第61話-帰還、嵐の前の静けさ
6月22日、土の日。
ギルド長を生贄にささげ、
俺は町まで無事に帰って来た。
港に着いた後、バレーやクロルとは、
一度、解散することになった。
「いやー。
色々あったけど、無事に帰って来れたねー
あたい、こんなヘンテコな冒険は、
初めてだよ」
「あちしも、久々に外に出て、
クエストまで出来て楽しかったっす!」
別れ際、2人は楽しそうに冒険を振り返っていた。
色々あったが、新しい出会いや情報、
俺にとっても、実りのある冒険だった。
「これから、2人はどうするんだ?」
俺は、今後の予定を聞いた。
バレーとクロルは、少し悩んで答えた。
「あたいは、これからギルドに行って、
クエストの顛末を報告してくるよ」
「あちしは、店まで帰るっす!」
そうか。
では、俺も一度、宿に帰ることにしよう。
バトーさんへの報告は、バレーがしてくれるらしい。
それならば、俺が行かなくてもいいだろう。
あっ、でもクロルはどうやって移動するんだ?
出発時の苦行を思い出し、俺は気分が悪くなった。
しかし、俺の予想は良い方向に裏切られた。
「じゃーさー、クロル。
帰りは、あたいが送ってやるよー
店まででいいんだね?」
「サンキュー!バレーっち!
じゃあ、頼むっす!」
どうやら、帰りはバレーが送るそうだ。
バレーは、クロルの入ったタライを、
空のダンボールでも持つように、
軽々と肩に担いだ。
そんなに楽に持てるなら、
行くときも手伝ってくれればいいのに……
「じゃ、ひとまず、ここで解散だねー
行こうか、クロル」
「おー! 行くっすー!」
町の方に向けて、歩き出していく2人。
「あのさ、バレー……!!」
帰ろうとするバレーを呼びとめ、
俺は、あるお願いを申し出た。
既に歩いていたバレーは、あん? と歩みを止め、
後ろを振り返える。
「ギルドへの報告だけどさ、
うちのギルド長の仕業だってこと、
伏せてやってくれないか?
……あの人にも、メンツとか
色々あるだろうしさ……」
あのハゲは嫌いだが……
あれでも、うちのギルドの長なのだ。
少しぐらい、庇ってやってもいいだろう。
ビッ!っとバレーが中指を立てた。
えっ!?嫌なの?
「任しときな!
あたいが、上手く誤魔化してやるよ!」
あっ、立てる指間違えてんのか。
さすがは天然。普通は親指だよな。
女の子が、そんなポーズしちゃいけません!
申し出を聞きいれ、再びバレーは歩き出そうとする。
俺は、それをもう一度引きとめた。
「……それとさ!
……色々世話になったから、
バレーとクロルにお礼がしたいんだ!
俺の仲間も紹介したいし……
……誘いに行くから、
食事でも一緒にしてくれないか?」
俺は、勇気を振り絞って声をかける。
声は微かに震えていた。
自分の顔が、赤くなるのが体温で分かった。
「……ほっ、ほら!
バレーの【黄金槍】も直さなきゃ
いけないしな!」
ライクちゃんを誘うときとは、何か違う。
バレーが大人なせいなのか、
変に緊張してしまう。
自分から、年上の女性を食事に誘うなんて、
ぼっちの俺には、途方もない難題だ。
もとの世界にいる時では、まず不可能だったことだろう。
ニカッと笑って、バレーが答えた。
「美味い飯、用意しとけよなー!
あたい、今度は魚が食いたいねー」
「もちっす!
あちしも、行くっすー!」
よかった。承諾してもらえた。
「じゃあ! また後で!」
俺は、笑顔で手を振りながら、
2人の背中を見送った。
……そして今、俺は自分たちの宿屋の前にいる。
グランポートの町は、
来たときと変らぬ賑わいを見せていた。
宿屋の前も、たくさんの人たちが行きかっている。
……しかし、これ。
滅茶苦茶、入りづらいな……
なんか、夜遊びして朝帰りする
不良息子の心境と言うか……
不倫して、愛人宅から帰宅する
浮気男の心境と言うか……
こんな気持ちを何度も味わいながら、
平然としていられるのは、すごい精神力だと思う。
俺は、この1度だって嫌だ。
チャラ男って、ある意味すげぇな。
「あー……
きっと、まだ怒ってんのかなぁ……」
俺は、ライクちゃん、アイン、マリーさんの、
3人に会うことに、若干の憂鬱さを覚えながら、
宿屋の入り口で立ち往生していた。
すると、そのとき……
「……エイジさん?」
人混みの中、
偶然、どこかから帰って来たマリーさんと出くわした。
うぁ……気まずい。
「……やぁ、本日はいいお天気で?」
と、パニックのあまり、訳の分からないことを口走る俺。
しかし、次の瞬間、
駆けよって来たマリーさんに、ガバッと抱きつかれた。
俺の顔が、マリーさんの胸にうずめられる。
道を行きかう人々が、驚いたように、
好奇の視線でこちらを見ていく。
「ちょ! マリーさん……!?」
マリーさんの身体からは、微かに汗のにおいがした。
「……わたくし、ずっと探していましたのですよ?
……全く、今までどこにいらしたんですか?
……よかった。
……本当に、無事で……よかった……」
俺の頭を両腕で抱きしめ、マリーさんは言った。
迷子を見つけた母親の様な、
安堵とも怒りともつかない、そんな声だった。
少し遅れて、アインとライクちゃんも駆けよって来た。
どうやら心配して、3人で俺を探していてくれた様だ。
今回は誰も【ヤンデレ】化している様子は無い。
「ごめんなさい……
俺、すごく馬鹿でした……」
突然、俺の心に温かいものが込み上げてくる。
あぁ、仲間って、こんな感じなんだ。
喧嘩しても、無断で出かけても、心配をかけても、
最後はちゃんと迎えてくれる。
……俺はもう、ぼっちじゃないのかもしれない。
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名前 ライク・ブルックリン
友好度 一律変更⇒ 60 ←NEW!
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名前 アイン・アルバトロス
友好度 一律変更⇒ 60 ←NEW!
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名前 マリーシア・スローウィン
友好度 一律変更⇒ 60 ←NEW!
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名前 バレー・ゴルド―・スパイク
友好度 30 ⇒ 60 ←NEW!
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名前 クロル・スイム
友好度 70
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