第43話-忙しい一日の終わり
PM22:00
ヘーイ!
レディース&ジェントルメン!
今日は大切なご報告が有りマース!
ミーのジョブがランクアップしました!
そうです【紳士】デース。
これで、俺もブルジョワです!
ワ―オ!
……はい。どうもエイジです。
とうとうヘンタイの上級職です。
もう引き返せないところまで、来てしまいました。
親父、お袋。
こんな息子でごめんなさい。
爺さん。
あんたの孫は、異世界でヘンタイ紳士になったよ。
うふふ……未来はもう真っ暗です。
「なーにを ぶつくさと言っとるんじゃ?
あいかわらず ネクラじゃのう」
自己【アナライズ】の結果に打ちひしがれ、
自室にこもり、壁さんとお話していたら、
アインが声をかけてきた。
トコトコと勝手に俺の部屋に入ってくる。
……うるさい。
俺は今、壁さんとお話をしてるんだ!
壁さんはとっても聞き上手なんだ!
だまって、話を聞いてくれるんだ!
少なくとも、ライクちゃんやマリーさんみたいに、
カギをかけて面会謝絶の札を部屋に下げたり……
ドリアードのツルで、ドアを固定したりはしないんだ……
くそっ! 女はいつもコレだよ!
どうせ俺は女心がわかんねーよ!
うぉー今夜は飲むぞ!(ポーションを)
とまぁ、俺が内向的なのは、正常運転なので、
そろそろ、やさぐれるのは止めにします。
「あぁー……すまんなアイン
お前だけだよ……
俺を慰めてくれるのは……」
「うっ、なんじゃ。
きもちわるいのー。
いつまでも、ウジウジしたってはじまらんじゃろ?」
「そーだよなー
仲直りしないとなー」
アインは俺の部屋のベッドに腰掛け、俺と並んで座っている。
横に並ぶと、アインは本当に子供にしか見えない。
横に並ばないと?
……うん、やっぱり子供にしか見えない。
この世界でもドワーフ族は毛深いのか、
アインの銀色のロール髪は、いつもふわふわしている。
光に透ける銀色の糸みたいだ。
「問題は、その方法なんだよなー
俺、素直に移転術はすごいと思ったんだけどなー」
「まぁ、おぬしは ひねくれとる からのー
確かに、あれは、みごとじゃった」
「なー。
俺にはあんな芸当できないよ」
俺は素直に感想を述べる。
なんだか、アイン相手だと気楽に話せる。
見かけは子供。頭脳はババアだし。
なんだかんだで、しっかりしてんだよなー。
そんなことを考えながら、
ぼーっと、アインを眺めていると、
アインが不思議なことを言いだした。
「うん? 『ろん』げんてい じゃが
おぬしも移転術できるじゃろ?
【獣使い】のジョブがあったじゃろ?」
えっ?まじで?
なにそれ、初耳。
賢い読者の皆様は覚えておいでだろう。
『ろん』とは、ラジフォレスの町で、懐いてきたモンスター
ロンリ―・ウルフの『ろん』である。
「【獣使い】は、なかまにした まものを
移転できるのじゃ。
ちなみに、おぬしが けいけんち を得れば、
その まもの も そだっていく」
「えっ!本当かよ!?
すごいなー」
「ためしに よんでみるかの?」
『ろん』は今、アルバトロス家に預けてあるのだ。
うそじゃない。
『ろん』の描写が出てくるのは、31話が最後だ。
大丈夫だ。作者もそこまでバカじゃない。多分。
『ろん』を預けたのは、
【炎の神殿】の攻略には連れて行けなかったし、
ガーターさんの許可も得ず【グランアルプ】まで
連れてくるのは気が引けたからだ。
幸い、アインの家は馬鹿でかいから、
『ろん』を預けて置くには都合が良かった。
「……うーん。
いまはやめとくよ」
「……そうか」
『ろん』に会いたくないわけではない。
というか、むしろ会って癒されたい。
が、今はモンスターよりもライクちゃんとマリーさんをどうにかせねば。
「プレゼント大作戦2かなぁ……」
そう。
ぼっちで女の子の気持ちが分からない俺には、
プレゼントで謝罪の意を示すくらいしか思いつかない。
もうこの手は、ライクちゃんには一度使った。
女性からすれば、俺の行動は最低に見えるのだろうか?
別に、女性が物でつれるとか、失礼なことは思ってない。
高校生の俺には、大人の付き合いがわからないのだ。
「アインはどう思う?」
忘れていたが、隣にいるのは大人の女性だった。
参考意見を聞いてみる。
「まぁ、物でつるというのは けしからん。
じゃが、男から あやまろうとする姿勢は
きゅうだいてん じゃ。
ようは あいてのことを どこまで 思いやるかじゃな」
なにそれ深けぇー。
初期のドラクエみたいな、ひらがな喋りのくせして、
OLの先輩みたいなこと言いだした。
「そっかー。
でも、俺『思い出のペンダント』で失敗してるからなー」
「思い出のペンダントとな?
ふむ、くわしく きかせるのじゃ!」
アインが興味津津で尋ねる。
さすが女子。
この手の話は、必要以上の食い付きである。
俺はトラウマ2号であるエピソードをアインに話した。
「なるほどのー
おぬし ほんとうにバカじゃの―
あのペンダントの効果を しっとるのか?」
「えっ?知らない。
普通の記念品ペンダントじゃないのか?」
「あれはのー
にぎりしめ、目をとじると、送り主の顔が うかぶ、
まー 恋人どうしのアイテムじゃなー」
「うわっ!本当かよ!
俺、ほぼ初対面でそんなものあげてたのかー
そりゃ、断るよなー」
「でも、今は してくれとるんじゃろ?」
「いや、そうだけどー
もう持ってるって言ってたしなー
昔のをしているだけかも。
ライクちゃんも彼氏からもらったのかなー」
「……まぁ
こじんのプライベート じゃからな……
わしは なんとも言えん」
「そっか……」
「ライクはうらやましいのー…」
アインは足をパタパタさせて話を聞いていたが、
話を終えると、ポムンとそのままベットに倒れ込んだ。
最後に何かつぶやいた様だが、声が小さくて聞こえなかった。
これ以上、不毛な会話に付き合う気が無いのか、
アインは俺に背を向けるように寝ている向きを変え、
関係の無い話題に変えてきた。
「のう……エイジよ
加工と言えば、【天空剣】はどうじゃった?」
「あーそう言えば、
錆びたままでは性能の半分とか言われてたな
磨いた分だけ、攻撃力が上がってんのかなー」
「なんなら…
わしが ギルドのそくてい に
つきあって やってもいいぞ……?」
「本当か?
さっすがアインは違うな!
よし!じゃあ明日、4人で遊びに行こう!
2人の機嫌直すの手伝ってくれよ!」
「……」
「あれ、アインどうした?」
「もうしらん!あほめ!
わしはもう寝る!」
アインは、急に怒って部屋を出て言ってしまった。
バタン! と部屋のドアが勢いよく閉められ、
後には、静寂だけが残った。
あれ? 俺、何か悪いことでも言ったか?
なんだか今日はくたびれた。
もうすぐ、忙しい一日が終わる。
「結局、今日は3人とも喧嘩しちゃたな……」
俺は、窓の外を眺める。
また小雨が降って来たみたいだ。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
名前 エイジ・ニューフィールド
職業
略
■■■■■■■■■■■■■■■■■■




