第47話-情報収集
「本当にふざけんなよなー
あたい、本気で怒ってんだけど?」
「いや、本当にごめんって!
すぐ直すから!
大丈夫、知り合いに【神鉄の巫女】いるから!」
あの決闘から、5分後……
俺は、バレーに全力で謝っていた。
まーた、何かやらかしたって?
そーだよ。やらかしたよ。
何したかって?
……バレーの家宝の【黄金槍】あったでしょ?
あれ、ぶっ壊しちゃった! テヘぺロ!
えっ!戦闘の様子?
おい、ちゃんと決闘しろよ!?
……いやー、実はあんまり戦闘してないんだよ。
あの後、2人とも結構本気で戦うはずだったんだけど、
俺が天空剣で、バレーのランス叩いたら、
バキッ!!って、壊れちゃてさ。
考えてみりゃ、攻撃力2500のチート剣だもんなー
最近、まともな戦闘してなかったから、
この武器がチートだって事忘れてたんだよ。
いや、まじで!
「まったくこのアホ面は……
あたい、この先どうりゃいいんだよ……
ちょっと、泣きそうなんだけど」
「だから!直すって!
大丈夫!
俺の剣も錆びてたの直ったから!」
俺はバレーと並んで道を歩きながら、謝罪を続けていた。
今は、2人でクエストを実行中だ。
バトーさん依頼の『巨大魔物の調査』
件のSランクのクエストだ。
決闘後、あのまま謝罪を続けていても状況は変わらないので、
バトーさんと俺とバレーは、一度、馬車でギルドに戻った。
バレーをなだめながら、ギルドの宿泊施設に送り、
とりあえず、壊れてしまった【黄金槍】は、
そのまま片づけて置くことにした。
アインに事情を話し、後で直してもらうつもりだ。
もちろん、それも、アインと仲直りができればの話だが……
「まぁー勝負を挑んだのは、あたいだし。
一撃でも入れてみろって言ったのも
あたいだけどさー」
バレーは、俺が【黄金槍】を壊してしまったことに、
大変ショックを受けているようだ。
自信満々で挑んだ勝負。
しかも、あいてはド素人だと思っていた相手だ。
そりゃ、納得はいかないだろう。
「まぁ、勝負は俺の勝ちってことで。
約束通り【シークレット】のことは不問、
他言無用で頼むな」
「わーったよ!
あたいも、槍の名手だ。
剣士に遺言は無ぇ」
「それ、遺言じゃなくて、二言な?
あと、槍の名手で剣士持ち出すのもおかしいな?」
「っ、うっせーなー
知ってるよ、たまたまだよ!
わざとだよ!」
いや、どっちだよ。
と、バレーと会話すると突っ込みが追いつかない。
しばらく会話して分かったことだが、
バレーはいわゆる脳筋ではない、
しかし、かなりの天然ボケだ。
知識も豊富で、論理的に思考することは出来るが、
細かいところで、ちょこちょこボケる。
テストで、プラスとマイナスを間違えて書いたり、
ケアレスミスをして満点が取れない秀才タイプだ。
うん、もったいない。
それと意外にも、話してみるとバレーは見かけほど恐くはなかった。
詫びを入れ、なだめすかしているうちに、自然と会話できるようになった。
「まぁ、悩んでもしゃーない。
あたいも、腹を決めるよ。
で、調査はどうするつもりなのさ?」
バレーは、腕を頭の後ろに組みながら、俺に質問する。
「うーん。
まぁ、定石通りだけど、
聞き込みをしてみようと思う。
新聞に載るくらいだから、知っている人も多いはずだ」
俺はバレーを見上げながら答えた。
「そーかい。
デタラメな強さの割には、意外とまともだね」
まぁ、そうだな、と俺も返す。
バレーは少しつまらなそうだ。
確かに地味だが、他に有効な手もない。
とりあえず、俺たちは聞き込みを始めることにした。
① 街角のAさんの供述と、こちらの推測。
「巨大魔物?あー出るらしいね?
なんかヌルヌルした触手があるみたいよ?」
「へぇー触手?
あたいは、ヌルヌルしたのは嫌いだね。
魔物は、軟体生物ってことかい?」
② 漁師Bさんの供述と、こちらの推測。
「おう!
そいつならオレの漁師仲間が、
海で見たって言ってるぜ!」
「海? へぇーそうか。
あたいたちも、港の方に行ってみるよ!
魔物は、海に住むタイプかもなー
ありがとな、おっちゃん!」
③ 散歩中のCさんの供述と、こちらの返答。
「……月夜の晩にオカリナ吹いとる」
「わりぃ、じいちゃん。
それ、あたいらの探してるのと別の魔物だわ……
……って、いうかさぁ!」
と、聞き込み中にも関わらず、バレーがブチ切れる。
ん? どうした?
「さっきからさー
あたいしか、聞き込みしてねぇーけど?」
「だって、知らない人に話しかけるの怖い……」
「はぁ!?」
かくも悲しき、ぼっちの習性が、
聞き込み捜査の実行を妨げていた。
「いや、いや、俺だって、遊んでいたわけじゃないぞ。
バレーの聞きだした情報を基に、
モンスターの姿を想像していた」
嘘ではない、俺は本当に考えていた。
「へぇーじゃあ、教えてくれよ。
あんたの考えでは、どんな魔物なんだい?」
バレーが、意地悪い顔をして尋ねる。
「軟体生物で、海に住んでて、
触手の様なものがあるんだろ?
イカかタコの類じゃないか?」
俺は、自分の考えをバレーに伝えた。
単純だが、他に思いつかない。
真面目に考えろ、と怒られるかと思ったが、
バレーの反応は違った。
「なるほど。クラーケンか。
あたいも、それはあり得ると思ってねー
だけどさ、巨大サイズとなると
こりゃー厄介な問題だねぇ」
うん? 何が厄介なのか?
バレーが曲げた指を顎にあて、思考のポーズをとる。
「それほど巨大なサイズのクラーケンは、
あたいの知る限りじゃー
【神獣】の『アクア・クラーケン』ぐらいなんだよねー
だけど、勝手に『水の神殿』から出てくるわけは無いし……」
そうか、厄介の理由が分かった。
それにバレーの言いたいことも分かる。
【神獣】は、神殿を守護するモンスターだ。
基本的には、神殿の外に出ることは無い。
だが、例外は存在する。
「いや、そうとも限らないぞ。
【神獣】が神殿の外に出てくる場合がある」
そう、守るべき【神具】を持ち逃げされたとき、
【神獣】は、それを奪還するため、どこまでも追いかけてくる。
「なるほどねー
一応、調査する価値はあるってことかー
あんた、神殿の挑戦経験は?」
バレーが顔を向け、俺に質問する。
「一応、1回は……」
まぁ、その1回もインチキみたいな方法で攻略したんだけど。
「1回挑戦しただけかー
まぁ、Sランクでも神殿は難易度たかいからねー
あたいも数だけは、行ってんだけどさー」
バレーは、頭を掻きながら苦笑いする。
「まぁ、行くだけ行ってみよう。
俺も戦闘なら役に立てるし、いざとなれば逃げればいい。
で、『水の神殿』の場所はどこにあるんだ?」
俺はバレーに確認する。
バレーは、腰に巻いた布袋から、紙切れを取り出す。
「あたいの情報じゃ、グランポートの沖合。
つまり、この辺の海の中だね」
えっ?海の中?
「いや、それって大丈夫なのか?
呼吸とか続かないんじゃ?」
俺の身体能力はあんまり高くは無い。
チートなのは、ステータス関連の能力だけだ。
「あー、その心配はいらないよ。
水中でも呼吸できるアイテムがあるからさー
よっしゃ!
じゃあ、ちょっと知り合いのとこ行くから、ついて来な!」
水中でも呼吸できるアイテム?
そんなものが、この世界にもあるのか?
というか、バレーの知り合いって?
聞きたいことは山ほどあるが、もうバレーは先に行ってしまった。
いかん。すぐに追いかけなければ。
こうして俺は、バレーの知り合いに会うことになった。
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
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名前 バレー・ゴルド―・スパイク
職業
略
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