第48話-人魚の人形屋
俺は今、グランポートの街道を西に歩いている。
こちらは商店街の方向にあたる。
目的は、バレーの知り合いの店に行くため。
どうやら、その店にアイテムがあるらしい。
俺は、バレーに連れられながら、少し後ろを歩く。
並んでいるときも身長差を感じたが、
後ろから見ると、バレーが一段と大きく感じる。
道は大通りを外れ、だんだんと薄暗い裏道に入っていく。
狭い通路を、左に右に。
壊れかけの階段を、上に下に。
路地裏に積まれたゴミからは腐臭が漂う。
時折、酔いつぶれた老人や、浮浪者の姿も見える。
昼間なのに、まるで夜の迷路を歩いているようだ。
「なぁー
本当に、こっちでいいのかよー?」
不安になった俺は、バレーに質問してみた。
「ったく、るせぇなぁ……
いいからさー
黙ってついて来なよ!」
バレーは迷うことなく、道を突き進む。
しばらく歩くと、怪しげな店が見えてきた。
半ば壊れかけの一軒家。
……かなり不気味な店だ。
店の壁には緑色のコケやツタが覆い、
中途半端な貝殻や魚のオブジェが、
さらに不気味さを引き立てている。
加えて、それらオブジェが下手にファンシーなので、
なかなか胡散臭くもある。
胡散臭さを百分率で表すと50%ぐらいだろう。
つまり、この店の半分は、怪しさで出来ています、
ということになる。
……頭痛が起きそうだ。
加えてもう半分が、不気味さなのだから救いようが無い。
もう経営は諦めた方がいい。
神様、どうかこの店ではありませんように!
と、祈る様な気持でいると、
バレーは、何事もなくその店の入り口に向かって行った。
……かみさまこのやろう。
諦めて、俺も入り口に向かう。
表に回ると、塗装がはげた入口が見えた。
湿気が多いのか、かなり古くさいドアだ。
ドアの上には、ボロボロの看板が掲げてあった。
切り抜きの文字が、所々外れている。
『クロ・・イ・・・人形屋』
黒い人形屋?
いや、ダメだろう。完全に呪われる。
「おい!早くしろよー
置いてっちまうよー!」
呆気にとられている俺を放置して、バレーはガチャリとドアを開ける。
チリンチリンと店の入口に下げたベルが鳴る。
俺も後に続いて、おずおずと中に入った。
「いらっしゃー…、ってあれ!?
よーよー!
バレーっちじゃん!
なになにー!ひっさしぶりっすー!
元気してたー?」
「うわっ、テンション高っ、
あんたは、相変わらずだねぇ、クロル。
まぁ、あたいは ぼちぼち だわ。」
カウンター越しにいたのは、
不気味なこの場所に不似合いな、爽やかな美少女だった。
クロルと呼ばれたその少女は、青い髪にバンダナを巻いていた。
バンダナで前髪を上げ、額を出しているが、
耳にかかる髪の長さからして、ストレートのロングヘヤ―の様だ。
目は大きく澄んでいて、青い眉は綺麗に上に伸びている。
にぱっ!とほほ笑む口は、彼女の元気の良さを表すかの様だ。
肌は白く、透き通る様な透明感がある。
ぼーっと眺めていると、少女が、俺に気付いた。
「おや? へぇー!へぇー!
めっずらしいっすねー!
バレーっちが、男づれなんて!」
「ちがっ…!そんなんじゃねぇよ!
こいつは、今回だけの仲間だよ。
まぁ言ってみりゃ?
一夜の限りのパートナーって奴だな?
なっ?」
その説明は、逆におかしいと頭の中で突っ込む。
が、あえて黙って肯定しておこう。
これぐらいで突っ込んでいては大変だ。
青髪の美少女は、うんうんと頷いて、自己紹介を始めた。
「はじめまして!
あちしは、クロル・スイムっす!
クロル・スイム人形屋の主人で、ドールマスター!
他にアーティファクターもやってるよん!」
俺も自己紹介をする。
「あっ…どうも。
俺は、エイジって言います」
「よし! じゃあキミはいまから、
エイジっちだ!
あちしのことは、クロルっちでいいっすよー!」
勝手にあだ名を付けられた。
「いや……
普通にクロルって呼んで良いですか?」
俺は頭を掻きながら、テンションに押され気味になる。
クロルは、えーなんでーとか、ブーブーとか、言っている。
クロルは、かなり活発な女の子という印象だった。
モータースポーツが好きだったり、
休みのたびにアウトドアに出かけてそうな感じだ。
ぼっちの俺にはかなり眩しい。
リア充オーラが溢れ出ている。
「そんでさー
このボロ店は、まだやってんの?
あたいたち、今日は買い物に来たんだけど……」
バレーが、勝手に棚の商品をいじりながら、
クロルに話しかける。
棚には、何に使うのか分からないガラクタと、
アンティーク風の人形がたくさん並んでいる。
「あーバレーっち!
それは失礼っすよー!
最近も『身代わり人形』が大量に売れたんすよ?
『ポーション人形』も『呪いの人形』も大人気っす!」
呪いの人形?
ラジフォレスのは、この人の仕業か!?
「ふーん。そりゃ結構なことで。
ところでさー。
あたいら、ちっと『水の神殿』にまで行くハメになってねー
クロルんとこに『空気の実』まだ置いてあったろ?」
バレーが、腰の布袋から銀貨を5枚投げながら話すと、
クロルは、それを器用に受け取りながら返事をする。
「へい、まいどっ!
はいはい!うちはなんでもあるっすよー
ほい!『空気の実』2つっすね!」
クロルはカウンターの下に潜りこみ、
ガサゴソと何か探す。
取り出したのは、ヤシの実のような実だ。
どうやら、この実を水に浸すと空気がでるらしい。
「にしてもー
わざわざ『水の神殿』すか?
ほんと、神殿にチャレンジするの好きっすねー
まーバレーっちの実力なら、
良いとこ行けると思うっすけどねー
でも、さすがに1人じゃキツイと思うっすよ?」
空気の実を包装しながら、クロルが言う。
包み終わると、よっ! と両手で、実を投げる。
スイカくらいの重量はありそうだ。
それをバレーは、事もなげに、片手で1つずつ掴んだ。
おい、どんな握力してんねん。
「ところがさー
このアホ面もSランクなんだよー
しかも、あたいと同じ『英雄の子孫』で、
なぜか戦闘だけは、デタラメに強えぇときてる」
「へー! すごいっすねー!
でもバレーっち、口が悪いっす!
あちしは、エイジっちは、良い顔してると思いますよ!」
えっ?まじで!?
「あちしの好きな魚ににてるっす!
ほら、そこに標本が!」
指差されたのは、カワハギの標本だった。
なるほど、アホヅラではなく、ウマヅラと……
俺のショックをよそに、会話は続く。
「でもまぁSランク2人なら、
多少、希望があるっすね!」
「加えて、クロルが入れば……
……どうだい?」
「えっ!?
あちしも行っていいんすか?」
「場所が『水の神殿』だからなー
あたいも、普段ならお断りけどさー」
「バレーっち、だいすきー!!
それなら、最下層まで余裕っす!」
どうやら、バレーはクロルを一緒に連れていくようだ。
いつもは誘わないのか、クロルはやったーやったーと大はしゃぎだ。
「でも、問題は【神具】と【神獣】っすねー
この程度のメンバーじゃ、
さすがに『アクア・クラーケン』までは
倒せないっすよ?」
「あぁ、今回は【神具】欲しいんじゃねぇんだ
あたいらは、調査にいくだけさ」
バレーが、空気の実を下に置く。
そうだ。今回は調査に行くのだ。
【神獣】を倒す必要は無い。
というか、俺はもう【神獣】と戦うのはごめんだ。
あの『フレア・コング』は本気で怖かった。
でも、そう言えば『水の神殿』の【神具】は、何なのだろうか?
地味に気になるので、クロルに聞いてみる。
「ちなみに『水の神殿』にある【神具】は何なんだ?」
「おっ!エイジっち、良い質問!
それは【神鎧・水霧の鎧】っすねー
アイテム固有スキルとして、
透明になって姿を隠す能力があるそうっす!」
アイテム固有スキル?
なにそれ気になる。
しかし俺が質問する間もなく、話は続く。
「【神具】についてだけじゃなく、
アイテム関連なら、頼りにして欲しいっす!
あちしがバッチシ答えるっすよ!
アーティファクターは伊達じゃないっす!」
クロルは得意満面だ。
そこにバレーが、俺をバカにした顔で横やりを入れる。
「ってかさー
そんなことも知らねぇのかよ?
むしろ、あんたが頼りねぇーなー」
はいはい、すいませんね。常識なくて。
バカにされて悔しいので、俺も言い返した。
「いや、でもバレ―だって忘れてるぜ?
クロルも行くなら、空気の実は3つだろ?
まったく、しっかりしろよな!」
上手く言い返してやった、と思ったが、
バレーは、目を皿にしてキョトンとした顔をする。
真っ赤な瞳が小さく見える。
そして、続けて大爆笑された。
「あはははは!バッカでー!
あんた、クロルに『空気の実』が
必要だと思ってんのかよ!?」
「なんでだよ!
クロルだって、水中で呼吸しないと
死んじゃうだろ!?」
俺たちのやり取りに、クスッとクロルが笑った。
「エイジっち!大丈夫っす!
あちしはこれでもマーメイドっすから!」
ピチッ!
カウンターを覗きこむと、ビッチビチに跳ねる尾ひれが見えた。
青いウロコの人魚の尾ひれ。
大きめのタライに水が張ってあり、水しぶきが跳ねる。
「あっ!そうそう!
あちし、実は、もう1年以上引きこもってて、
全然外に出てないんすよ!
いやーこの身体じゃ、陸の移動はキツくてー
エイジっち!
すみませんが、海までタライごと移動お願いするっす!」
「…………えっ?」
「おい! 良かったなー!
クロルみたいないい女を、おんぶ出来るぜー
ただし、タライごとだがなー!」
したり顔で、バレーが俺をバカにする。
くっ……くやしくなんかないんだからねっ!
こうして俺は、タライを担いで港まで移動する
苦行を、行うことになった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
名前 クロル・スイム ←NEW!
職業 【ドールマスター】
【アーティファクター】
【商人】【海女】【拳聖の子孫】
【引きこもり】
装備 珊瑚のピアス
海色のバンダナ
戦闘ドール
貝殻の胸あて
強さ
レベル 28
生命力 169
攻撃力 85
守備力 95
魔法力 207
素早さ 230
友好度 30
スキル
【合成術】【天真爛漫】
ゴミ箱
人形を作るセンス
持ち物
ポーション人形
身代わり人形
呪いの人形
■■■■■■■■■■■■■■■■■■




