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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト上
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第5話-ぼっちの生きざま

町に入って1時間が経過した。

昼下がりの午後。

市場は買い物客で賑わう。

町の賑わいを横目に、アイテムショップの前にたたずむ。

俺はまだ、誰とも会話していない。



……えっ? 情報収集はどうしたって?



フフッ、人と会話することだけが情報収集と思っているようではまだまだ甘い。

そんなんだから、キミには友達が多いのだよ。

べっ、別に羨ましくなんかないんだからねっ!


人が恋しいとは言ったが、見ず知らずの他人と会話する勇気などない。

思春期とはかくも難しいお年頃なのだ。


人に会ったときの設定?

あれは、話しかけられたときの作戦だ。


それに、全国内向性検定準2級の俺から言わせてもらえば……

情報収集の神髄は会話などにはない。

会話でやすやすと情報得られる奴は、そもそもぼっちには向いてない。


俺にとっての情報収集……

そう、それは「観察」である。


確かに、人との会話は重要だ。

でも、やたらと人に話しかけるのもどうかと思う。

会話と言うのはTPOが重要なのだ。


まず、忙しい人を世間話に付き合わせるのは失礼だ。

得たい情報が多いときは腰を据えて話す必要があるから、こちらの利も少ない。


また、欲しい情報を持たない人同士で会話しても、意味は乏しいだろう。

条件に合う人を探し、お互いの迷惑にならない様に話す。

それが基本だ。


当然、会話する相手への気遣いも忘れてはならない。

ニッコリとサワヤカに。

相手も同じ人間なのだ。


ぼっちが人と話さないのは、会話が嫌いだからじゃない。

多分、こういう配慮を必要以上に気にするからだろう。

中には会話が嫌いな奴もいるかもしれないが……


話がそれた。

まぁ、俺が会話をしなかった理由はこれではない。

もっと根本的な事だ。



理由は、会話が成り立たないからだ。



……いや、言語的な意味デスヨ?



ここが異世界だとすれば、日本語が通じない可能性が高い。

多分、別の言語を使用しているはずだ。

他言語でいきなり話しかけられて対応できる奴は少ないだろう。

最悪、不審者扱いされかねない。


だからこそ、まずは「観察」なのだ。


前置きはもういい。

とにかく、1時間の「観察成果」をお話ししよう。


まず、言語の問題。

結論からいえば、これは大丈夫だった。


買い物をするふりをして、しばらく主婦の井戸端会議を聞いていた。

ちゃんと日本語だった。

いや、正確に言おう。

多分、使用言語は日本語ではない。

この世界の言語なんだが、意味が伝わってくるのだ。

読み書きもOKだ。

多分、青いネコ型ロボットの出すコンニャクを食うと、こんな感じだろう。


おかげで、すっかりギルド長の不倫疑惑について詳しくなってしまった。

うふふ、お盛んですこと。

……おい、やめろ。

可哀そうな目で俺を見るな。


次に、この町ことだ。

この町は【グランアルプ】という名前だ。

西洋の中規模都市と要塞を併せたような町並みで、赤や橙の石造り建物が並んでいる。

露店があり、人通りも多い。

賑やかな音楽もなっているから、大道芸人でも居るんだろう。

治安は良いようで、騎士みたいな奴はいるが置物状態だ。

町に入るときも、問題なく入れた。


人の服装は様々だが、女性はアレだ。

美術の教科書に載ってた油絵「落穂拾い」のおばさんが着てる服が近い。

さすがに、おっさんはスカートじゃないが、似たようなレベルだ。


主要都市と言うわけではないが、近くに良い鉱山があるおかげで賑わっているらしい。

それだけに、武器屋の数も多い。

これも武器屋で立ち聞きしたから間違いない。


武器については、まだ情報がある。


露店や店を巡っていると、値札をみて商品を置く人が多かった。

つまり、質はいいが手が出ないと言うやつだ。

この町の技術レベルは高いらしい。

もちろん素材も良くなくては、業物は作れないだろう。

これで、鉱山の話の裏も取れた。


また、武器の質からここが「はじまりの町」的な場所じゃないこともわかる。


「ひのきのぼう」とか、「なべのふた」なんか置いてない。

武器の名前は「焔のレイピア」とか「ドラゴンキラー」とかだ。


どう見ても魔王戦レベルです。本当にありがとうございました。


それに食料。

この町には、野菜、肉、魚、果物。

おまけに、ジャンクフードっぽい屋台まであった。

どれも結構、美味そうだ。

屋台での支払いを見てると、みんな銅貨1枚から2枚で払っている。

やはり、金貨は価値があるのではないか。


最後に、「異世界」かどうか。

人の上にプレイヤーを示すポップも無いし、NPCにしては住人の会話が豊富すぎる。

いきなり魔王戦レベルの武器が置いてある町に着くのも、バランスが悪い。

さすがに、観察だけでは限界があるが、この3つだけでも異世界説が強まった。


……でも、正直に言うと。

そんなこと抜きに、もう俺はここが「異世界」だと思いたかった。


まぁ心境の変化とでも言おうか。


町に暮らす人たちの楽しそうな様子。

怒り。騒ぎ。泣き。そして笑う。

そんな町の人たちの生活の風景を見ていると……

ここが仮想の空間だなんて言って、水を差したくなかった。


たった一時間と言われるかもしれない。

だけど、どんなリアルなVRでも、何気ない「日常」までは再現できないもんなんだ。

ここは、俺の知る日常とは別の日常が行われる「現実」。

本当に素直にそう思ったんだ。



「まぁ、要は、家に帰れればいいんだよな……」



ふう、と息を抜くようなため息をつき、俺は顔をあげる。

そうだ、ここが現実だろうとゲームだろうと異世界だろうと関係ない。

ウジウジ悩んでも、どうなるものでもない。

よほどの変化がない限り、ここは「異世界」と考えよう。

俺はそう心に決めた。



……とまぁ、ここ1時間の観察は、こんなところだ。

最後の心境の変化も含め、結構収穫はあったと思う。

そして冒頭の通り、俺は今、あるアイテムショップの前に居る。


この店は、観察中になんどもお邪魔した店だ。

例の主婦たち御用達の店。


店は、看板娘ともいえるお姉さんが切り盛りしている。

栗毛色の髪と同色の瞳、美しいというよりは可愛い感じだ。

服装が田舎っぽいが、そこが質素で魅力的でもある。

買い物客の冗談に「ヤダもぅ」なんて、手をふって応えている。


店の奥に居るのは親父さんだろうか。

無骨な感じだが好感が持てる。

ちょっと路地に入るため見つけづらいが、活気もあってなかなかの繁盛店だろう。



そう……俺はこの店で、記念すべき異世界初の買い物をするつもりだ。



観察を終え、実践へとステップアップする。

その肩慣らしに、軽い買い物を試みるのだ。

まぁ、用も無いのに出入りしてたから、何も買わないのは気まずいってのもある。


さて、何を購入すべきか?


まず、当然だが、この店に置いてあるものでなければならない。

見たところ、ここは日用品を扱うアイテムショップ。

観察の結果、他の客がブラシや手ぬぐいを買っているから間違いは無い。


次に、購入するのは、あまり高価でないものだ。

この買い物には、金銭の相場を確かめる目的もある。

身近なものでなければ大体の価値はわからない。

それに、この金貨も借り物だ。

あまり高いものを買うと、返せなくなってしまう。


さらに、購入するのは、俺に必要なもので無ければならない。

浪費は避けるに越したことは無い。


こんな条件に合う商品があるか?


実はあるのだ。


というか、これを購入すべきことはかなり前から決定している。

具体的には1話から。

そう、いうなれば運命なのだ。


最後に、買い物は自然に行わなくてはならない。

支払いに金貨を使うのだ。

挙動不審はまずいだろう。


俺は、あくまでも自然に、流れるような所作でお姉さんに声をかけた。



「ぱッ、パンツ下さいっ!!」 と。




「おとーさーん!!」



お姉さんは、全力で店の奥に逃げ去った。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 新原 英治 (へたれ)

職業 【ヘンタイみならい】←NEW!

装備 

   略

強さ

   ???

スキル

   【考察】【諜報】←NEW!

ゴミ箱

   略

持ち物

   略

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

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