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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
77/95

第69話-散髪

「はぁー……

 本当、何だったんだよ……」



ここは【グランアルプ】の市街地。


部屋を飛び出し、3人の誘惑から逃れた俺は、

ぶらぶらと町を彷徨っていた。



「特に何かしたわけでもないのに、

 急に優しくされるなんて……

 こんなの絶対、おかしいよ……」



あの優しさは何だったのか?

俺は、耳から耳の生えた謎生物の陰謀を疑いつつも、

とりあえず鍛冶屋の方へと歩みを進める。

行くあてなど特に無い。



ライクちゃん達の不可解なイチャつき行動。

理不尽とも言える3人の変り身は、

俺にえもいえぬ不安を感じさせていた。



「絶対、何か裏があるはずだよなぁ……」



なにせ相手はあの3人だ。

俺の仲間が、あんなに優しいわけがない。

下手をすれば、悪意も殺意もあるんだよ? といったところだろう。

きっと、あの行動にも何か裏があるはずだ。


もっと仲間の気持ちを考える、と

俺はグランポートで誓ったのだ。

行為を鵜呑みにしてはならない。



俺は、道を歩きながら、

よくよく思考をめぐらせてみた。




……そうだ。

まずは基本から考えてみよう。



元の世界では、女友達など皆無。

放課後、寄り道するカップルを見ては、

親の仇とばかりに呪っていた俺だ。


こんな俺に、異世界とはいえ、

突然、女子に好かれるという奇跡が起るだろうか?



答えは、当然にNOだろう。



そうだとすれば、この変化は、

チートではなく因果関係あってのもの。

つまり、俺が何かフラグを踏んだ結果に違いない。

きっと、どこかにフラグを立てた原因があるはずだ。



「最近、俺、何かしたかな……?」



俺は、最近の自分の行動を振り返ってみた。

ケンカ……グランポート……食事会の失敗……

スライドショーの様に、頭の中に風景が浮かぶ。


しかし、原因とは言っても、

俺にはやはり思い当たる節が無かった。


フラグと言うのなら、

むしろ嫌われるフラグの方が多いくらいだ。

ここは、もっと過去を細かく顧みる必要があるのかもしれない。


人混みの中に立ちすくみ、俺は右手で顎を押さえる。

さぁ、よく考えろ。


移転術……ギルド長の浮気……バレーとの出会い……

クロルとの出会い……パーティメンバー……?



「あっ、まさか……!?」



それは、まさに悪魔的ひらめきだった!


……思考の末、俺は驚くべき1つの結論に達したのだ。







「……これが噂のモテ期ってやつか!?」




はいそこ、そんな顔しなーい。



「そうか……!

 ……そうだったのか!!」



俺は、ぐっと拳を固める!


そうなのだ!

良く考えてみれば、俺は、異世界に残る可能性を考慮した時、

後悔しない様に、全員をパーティメンバーにするという、

ハーレムフラグを立てたのだ!


3人ずつなどケチくさいことを言わず、

全員を仲間にするこの度量。

そりゃあ、モテ期の1つや2つ、

来ても不自然ではないだろう。


えっ? 修羅場フラグ?

なにを馬鹿な。



「そうか!モテ期だよ!

 モテ期だったのか!」



俺は3人の行動の原因が分かり、晴々した気持ちになった。

自分でも、表情が明るくなるのが分かる。



「そうかーそうなのかー」



何も心配することは無かったのだ。

俺は、手を頭の後ろで組み、空を見上げてみる。

町の建物の合間から、青い空が見えた。

今日はいい天気だ。


久しぶりに訪れた梅雨の晴れ間に、

町も活気づいている様にみえる。



「いやー! いい天気だなー!

 人生って素晴らしいなー!」



唐突に訪れた春。

いや、今は梅雨だが人生は春だ。

ニヤニヤと付抜けた顔をしながら、

俺は町を見渡した。



「そうだ、3人にお菓子でも買って行こうかな―

 モテる男は、気配りもできないとなー」



さっきまでの憂鬱が嘘の様。

気分はいきなり絶好調。

まさに最高に、ハイってやつだ。

こんな日は、ぶらりと適当な店に入り、

新たなスポットでも開拓したい。


俺は、所持金を確認しようと、

ズボンのポケットをまさぐる。



「さぁて、何がいいかなぁ…

 って、あれ?」



しかし、禍福は糾える縄のごとし。



「あー……まいなったな。

 財布を置いてきちゃった。

 所持金ゼロかよ……」



そうなのだ。

慌てて出てきたものだから、

どうやらお金を置いて来てしまった様だ。


所持品は、腰の【天空剣】と、

ベッドに投げて置いていたのを、

勢いで持ってきた『世界アイテム装備図鑑』だけ。


これでは、買い物をすることもままならない。

さすがに剣や本を売るわけにはいかないしな。



「しょうがない。

 お菓子は諦めるか。

 適当に時間をつぶして帰ろう」



モテ期と分かった以上、

あの感触を楽しまないわけにはいかない。

リメンバーぷにぷに。

リメンバーふわふわ、だ。


しかし、用事があると出てきた以上、

すぐに帰るのも格好悪いだろう。

帰りたいけど、帰れない。

そんな乙女心。



「えーっと、

 どこかタダで暇つぶしできるところは……」



キョロキョロと町を見渡すと、どこかで見た顔を見つけた。

あれ? 鍛冶屋の見習いのお兄さんじゃ?

でも、なんか髪がスッキリしてるな。


どうやら、彼も俺に気が付いたようで、

こちらへ向かって歩いて来る。



「あれー? トカゲパンツさんじゃないッスか?

 どうも。どうも。

 今日は、こんな場所で何やってるんッスか?」


「いやー、奇遇ですね。

 まぁ、ちょっとぶらぶらしてたんですけど。

 お兄さんこそ、何を?」



偶然にも知り合いに会えたことで、

さらにテンションが上がる。

質問を質問で返してしまったが、

お兄さんは構わず答えてくれた。



「実は友達が、

 ここの床屋で見習いをしてるんッスよ。

 それで、練習台を頼まれちゃって」



お兄さんの目線の方向を見ると、確かにそこは床屋だった。

なるほど、それでスッキリしてるのか。



「そういやぁ、トカゲパンツさんの髪も、

 そろそろ切りどきじゃないッスか?

 どうです?

 練習台なら、タダっすよ?」



お兄さんが、散髪を勧めてくる。

そう言えば、異世界に来てから約2か月か。

確かに、長いこと散髪してないな。



「あっ、本当ですか。

 じゃあ、頼もうかなぁー

 ちょうど、時間も余ってるし」



散髪後、すこし暇をつぶせば、

ちょうど夕方ぐらいには帰れるだろう。


ここは、スッキリ散髪をして、

帰る前に、男を磨くのも悪くない。

モテる→カッコよくなる→モテる、のサイクル。

あっ、やばいわー

これ完全にリア充だわー



モテ期に続き、無料の散髪サービス。

ドワフィリアあたりから不幸だった俺にも、

ようやく幸運が巡って来たようだ、



こうして、俺は床屋で散髪をすることになった。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 エイジ・ニューフィールド(かんちがい)

職業 

   略

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