第46話-おい、決闘しろよ。
飲み屋の前に連れ出され、対峙する俺と女冒険者。
潮風が髪をなびかせる。海辺の風は強い。
いきなり化けの皮とか言われ、
正直、俺は混乱していた。
確かに、アホ面かもしれないが、
俺は至って健全な青年だ。
やましいことなど何1つ……
あー……
やってますね、ハイ。
大体がパンツ関連のトラウマを思い返しつつ、
俺はとにかく、その場を取り繕った。
「えっ、化けの皮とは一体どういうことでしょうか?
えーっと、バレー様……?」
「あー
あたいのことは、バレーでいいよ。
それに敬語もやめだ。
あたい、堅苦しいのは嫌いなんだ」
顔を伏せ、手をヒラヒラさせながら、
バレーは俺をあしらった。
有名な女冒険者とは思えないフランクな対応だ。
が、彼女がフランクなのはここまでだった。
次の瞬間、バレーは俺の方を向き、挑戦的な視線を投げかけた。
顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
そして、ことの核心をズバリと言い放った。
「あんたさー。
【シークレット】かかってるだろ?」
「えっ!?
……何のことですか?」
うそ!?なんで?
どうしてばれたんだ!?
ボロを出さないようにシラを切ったが、
内心は、もうパニック状態だ。
「シラを切る気かい?
いい度胸だねぇ」
バレーは腰を曲げ、ズイッと上半身を前に出す。
それに合わせて、おっぱいがプルンと揺れる。
さすがは、おっぱいバレー。
勢い余って、桜吹雪まで出しそうな勢いだ。
Oh!トーヤマノキンサン。
いかん。いかん。色々と混乱している。
戸惑う俺を尻目に、バレーは言葉を続ける。
「何のことだか分からないなら、教えてやるよ。
なんのこたぁない。
【シークレット】は、仕組みさえ分かれば
かかっているか否かに限っては、
簡単に見破ることができる魔法なんだ」
バレーは、自分の魔導機を出して俺に見せた。
どうやら、俺の気づかないうちに、
【アナライズ】されていたようだ。
「良いかい?
あたいが、あんたを疑った理由は3つだ」
そう言うと、バレーは説明を始めた。
俺を疑った第1の理由は、【アナライズ】時に、
魔法付与!! の表示がされていること、だった。
説明は、そもそも単純な疑問から出発する。
まず、①【アナライズ】には嘘は無い。
しかし②【シークレット】によっては、情報は書き換え可能だ。
これでは①と②が矛盾する。
どういうことか?
初めてガーターさんに会ったとき、
ガーターさんは【シークレット】を知っているのに、
【アナライズ】の結果を信じた。
それは、魔法付与!! 表示が無かったからだ。
あの時、俺には何も魔法が掛かっていないのだから、
当然、魔法付与!! の表示は出ていない。
魔法付与!! が表示されない場合、
そもそも【シークレット】を疑う必要は無い。
魔法自体が1つもかかっていないからだ。
おそらく、ガーターさんはこれを踏まえて、
俺の『ニューフィールド』の名字を信じた。
では、魔法付与!! が表示されれば、
【シークレット】がかけてあることが、必ずばれるのか?
それでは【シークレット】の意味が無い。
ところが、そうではないらしい。
冒険者であれば、魔法のサポートを受けることもある。
魔法付与!! が表示されても、まず、普通は気にしない。
「【シークレット】も完璧な偽装じゃない。
要は、疑う余地があるという話さ」
バレーはさらに続ける。
そもそも【シークレット】は、主にギルドでしか、
使用することを許可されていない秘密の魔法らしい。
許可を受けた大魔導師クラスと一部のギルド関係者しか知らない。
つまり、そうそう使われる魔法ではない。
「あたいも、一般人なら疑わないけどさー
相手が高ランクの冒険者や
ギルド関係者のときほど、注意が必要だね」
裏返せば、魔法付与!! が表示され、
Sランクの俺は疑うべき対象だったと言うことになる。
【シークレット】の存在を知っている者は、
当然これらの仕組みを知っているので、
これらを含め【アナライズ】に嘘は無い の命題が
成り立つらしい。
そして、第2の理由……
これは、俺のステータスに【英雄の子孫】があること、だった。
『英雄の子孫』であることを見分けるには、
名字と職業の2つの要素がある。
「でも、バンドウなんて名前の英雄は、
あたいの記憶じゃ歴代にいない」
これで【シークレット】がかかっている疑いは強くなる。
名前か職業かどちらかは確実に嘘だからだ。
「まぁ、英雄の名前に詳しいのは、
あたいだから、ってのもあるけどな」
なるほど、確かに、ここまでは筋が通っている。
あれ?でもおかしいぞ?
そう言えば、最初に見たステータスにも、
職業に【英雄の子孫】って出てなかった気がする。
俺は、バレーに疑問をぶつけてみる。
「職業は、取得条件のクリアと本人の自覚が必要なんだ。
あんた、けっこう最近、英雄の子孫を自覚したんじゃない?」
そうかもしれない……
爺さんが英雄だと確信したのは、
『光の遺跡』で魔石の【レコード】を聞いた時だ。
「そのガーターっておっさんもさー
初めにあったとき、魔法付与!! の表示が出ていれば、
信じなかったかもな」
そうか、俺の場合は、名字の証拠だけでも、
【シークレット】自体が疑われないケースだったからな。
「そして、最後に……」
と、バレーは俺を指差した。
「あんたは、あたいの【アナライズ】に気づかず、
ましてや、以上の仕組みを知って、牽制をしたそぶりが無い」
なるほど。
まぁ仕組みを知っていれば、普通は【アナライズ】を避けたり、
魔法付与!!の理由を説明するだろう。
「【アナライズ】は冒険者の基本。
トラップ回避目的の対物使用がメインだが……
手練の奴ほど、気づかれずに対人で使用する」
そういえば、アインとマリーさんでは、
初めてあったときの【アナライズ】の仕方に差があった。
マリーさんも有名なだけあるということか。
バレーは説明を終え、満足そうに腰に片手を置いた。
フーッ、と長い溜息をつき、俺の顔を見つめ直す。
「どうだい?
ここまで言われちゃ、
シラを切るわけにはいかないだろ?」
バレーの顔がだんだん険しくなる。
嘘つきを糾弾する様な、正義感に満ちた表情だ。
天然ボケで、ただのヤンキーだと思っていたバレー。
しかし、その実は、さすがにSランク冒険者だった。
【アナライズ】の技術や、頭の回転の速さ。
それらが、彼女の冒険者としての優秀さを裏付けている。
「あんたみたいな素人が、本当にSランクなのか?
ましてや、あたいと同じ『英雄の子孫』?
これが、詐欺じゃなくてなんなのさ?」
ん?
ちょっと待て、あたいと同じって?
バレーは、会話を続けながら、抱えていた布袋をスルスルとはずす。
中からは、黄金に輝く長槍が出てきた。
円錐の形に柄のついた、見るからに重量級のランス。
その辺の武器とは一線を画す、すさまじい威圧感を放っている。
「こいつは、あたいの相棒であり、
我が、ゴルド―家の家宝。
【神具】の1つ、【神槍・黄金槍】だ」
バレーは、取り出した馬鹿でかいランスを、
まるで玩具のバトンでも振り回す様にブンブンと回転させる。
余りの速さに、ランスがしなっているように見える。
凄まじい風圧が、地面の上で砂埃を巻き上げた。
ヒュン! と音を立て、ランスが動きを止める。
「さっさと、本当のことを吐いちまいな!
……と、言いたいところだが、
あんたに、チャンスをやるよ!
あたいは、やさしーからさー」
ザッ、と足を開き、バレーは、ランスを突きの姿勢に構える。
ビリヤードの玉を突くときのポーズに似ているが、
完全に戦闘目的の構えだ。スキが全く無い。
「今から、軽く決闘をしよう。
そうだなー。あんたが、万が一、
あたいに一撃でも食らわせることができれば、
隠している内容は、そのままでいいよ」
バレーは、クイッと首を傾け、
俺に武器を構えるように促し、会話を続けた。
「おまけに、あんたの実力も信頼してやるよ。
それに、一緒にクエストにも行ってやる。
あたいは、強いやつが大好きなんだ」
逆にあんたが勝ったら?
と、俺はバレーに聞いてみた。
軽口を叩いてみたものの、バレーの放つプレッシャーは、
確実に俺の緊張を引き起こした。
「そんときゃ、洗いざらい吐いてもらう。
【シークレット】で隠している内容をだ。
さすがに、そこまでは分からないからな。
その上で、あたいが納得いかなきゃ、
半殺にして海に捨てる」
あらやだ、最後の方が、ちょー物騒なんですけどー
「……俺に、拒否権は無いみたいね?」
「もう会話はいいだろ?
男なら、拳で語ろうぜ?」
いや、お互い武器だし、あんたは女だけどね?
と、心の中で突っ込んで、俺も腰からスルリと剣を抜く。
緊張で手の汗がすごい。
バレーの武器の名前、黄金槍だっけ?
なんか神具とか聞こえたし、相手はかなりの強者だ。
別の世界から来ましたーなんて、絶対信じてもらえないだろう。
負けたら、半殺し&海にダイブ決定だ。
ドラ○ン・ボールばりのバトル展開。
異世界に来て、初めての対人戦闘。
……これって結構ピンチかも?
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
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