第7話-奴の名はエイジ
あたりはすっかり暗くなった。
公園に野郎が二人。
ひっそりと座っている。
新原英治と、リストラおじさんだ。
おじさんは、冒険者ギルドに勤めている。
やけに冒険者のことに詳しかったのは、そのせいらしい。
そして、リストラされた。
いや、正確にはされる一歩手前らしい。
事情を(無理やり)聞かされたので、整理してみた。
・この世界の冒険者ギルドはマネージャー制を採用している。
・マネージャーは冒険者を情報等でサポートし、クエストの報酬を山分けする。
・割合はそのペアが自由に決めていい。
・ギルドの仕事は職員全員で分担するが、その給料は最低額しか支給されない。
・不況のため、ギルドの人員整理。
・おじさんは、ペアの冒険者に逃げられた。
・今週1週間以内に新規で冒険者を加入させないとクビ。
っと、いうことだ。
前回のおじさんとの会話で、いろんなことが分かった。
この世界が地球と同じ単位、時間を持っていることもその1つだ。
まぁ多少、名称は違う。
それはこの世界の魔法の法則をなぞったものだ。
光、火、水、木、金、土、闇。
右から左に進むと弱点属性だ。
ちなみに、今日は土の日。
えぇぇぇぇ。
まぁ正直、ここまで聞かされると、どうにかしてあげたくなる。
ぶっちゃけ、俺が冒険者ギルドに入ればいい話だ。
しかし、おじさんは残念そうにほほ笑む。
「気持ちだけ、貰っておくよ」
曰く、ギルドには、ランクがある。
おじさんは最上級と言われるSランク担当だ。
どう見ても弱そうな俺は、加入することすら無理だろうと。
「ありがとう、少年」
おじさんは、手を差し出す。
親愛の表現であり、合意のあかし。
それを別れの挨拶に、この場を去るつもりだ。
「そういえば、名前を聞いていなかったな。
教えてくれるかい?」
この人の力になれなかった。
俺は、やるせない気持ちを胸に、なるべくほほ笑みながら名乗った。
「新原 英治です」
ピシッ
おじさんが止まる。
その後、一人で、あっはは、まさか、という仕草をする。
Oh、ジョニー。
それどんなアメリカ人。
「もう一度、名乗ってくれないか?」
おじさんが笑顔で再び尋ねる。
しかし、目は笑っていない。
あぁ、そうか、しまった。
日本の名前はまずいだろ。
それとも何か?
パンツ騒動が原因か?
焦り出す。
嫌な汗が背中に流れる。
しかし、今更言い換えても不自然だ。
しかたなく、繰り返す。
「新原 英治……で……す」
おじさんが動揺し始める。
急いで、羽ペンと紙を出し、インクを付けてなにか書きだした。
そして……
「エイジ・ニューフィールド」
これが、本当に君の名前なのか!?
この世界の綴りでそう書かれた紙を、俺に突き付けてきた。
この世界では言語は俺に意味が分かるように翻訳される。
俺の日本語が相手に通じると言うことは、逆もまたしかりだ。
漢字で書いた文字も、この世界の綴りと音で訳される。
ニューフィールド……
俺から見れば、新原の名字を一文字ずつ、英語変換しただけ。
どうして名前は変換しないのか?
とか突っ込みどころはある。
だが、翻訳は間違いないと頭が告げている。
「はい…そうですけど……」
覚悟を決めた。
野宿もブタ箱も変わりないさ。
パンツ騒動のせいで気分はすっかり犯罪者だ。
おとなしく、お縄に着こう。
明日には誤解も解けるだろう。
しかし、おじさんの態度は、俺の予想したものと違っていた。
なんていうか、水を得た魚状態だ。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ」
今度はポケットから、魔導機を取りだす。
そして、今度は神妙にこう言い放った。
「いいかい、君は優しい少年だ。
だから、わたしを励ますため嘘をついたなら、咎めるつもりは無い。
知っていると思うが、魔導機には【アナライズ】機能がある。
訂正するなら、今のうちだよ」
なんのことだか、さっぱりだった。
どこで嘘をついたのか?
アナライズ、俺の知ってる意味ならば、「解析」だ。
「かまいません。嘘はないですから」
本当だ、やましいことは何もない。
おじさんが写真を取る様に魔導機を構える。
カシャ
「なん……だと……」
古のオサレ漫画の名台詞を吐きながら、おじさんは固まる。
そこには……
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名前 エイジ・ニューフィールド (へたれ) ←NEW!
職業
略
装備
略
強さ
???
スキル
略
ゴミ箱
略
持ち物
略
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