題ではありません」



ネットは、『世界アイテム装備図鑑』を指さし、

該当のページを開いて見せる。



「つまり、誰かのいたずらとするならば、

 その者は今や入手困難な

 過去の版の本をわざわざ探し、

 そこにノーレッジと同じ筆跡で、

 同じページに、同じ内容の書き込みをしなければならない。

 いたずらで、この様な面倒なまねはしないでしょう?」




ネットは、パタンと本を閉じ、

まっすぐに側近の男を見つめた。


ネットの説明は必ずしも十分でないかもしれない。

しかし、彼女のノーレッジを思う気持ちが、

この機会を無駄にしたくないと、

あらゆる悲観的な予想を排除していた。


そして、それを感じた側近の男も、

それ以上は何も言わなかった。

部屋に、しばしの静寂が訪れる。



だが、この静寂は思わぬ形で喧騒へと変化することになる。


その発端となったのは、ある捜索員と

彼の連れてきた目撃者だった。



「ネット様!ネット様!

 やりました!

 手配書の似顔絵の人物を

 知っているという方たちがいました!」


「本当ですか!

 では、私も直ちに、その方たちの処へ!」


「いえ!

 既にこちらに来て頂いています!

 皆さま、お入りください!」



部屋に入って来たのは、鍛冶屋の親方と、見習いのお兄さん、

そして、道具屋のケットさんと、町の騎士団員だった。



「あなた方が知っているは、

 確かにこの似顔絵の人物なのですね?」


「おうよ、あんたらかい。

 トカゲの野郎を探してるのは?」


「親方、マズイっすよ!

 この人たち、偉い人なんすよ?

 もっと丁寧に話さないと!」


「トカゲ!?

 トカゲがどうかしたのですか?」



知人という男性の口から発せられた聞きなれない単語。

しかし、鍛冶屋の親方の話はかまわず続けられる。



「あん? 『癒しのトカゲパンツ』は、

 あいつの通り名じゃねぇか」


「トカゲ……パンツ!?」


「あー、そうだ。

 おっと、ギルドをぶっ壊してからは

『癒しのパンツブレイカー・トカゲ』だっけか?」


「あ-そうっす!

 今の通り名は、それっすね!」


「癒し……

 パンツブレイカー……」


「そうともよ。全くあの野郎は、大した野郎だぜ。

 なんたってあの獰猛なアルプの岩トカゲを

 己の欲望のまま、絶滅寸前まで

 狩り込んだんだからなぁ!」


「いやぁー、あのときの宝石を抱えたトカゲさん。

 悪い顔してたッスよねぇ!」



突然告げられる衝撃の事実に、目の前が暗くなるネット。

だが、彼女はノーレッジが……あの優しいダンクが

そんなことをするとは、とても信じられない。



「ま、まさか……

 で、では、その活躍がもとでその通り名に……?

 なるほど、岩トカゲの皮で腰巻か何かを

 しつらえた為、パンツなどと……?」


「……いえ? 違いますよ?

 トカゲさんは、うちの店でパンツを買おうとしたり

 女性服を買おうとしたりして、騎士団の人に

 連行されたからです」



道具屋のケットさんがおもむろに口を開く。



「……そんな、いくらなんでも

 そんなことは……」



真偽を確かめようと、ネットは

騎士団員をすがるように見つめる。

政府の機関の一員である彼ならば、

きっと正しい情報を提供してくれるはずだ。



「はっ、大魔導師殿!

 それは、本当であります!」


「まっ、まさか……」


「それどころか、自分はトカゲ殿が

 職業【ヘンタイ】であることも

 確認済みであります!

 風の噂では、その後、さらに研鑽を重ね

【紳士】まで上り詰めたと聞いております!」



まさか、騎士団の団員から

この様な事実を告げられるとは……

この機会を無駄にしたくないと、

あらゆる悲観的な予想を排除していたネット……

だが、今は別人であった方が

まだ希望があるとさえ思えてくる。



そして、残酷にも加えられる

止めの一発。



「そういえば、最近ライクちゃんがうちに来て、

 トカゲさんに生ぱんつを盗まれたって泣いてたわ……」


「うぁわ……

 それは俺、初耳っすわ……

 正直、ドン引きっす……」


「なんでも、履いてるのを直に脱がされて

 頭に被られたって……」


「お、おい。本当かよ。

 トカゲの野郎……

 えげつねぇなぁ……」


「やはり、あの時、

 逮捕しておくべきだったのでありましょうか?」


「あ”ーあ”ーあ”ーダンク!

 だぁぁあぁぁんく!!」


「おっ、おい!! いかん!

 誰か、ネット様を! 

 ネット様! お気を確かに! 」

 嗚呼、まずい! はやく、誰かー!」




混乱のうちに打ち切られるグランアルプでの捜索。

そして、しばらくの後、

トカゲパンツについて、新たな噂が立った。



「おい、知ってるか?

 冒険者のトカゲパンツさん……

 あの年で、もう孫がいるらしいぜ?」


「おい! 本当かよ!」


「あぁ、鍛冶屋の親方たちがよ。

 伝言を頼まれたって。

『あなたの孫が探している』ってさ……」






ノーレッジ・ニューフィールド捜索報告①


救世の英雄ノーレッジは、奇跡の復活を遂げたようだが、

その反動で……


■■■■■■■■■■■■■■■■■■

①バイオレンスに動物を虐待し、

②異常なまでにパンツを愛でる、

③ドヘンタイの【紳士】になっていた。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■






嗚呼、悲しきかな勘違い……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ