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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
82/95

第74話-オーヴァル・クリースの手記

闇の国王都守護騎士団

団長オーヴァル・クリースの手記より。




6/20、木


我々、闇の国王都守護騎士団は、各国の騎士団同様、

大規模討伐戦に参加するための行軍を継続中である。


後ゴルドー歴2012年 5月下旬の某日、

中央王国、王都国際評議場にて、

各国代表および魔法庁長官ネット・スローウィン等が集う

国際評議が開催され、大規模討伐戦の開始が内密に決定した。


今回の大規模討伐戦の目標は『魔王認定』の候補である

デンジャラス・メタル・キング・キメラティクスライムである。

目標は、現在、光の島周辺に留まっている様子だが、

完全な姿を確認できてはいない。


事前に収集された情報によると、この魔物の特徴は

「分裂」と「吸収」にある。

報告によると各地で、回収する前のドロップアイテムが

消える謎の現象が起きている。

おそらく、分裂した魔物の一部が、ドロップを吸収合体し、

さらなる力を得ていると推測できる。


現在はまだ、吸収はドロップに留まり、

他の「生命体」が吸収される事態は報告されていない。

が、このまま放置すれば、その危険は高まるだろう。




6/21、金


明日からは、わたしだけ隊列を離脱し、グランアルプを経由する。

義兄の見舞いがてら、姉上に討伐作戦に参加できないか

打診するつもりだ。

怪我の具合いかんでは、もちろん義兄も参加して頂きたい。


闇の国指定危険生物ギガ・バイソンをも両断する

怪力の斧使い、通称「バイソン殺しのブル」と、

元暗殺部隊長で「首狩りクリケット」の異名を持つ姉上。


2人とも第一線を退いたとはいえ、

逃すには惜しい戦力だ。




6/23、闇


……あの青年は大丈夫だろうか。

きっと今頃は、わたしの代わりに姉上のお仕置きを

受けている頃だろう。


確か、えーっと名前は、たしか○○ジ…

……カイジじゃなくて、サダジでもなくて……

あぁ、いかん。

どうしてわたしは、こうも人の名前を覚えるのが苦手なのだ。

もうめんどくさい。話が進まないから、

ノリで、ノリジ(仮)と呼ぶとしよう。


まぁ、そのノリジ(仮)という少年。

どういう仕掛けを使ったのか知らないが、

ギルドの測定室を半壊させたのは事実だから

申し訳ないが、お仕置きは自己責任と諦めてもらうしかない。


はじめて姉上のアレを体験するとなると、

おそらくはトラウマになるだろうが

……そこは、ご冥福を祈ろう。


勢いで彼の所持品『世界アイテム装備図鑑』を

持ってきてしまったし、ノリジ(仮)が生きていれば

いずれ返却し、その時に恩返しすればいいだろう。


しかし、あの打撃があの少年の実力だとしたら……

ノリジ(仮)の実力は、歴代の英雄クラスに

連なるのではないか……




6/24、光


……結局、姉上にバレてお仕置きされた。


ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。




6/25、火


本日、ヒトヒトマルマル。本隊と合流。


え? ち、ちがう!!

決して姉上が怖くて逃げてきたわけではない。

た、団長たるわたしが、何日も部隊を抜けるわけにはいかないからなっ!

大丈夫。わたしはヘタレではない。

がんばれ、わたし!




6/26、水


本日、ヒトゴーサンマル。木の国国境付近に到着。


明日は、光の島へ向かうため、木の国の【エルフム】を

抜けなければならない。

あそこには魔法庁長官の自宅がある。

他国の軍隊が通過する以上、一言挨拶に行くべきだろう。





……そして、6月27日、木の日 


PM10:30


 


「あぁ団長。探しましたよ。

 こちらにいらっしゃいましたか……」



わたしが手記を見ていると、宿営地のテントの入口が

パサリと音を立てた。


ランタンの光に照らされたオレンジ色の幕内に

カシャカシャと音を立てながら、甲冑をつけた

若い男が入ってくる。



わたしは顔を上げ、その男の方を向く。



「…あぁ、千人長か。

 すまんな、すこし手記を検めていたのだ。

 それで、ネット殿との面会の手はずはどうなった?」


「えぇ……

 それがネット殿は思ったよりも気さくな方でして……

 面会を申し入れたところ、それならば直接、

 宿営地まで出向くとおっしゃられまして……」


「なに? それはいかん。

 本来ならば、こちらから出向くが道理。

 ましては、相手はあの大魔導師だぞ。

 改めて、正式に明日伺うと申し入れてこい」


「それがですね……」



わたしが千人長を窘めると、千人長は困ったように

視線をテントの外に向けた。


シュル……という布をめくる音とともに、

美しいエルフの女性が現れる。




「あら、でももう来てしまいましたから」


「……これは……ネット殿!」




大魔導師ネット・スローウィン。

武骨な宿営地のテントには不似合いな

気さくな笑顔と佇まいで彼女は不意に現れた。



「ふふふ、ご迷惑だったかしら

 突然、夜分に訪問したりして……」


「いえ、決してそのようなことは。

 本来であるならば、我々が伺うべきところを、

 本日は、わざわざこの様な場所に

 ご足労頂きまして……」


「あっ、だめだめ。

 窮屈なのは無しにしましょう。

 そういうのが嫌で、ここに出向いたのですから」


「はっ、寛大なお言葉。

 恐縮です」



突然現れた彼女を警戒していた わたしだが、

どうやらネット殿はとくに思惑も無く

本当に、単純に挨拶に訪れた様だった。


彼女は、エルフムの通過を了承する、と手短に用件を伝えると


「すこし、お話していっても良いかしら?」


と、後は わたしとの雑談を所望した。

以前、国際評議場でみた凛とした姿はなく、

そこには物腰の柔らかい女性の姿があった。



「宿営地ゆえ、この様なものしか

 ありませんが……」


「あら、覚醒草のお茶ね。

 ありがとう。」




十分なもてなし等できないが、

取り急ぎ、アイテムの『覚醒草』で茶を入れ、

士官用の茶器を出して勧める。



ネット殿が護衛を1人もつけていないのは、

我々に気を許しているからなのか、

それとも軍隊1つ程度であれば

いつでも壊滅できるという事なのか……



しかし、そんな恐ろしい魔術の実力を感じさせないほど、

彼女は、まるで戯曲の妖精の様に儚げだった。

すでに300歳に近いはずだが、

白いレースの服に身を包み、

淡いランタンの光に照らされながら

椅子に座る姿は、妙齢の女性にしか見えない。


女である わたしから見ても、

聖母のような暖かさと美しさを感じずにはいられない。

エルフには、美男美女が多いと言うが、

彼女は特別に美しいのだろうか。



「どうかしました……?

 私の顔になにかついていて?」


「あっ、いえ、その、

 あまりの美しさに……

 あ、いえ、申し訳ございません!」



わたしは、動揺のあまり不用意な事を口走ってしまう。

なぜかわたしは顔を赤らめる。

しかし、ネット殿はそれを咎めることもせず、

静かに微笑んでいた。



「まぁ、お上手ね。

 でも、私ももうお婆ちゃんなのよ……」


「いえ、その様な……」


「いいのよ。誰も年には敵わないもの。

 これでも、昔はそこそこ殿方に

 人気があったのだけど……

 結局、意中の男性には振り向いて

 貰えなかったわ。

 私の美しさなんて、その程度よ」



ネット殿は少し照れながら、

カップを取ると静かに口をつけた。



「ふぅ……美味しい。

 しかし、ここは良いわね。

 こんな風に野営をしていると

 なんだか昔のことを思い出すわ……」


「昔とは、ノーレッジ様と冒険を

 されていた頃でしょうか?」


「そう、あの頃はまだ魔石も

 そんなに発達していなかったから

 宿がない時は、こんな風にテントとランタンで

 野宿をしたものよ」


「それはネット殿もですか?」


「えぇ、もちろん私も。

 パーティは私以外、男性だったけれど一緒に過ごしたわ。

 こうしてなんでもない夜は、

 ノーレッジとバータは、腕相撲なんかして……

 よく勝ち負けで喧嘩していたわね。ふふっ。

 それを、アウトが迷惑そうに見てるのよ。

 しかめっ面で『君たちには気品がない……』とか言いながらね。

 それで、私は魔導書を読みながら、その騒ぎを聞いているの……」


「ははは、英雄のパーティとは思えぬ

 賑やかさですな」


「ふふっ、えぇそうなの!

 思えば、あの頃が一番楽しかったわ……

 嫌ね、時の流れというものは……」



宿営地の様子に昔を思い出したネット殿は、

英雄たちの意外な素顔を饒舌に語った。

その後も話題は尽きることなく。

しばらく平穏な夜の茶会は続いた。



「ふぅ…なんだか楽しくて、

 すっかり、話し込んでしまったわ。

 そろそろ、お暇しようかしらね……

 ……あら? あれは何かしら?

 まぁ、団長さんも本をお読みになるのね?」



帰り際、ネット殿が、不意に

荷棚に置かれている本に気づいた。



「あぁ、そこの本でしょうか。

 それは、なんというか、預かり物でして……」


「ずいぶん古いもののようだけど、

 見せてくださる?」


「……えぇ、かまいませんが」



わたしは、荷棚に置かれた、あの少年の本を

手に取り、ネット殿に手渡した。

まぁ、見せるくらい問題はあるまい。



「……あら、この本。

 私の好きだった人もよく読んでいたのよ。

 なんだか、不思議ね。

 今夜は本当に、あの頃に戻ったみたい……」



表にある『世界アイテム装備図鑑』の文字を見て少し驚くと、

ネット殿は懐かしそうに眼を細め表紙をなでた。


パラパラと紙をめくる音がして、

時折、ページが止まる。

あの青年の持っていた古い本だから、

書き込みが気になるのだろう。


しかし、本を眺めるネット殿の表情は、

まるで信じられないものでも見たような、

驚愕の表情に、みるみると変わっていった。



「……団長さん?」


「……いかがなされましたか?

 ……ネット殿?」


「この本、どこで、どなたから

 預かったのかしら?」


「……グランアルプのノリジ(仮)

 という青年ですが?

 それが、何か?」



突然のネット殿の質問。

表面上は、落ち着いているものの、

明らかに先ほどまでとは異なる感じがする。


異様な様子につられて、わたしも自分でつけた仮称のまま

あの青年の名前を告げてしまう。


質問の意図をつかみかねているわたしに、

ネット殿が話を続ける。



「……ノーレッジ!? いえ、でもまさか……

 ……団長さん。

 いきなり、変な事を聞いてごめんなさい。

 でも、これは私にとって、とても大切なことなの。

 あぁもう……話すのもじれったいから、

 すこし、記憶を覗かせて貰ってもいいかしら?」


「えっ、あ、はい。

 わたしは別に構いませんが……」



記憶を覗く?

大魔導師ともなるとその様な事も可能なのか?

戸惑うわたしを余所に、ネット殿は熱を計るように

わたしの額に手のひらを置き、小声で呪文を唱える。



そして数秒。

わたしの膝に、熱い滴がポタポタと落ちた。

ハラハラと、突然、涙を流すネット殿……



「ダンク……!

 ダンクが生きている……!?」


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