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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
52/95

第44話-グランポートの町

6月19日、水の日。


潮風が吹き抜ける。

僅かに混じる磯の香りが、確かな海の存在を示す。

カモメか、ウミネコだろうか、

白い鳥たちが群れをなして空に舞う。

港らしい赤いレンガ造りの倉庫街。

細かく石畳の敷かれた街路時。


おそらくは貿易の拠点なのだろう。

四角い大きな木箱、酒樽、麻袋。

RPGに出てくるような、輸出入用の荷物が、

港で作業する人たちによって、運ばれていく。



俺は今、【グランポート】の町にいる。



いつもなら、この光景に俺のテンションも上がっていただろう。

しかし、そんな港町の風情も、いつもより楽しくは無い。



ライクちゃん、マリーさん、アイン。

3人と一緒ではないからだ。



あの喧嘩から3日。

今でも、彼女たちとは、冷戦状態だ。


3日かけて謝りぬいた結果、

どうにか事務的な会話をしてくれるまでには、こぎつけた。


今回のグランポート行きも、クエストであることを理由に、

結局、マリーさんが移転術を使ってくれた。


アイン、ライクちゃんも、

グランポートに行くこと自体は楽しみにしていたらしく、

旅には付いて来ることとなった。


俺を除く3人は、平常通り仲良くしている。


宿に着いても部屋割は、俺1人部屋に対し、女子は3人部屋の相室だ。

楽しそうに会話しながら、早々に部屋に入ってしまった。




……なんだこのアウェイ感。




今回は少し奮発して高級な宿をとった。

もちろんこの状況で、不満が出そうな宿を選ぶわけにはいかない。

町に着くなり奔走し、評判の宿屋を探し、すぐさま予約した。


宿は高い塔の様な作りで、窓を開けると港が一望できる。

内装も、白と青を基調に整えられ、欧州のリゾートホテルを思わせる。

滞在数にもよるが、この人数なら確実に大金貨の何枚かは消えるだろう。


俺だって、少しは頑張っている。

しかし、関係は一向に改善しない。



「まぁ……

 遊びに来たわけじゃないしな……

 情報収集とクエストを始めるか……」



部屋から出てこない3人の動向がつかめないので、

俺は、1人で宿屋を抜け出した。



標識と地図を見ながら、【グランポート】のギルド支部へと向かう。

観察と考察による情報収集はぼっちの得意技だ。

もちろん、知らない人に道を聞く勇気など無い。


クエストは、『ギルド要人の警護』だ。

ちゃっちゃと済ませて、巨大魔物の捜査をしたい。


それにはまず、おそらく警護の対象者であろう、

ギルド長を捜索しなければ。


とりあえず、こちらのギルドに行くべきだろう。


人混みを抜け、大通りを横切り、ギルドを目指す。

【グランアルプ】も大きな町だが、ここもかなり栄えている。

大きな違いは、店の種類だろうか。


【グランアルプ】は、鍛冶屋など職人の店が多く、

鉱物や加工品、食料で言えば、山で獲れる肉類の店が豊富だった。


一方、【グランポート】は港があるため、宿場町に似た栄え方だ。

宿屋や酒場が並び、珍しい輸入品をおく店舗が多い。

海が近いので、ところどころ魚屋も見かける。



「ふーん……

 ところ変わればってやつかね……」



町並みを眺めながら、ポテポテと歩いていくと、

グランポートのギルドに辿りついた。

けっこう立派だ。

地方の博物館くらいの大きさがある。



受付を通り、まずはグランポートのギルド長に会うことにする。

さすがSランク。

アポイントなしでも、ギルド長に会うことができた。


執務室の様な部屋に案内され、挨拶をして中に入る。

そこには、細身のいかにも市長といった感じの男性が立っていた。



「バトー・ミントと申します」



白髪を七三に分け、銀縁の眼鏡をかけている。

喋り方は丁寧で、服装は高級なものではないが、清潔感がある。



俺は事情を話し、うちのギルド長が来ていないか聞いてみる。

しかし、バトーさんからは、予想に反する答えが返って来た。



「グランアルプ支部のギルド長……

 ブル・ダーツさんは、こちらに立ち寄られてはいません。

 それに、査察といった話しも窺っておりませんが……」



おかしい。

俺の考えは、ハズレだったのか。



「そうですか。

 こちらに伺えば、何か情報が得られるかと思いましたが…

 ときに、グランポートでは巨大な魔物が出現するとか?」



俺は、違う方向からアプローチをかける。

こちらは新聞に載っていた情報だ。

ひょっとすると、ギルド長とも関連があるかもしれない。



「そのことですか…

 巨大魔物の噂については、

 こちらのギルドでも気にかかっているのですが……」


「噂は、やはり本当でしょうか?

 ……大規模な討伐戦に関係することですか?」



巨大魔物の情報が確かならば、

討伐戦の実施も間違いは無いだろう。



「Sランクともなると、さすがに、耳が早いですな。

 その件ですが……

 つい先ほど、各支部に、少し具体的な連絡が送られてきたところです。

 招集場所は【シャイン】という場所。

 光の島に位置する辺境の地ですな」


「……?

 グランポートで討伐戦を行うわけではないんですか?」


「巨大な魔物の噂とは、無関係と言うことでしょう。

 ギルドの本部、あるいはその上の考えていることは、

 私達の様な末端にはわかりませんな」



予想は、ことごとく裏切られた。


ギルド長の失踪と巨大な魔物は無関係。

査察でグランポートに来たのではない?


それに討伐戦。

話を聞く限り、グランポートの巨大魔物に対してではないようだ。


それなのに、うちのギルド長は『ギルド要人の警護』を俺に託した?


訳が分からない。

俺は、少しでも情報を集めようと、さらに質問をした。



「最近、グランポートで変ったことは、ありませんか?

 俺、実は『ギルド要人の警護』のクエストを受けていて……」


バトーさんは、小首を傾げ、少し考えてから話し始めた。


「ふむ……そうですか……

 変ったこと……

 そう言えば、最近、通り魔事件が発生していますね……」


「通り魔事件?」


「えぇ、それも妙なことに、ケガ人の出ない(・・・・・・・)通り魔事件です」


「ケガ人が出ない?」


「被害者は、突然、髪の長い女の様な犯人に襲われるそうなんですが……

 犯人は、なぜか手を出さないですぐに逃げるそうなんです。

 まるで、次の標的を探すかのように……

 そして、犯人が去るとき、野太い男の声で、謝罪されるそうです。

『すまねぇ……』と……」


「野太い男の声の女……?」


「えぇ……妙な話です」


「襲われる被害者に関連性は?

 ハゲ頭の中年男性に限って襲われるとか?」


「いえ、全くの無差別です。

 なにか心当たりが?」


「……いえ、なんでもありません」



通り魔事件か……

髪の長い女で、ギルド長の奥さんが頭をよぎったが、

多分俺の勘違いだろう。


無差別に人を襲うような人には見えなかったし、

そもそも、ギルド長には奥さんのヤンデレの治し方を教えたはずだ。


俺が考え込んでいると、

今度は、バトーさんから話を持ちかけてきた。



「しかし、エイジさんのようなSランク冒険者に

 お会いできたのは僥倖でした。

 ご存知の通り、ここグランポートで、

 魔物の噂が出ているのも事実。

 うちとしても、調査あるいは討伐のクエストを

 ちょうど出そうとしていたところです」



バトーさんは、自分の執務机から書類を持ち出し、

俺に渡して、さらに言葉を続けた。



「どうですかな?

 『巨大魔物の調査』のクエスト。

 お引き受け願えませんか?」



渡された書類には、受注に必要な用紙や

巨大魔物についての資料がまとめられていた。



「……そうですね。

 易々と、お引き受けすると言えませんが、

 俺も、調査を進めてみます。」



巨大魔物の調査は、最初からするつもりで来たが、

大それたことは出来ないと思っていた。

今回は、ライクちゃんたちのサポートを期待できないからだ。



「実は事情がありまして、

 仲間のサポートが得られないもので……

 今回は……」



この世界に来たばかりの、

ぼっちに慣れていた俺なら、1人でもクエストをしただろう。

しかし、今の俺は出来れば3人と一緒に行動したい。



クエストは断ります、と言いかけた時、

俺の返答を勝手に解釈したバトーさんが、話を進めた。



「なるほど。

 お仲間とは別のクエストですか。

 確かに、人手不足では大変なクエストです。

 どうでしょう?

 それならば、他のSランク冒険者の方と、

 パーティーを組まれてはいかがですかな?」



俺は、思わぬ返しに戸惑う。

えっ?

別のSランク冒険者?



「ちょうど今、とびきり優秀な冒険者の方が、

 グランポートにおいでになっている。

 この後、ギルドにお招きしようとしていたところです」



俺以外のSランク冒険者に会うのは初めてだ。

どんな奴か、少し興味がある。



「その方は、どんな方ですか?」


「竜人族の女性です。

 なんと驚くことなかれ!

 あの金竜のバレー様ですよ!」



いやいや、金竜のバレーって誰よ?

俺は所詮トカゲパンツ。

そんな格好良い通り名の冒険者は知らないよ?



無反応な俺を見て、バトーさんは少し驚いたように続けた。



「おや?

 ひょっとして御存じではありませんか?

 お名前は、バレー・ゴルドー・スパイク

 金竜のバレーと言えば、かなり有名なのですが…」


「いや、なにぶん、世間知らずなもので」


「ほほ、まぁ冒険者の方はクエストで忙しいですからな。

 世間の情報から隔離されることは、ままある。

 しかし、彼女を知らないと言うのは、かなり珍しいですな。

 なにせ、彼女は…」



そう言いかけて、バトーさんは言葉を止めた。



「そうだ。

 よろしければ、今から一緒にバレー様をお迎えに行きませんか。

 名を知らずとも、彼女の容姿は御存じかもしれない。

 それに、一緒にクエストをするパートナーですしな!」



ほほほ、とバトーさんは笑いだす。

えっ?ちょっと、なに勝手に決めてんの!?


そもそも、クエストを受けるって言ってないし!?

ギルド関係者って、人の話し聞かない人ばっかなの?



戸惑う俺を尻目に、バトーさんは出発の準備を始めてしまった。



こうして俺は、バレーという女冒険者を迎えに行くこととなった。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■

名前 エイジ・ニューフィールド 

職業

    略

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