表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
66/95

第58話-水の神殿7-首狩りの暗殺者

ここは『水の神殿』の1室……


薄暗い部屋での休憩中、

突如現れたギルド長ブル・ダーツ。

俺たちは、彼の存在に混乱していた。



「助けてくれって……

 ギルド長……!

 あんた一体どこから!?」



四方を囲まれた狭い部屋。

この部屋に入口は1つしかない。

さっきまで、この部屋には、

俺たち以外の気配など無かったはずだ。



「……どこからって、

 俺はずーっと、

 坊主たちの後をつけてたぜ?」



にやりと笑うギルド長。

口元の白い髭が微かに動く。



「バカな!

 そんな様子は、まったく……」

 ……はっ、まさか?



俺は、ギルド長の身なりに目を向け、

あることに気がついた。


ギルド長が着ていたのは、

青銅色に輝く、神々しい鎧……



「そう。

 こいつのおかげだ……」



ギルド長は【水霧の鎧】を身に着けていた。




【水霧の鎧】の固有スキルは、【隠すもの】(インビジブル)

透明になり、姿を隠すことができる能力……




……そう言われれば、

ここに来るまでに、おかしな点はいくつかあった。


俺たちが船にいるとき、

「すぐ後方からも小舟が1艇ついて」いたし……

「水に飛び込む音」も1つ多かった気がする。


3人しかいないはずなのに、

不自然に「人形が、もう1つ」浮かんでいたし……

暗い水底に「4体の人形」が沈んでいった。



それじゃあ、姿は見えなくとも、

本当に、ずっと一緒にいたってことか!?



「おい、アホ面……

 こいつは?」



予期せぬ不審者の出現。

和やかだった場の空気は一転した。

バレーが警戒して、こちらにズイっと歩み寄る。



「……お、あぁ! この人は、

 グランアルプの冒険者ギルドのギルド長、

 ブル・ダーツさんだ」


「そうかい。

 でも、なんでそんな人が、

 こんなところに……?」



バレーは訝しがっている。

紹介しても警戒を解くそぶりは無い。

当たり前だ。


ギルド長がここに来る理由が見当たらない。

俺だって、本物のギルド長と断言できないくらいだ。


……だが、そんな俺たちを余所に、

突然、クロルが声をあげた。



「あー!!

 あちしは、この人知ってるっすー!

 大量に『身代わり人形』を買った

 お客さんっすよね!?」


「よう、人魚ちゃん!

 あんた、いい腕してるぜ。

 『身代わり人形』効き目バッチリよ!」



ギルド長は、ニカッと笑い、

ちからコブをつくるポーズで、

自分の二の腕を叩いた。



おい、ちょっと待て、話を勝手に進めるな。



「ギルド長!

 あんた行方不明だったはずじゃ?

 一体、どういうことだか、

 きちんと説明して下さい!」



俺は、訳が分からないまま、

ギルド長に詰め寄った。



「そうだな……

 助けを請う前に、順を追って説明してやる」



ギルド長の顔が、真剣になる。



「話は、ちょいと昔にさかのぼるぜ……」



ギルド長が、静かに語り始めた。



「あの時、ちょっとドジを踏んじまった俺は……

 あいつに命を狙われ……

 ここ、グランポートまで逃げてきた。

 グランポートを目指した目的はもちろん……

 この【水霧の鎧】だ」



そう言うと、ギルド長は着ている鎧を指差した。

俺たちは、そのまま静かに話を聞く。

ギルド長は続ける。



「【水霧の鎧】の固有スキルは、

 あいつから、姿を隠すために必要だった。

 しかし、俺の力じゃ【神具】は

 易々と手に入るシロモノじゃねぇ……

 それに、町をウロウロしてる間にも、

 あいつは、俺の命を狙ってくる……

 ……そこで、俺は一計を案じた」



「それが『身代わり人形』……

 ……ですか?」



話の流れから、俺は推測する。


そうだ、とギルド長が頷く。


『身代わり人形』には、敵の注意をそらし、

ダメージを肩代わりさせる効果がある。



「俺はあいつの注意をそらすため、

 『身代わり人形』を、

 そこの嬢ちゃんから大量に買い込み、

 半分を、町中の人の荷物に忍び込ませた。



ギルド長は懐から、両手に余るほどの

『身代わり人形』を取り出した。



「そして……

 もう半分を『水の神殿』の魔物よけに使用した。

 そのおかげで、

 こうして【水霧の鎧】を手に入れることができた。

 ……まぁ、町の奴らにゃ、

 すまねぇことをしたと、詫びたがな……」



それだけ使って、

これだけの量が残っているとは、

かなり大量に買ったようだ。



「……だがな、その後がいけなかった」



ギルド長の話は続く。



「姿を隠し、あいつから逃げても、

 結局、俺が命を狙われているという

 根本は変らねぇ……

 さらにだ……」



ギルド長は、天井に向け指を立てた。



「別の奴にも、

 追われるハメになっちまった……」



外の『アクア・クラーケン』を指したのだろう。

そう。『水の神殿』の外には、

まだ、あの化け物がうろついている。



「どうしようかと、

 途方に暮れていたその時、

 俺は、町で坊主の姿を見つけた……」



ギルド長は、俺の方を横目で睨んだ。



「正直、坊主は気にいらねぇが……

 優秀な冒険者には違いねぇ。

 しかも、一緒にいたのは、

 あの金竜のバレーだ」



ギルド長も、バレーのことを知っているらしい。

さすがはバレー、有名だ。



「俺は嬉しかったね。

 こりゃ上手くすりゃ助かるぞ、ってな。

 あいつは、腕ききの【暗殺者】だが、

 Sランク2人なら……

 とくに坊主なら、

 止めることができるかもしれねぇ……」



ギルド長は、思い出したように続けた。



「おっと、正確には、もと【暗殺者】か……

 もっとも、俺を襲うあいつの姿からは、

 ブランクなんざ感じねぇがな……」



襲われた記憶が蘇ったのか、

急にギルド長の顔が恐怖に曇る。

顔色が見る見る青白くなっていく……



「しなやかな肢体を漆黒のボディスーツにくるみ、

 大きな首狩り刀を手にして、

 長い髪をなびかせるあいつは……

 現役時代の『首狩り』の通り名を

 恐怖とともに、俺に思い出させたよ……」



ガタガタと震えるギルド長。

信じがたい悪夢でも思い出したかのように、

両手で自分の肩を掴み、小さくなっている。

……よほど、怖い目にあったのだろう。



「……なるほど、

 それで俺たちの後を付け、

 一息ついたこの場所で姿を現したと」



俺は、ギルド長を励ましながら質問した。

ギルド長は黙って頷く。



「……だけど、俺に助けを求めるなら

 なんであんな遠回しなことを?」



そうだ、これが腑に落ちない。


それほど命が危険ならば、

わざわざ、雑用クエストの最後に、

ギルド要人の警護を加える必要は無い。

それに町で偶然会ったと言う説明とも整合しない。


俺はギルド長を問いただす。

しかし、ギルド長は不思議そうな顔をするばかりだった。



「……なんの話だ?」



首をかしげるギルド長。

俺は雑用クエストのメモのことを説明した。


説明を聞いたギルド長は、

苦虫を噛みつぶした様に、

顔をしかめて答えた。



「チッ、ハメられたな……

 確かに、雑用を押し付けたのは俺だが、

 俺は要人警護なんて依頼してねぇ……」



どういうことだ?



「あいつも俺と同じく、

 坊主を利用しようとしたのさ……

 俺を探すためにな。

 あいつは、俺を追ってすぐグランポートに来たが、

 メモにそう加えときゃ、

 おめぇが、後からノコノコ探しに来んだろうが。

 そこを利用しようって寸法さ……」



ギルド長は、吐き捨てるように言った。



「……坊主、おめぇの仲間は、この2人だけか?」



バレーとクロルを見ながら、

俺を問いただすギルド長。



「いや、宿にも仲間が……」


「……おそらく監視されてるぜ。

 偶然を装い、

 それとなく接近しているはずだ」



なに!?

ライクちゃんたちにも危険が?

しかし、ギルド長は慌てる俺を制止して、

こう言った。



「あくまでも、あいつの狙いは俺だ。

 おめぇの仲間には危険は無ぇよ……」



そうか。

俺はとりあえず安堵する。

しかし、ここまでギルド長を追い詰める

人物とは、いったい誰なのか……


俺は恐怖におびえるギルド長を気遣いながらも、

敵の正体を掴もうとした。



「それで、ギルド長……

 その『あいつ』って一体……?」



正体不明の、もと【暗殺者】……

腐ってもギルド長の命を狙うほどの猛者だ。

よほどの手練れに違いない。


それに、ギルド長のクエストを偽装するあたりも、

抜けの目ない老獪さを感じさせる。


武器が、首狩り刀なんてところも物騒だ。

きっと恐怖の化身の様な人物に違いない。


助けると言っても、戦うには情報が必要だ。

有名ならば、バレーやクロルが知っているかもしれない。




……俺たちは、固唾を飲んで、

ギルド長の言葉を待った。




長い沈黙。




そして……

……ギルド長の重い口が開いた。





「……俺の嫁さんだけど?」




■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 エイジ・ニューフィールド 

職業

    略

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 バレー・ゴルド―・スパイク 

職業

    略

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 クロル・スイム 

職業

    略

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ