第42話-勝負の鉄則!
PM13:30
空は曇天。
ブルックリン家の菜園の近く。
緑の葉が雨にぬれ、雫を止めている。
地面は芝生の様な草が植えてあるため、ぬかるむことは無い。
所々にある土の地面には、僅かに水たまりも見える。
「はい!
それでは今から移転術を行います!
エイジさんは、特にしっかり見ておいくように!」
「…はい」
「声が小さいですよ?」
「はい!さーせんっしたぁ!」
銭湯で牛乳を飲むような格好で、腰に手を置き、
すすめ! のポーズで指を指すマリーさん。
マンガなら、ビシッ! という効果音が聞こえてきそうである。
俺はなぜ、こんな野球部の一コマみたいな状況に置かれたのだろう。
皆を引き連れ、外に出たマリーさんは、菜園の方へと移動した。
どうやらここで、移転術を見せてくれるようだ。
「さて、簡単におさらいしますが、
移転は召喚とは異なり、
精霊を呼び出すことは出来ません。
その代り、召喚に必要な精霊との契約や、召喚の円盤は不要です」
うん。これは知ってる。
確か、ラジフォレスで聞いたな。
「また、召喚は、精霊を召喚士の近く、
あるいは一番ゆかりがある場所しか召喚できません。
しかし、移転ならば、比較的場所を選ばずに移動させることができます」
うんうん。この情報はアインの家あたりか。
「では、実際に移転術をお見せします。
ライクさん、少し離れたところに移動してくださいますか?」
「えっ!?う…うん。
マリーさん、この辺でいいかな?」
言われるままにライクちゃんは移動する。
まるで、手品師に従うゲストの様だ。
「はい。ありがとうございます。
では、両手を前に出しておいてください」
およそ5メートルくらいの間隔を開け、
ライクちゃんとマリーさんが向い合せに立った。
さて、何がはじまるんだ?
「まずは、離れた物をこちらに呼び出す移転です!」
マリーさんはそう言うと、短めの呪文を唱えた。
俺が聞いて翻訳されないところをみると、
別の言語か、音自体に意味がある言葉だろう。
呪文が終わると、パァアと淡い光が現れる。
一瞬、ライクちゃんの手の上に、
時空の穴みたいなものが現れたかと思うと、
先ほど、俺が部屋でぎゅうぎゅうと荷物を詰めていた袋が、
その穴から降って来た。
「わっ!すごいすごい!」
「ほー!たいしたもんじゃの!
移転のポイントが こまかいほど むずかしいと言うのに、
手のうえにおとすとは!
さっすが、高名な召喚士さまじゃの!」
2人とも、感嘆の声をあげ、パチパチと拍手をする。
たっ、確かにこれは便利だな。
「物体の大きさや距離に比例して、
魔法力を消費してしまうので、
今は、大したものは移転しませんが」
マリーさんは頭を押さえながら、照れ笑いをする。
あんなに自信満々だったのに、褒められると照れるなんて、
なんだか微笑ましい。
「さっ、どうです?
わたくしの移転術は?」
褒めてもいいのよ? とばかりに、
今度は俺に視線を投げかけ、感想を求めてきた。
ふふんと自慢げに胸を張り、威張って見せているが、
ボールを咥えて来た犬の様に、キラキラと褒めてオーラを出している。
ちくしょう、ちょっと可愛い。
「まっ、まあまあかな…?」
素直に褒めるのは、少し癪なので、
あえて、意地悪をしてみる。
マリーさんは、むぅ、と少しふくれる。
柔らかそうなほっぺが、リスのほお袋のようだ。
「……あーそうですか!
ライクさん!
その袋が、確かにエイジさんの物であるという証拠に、
中身を開けて下さいます?」
マリーさんは、ふん! と顔を背け、ライクちゃんに指示を出す。
なんだ?どうした?
おっけーとライクちゃんが袋をあける。
アインも、どれどれとばかりに、覗き込んだ。
そして、無言になる2人……
「……」
「……たしかにエイジのじゃな?」
「……そうですね」
「ぎっちり、パンツしか入っとらんの?」
「どれだけパンツが好きなの?」
「うふふ。
本当はエイジさんのベッドの下の本を
移転しようと思ったのですが、
無かったので、それにしました。」
マリーさんは、天使の頬笑み。
まさにこの顔である。
誤解の無いよう言っとくけど、全部俺のパンツだからね?
いやいや、俺のコレクションとか言う意味じゃなくよ?
俺の使ってる男モノって意味だからね?
……だって旅支度してたんだから、最低限下着は持つでしょうが!!
汚ねぇよ!マリーさん。
汚ねぇ!
いや、俺のパンツがじゃなくて!
やることが汚いよ!
確信犯なところに、マリーさんの悪意を感じる。
この人と喧嘩をするのは得じゃないかもしれない……
「……マリーさん
ちょっと、卑怯じゃないですかねぇ」
「あら、なんのことですか?
わたくしは、部屋にあった手頃な袋を
移転しただけですよ?」
「……」
俺とマリーさんは互いに笑みを浮かべたまま、
無言で火花を飛ばし合う。
そう、2人ともヘンタイ職。
しかも、相手は上級職なのだ。
これは、勝てない勝負かもしれない。
しかし、ここで引くわけにはいかない。
逃げちゃだめだ!
逃げちゃだめだ!
「では、お次はこちらの物を、
離れた場所に移転する術をします!
……そのまえに、エイジさん
何かおっしゃることは、ありません?」
マリーさんは、最後通告よ? とばかりに、
脅しをかけてくる。
「いいえー!
はやく、そのお粗末な移転術を
見せていただきましょーかねー!」
相手に刺激され、ついつい俺も嫌みを言ってしまった。
やばっ、嫌な予感がする。
「あーそうですか!
わたくし、とっても残念です!」
マリーさんはそう言い放つと、
つかつかとライクちゃんの方に歩み寄った。
そして、ライクちゃんの肩に手を置き……
「では、移転術!
ごらんあそばせ!」
そう言い放つと、先ほどと同じ現象がおこり、時空の穴が現れた。
ただ、異なるのは、ライクちゃんに変化が無く、
穴からは何も降ってこないこと。
……あれ?でも頭にぬくもりを感じる。
俺、帽子かぶってたっけ?
「わたくしの技術を持ってすれば、
こーんなことすら可能なのです!」
誇らしげにするマリーさん。
それと対照的に、ライクちゃんの顔は見る見る青ざめていく。
そして、切符やカギを無くしたみたいに、
えっ?えっ?と言いながら、
スカートを手で、パタパタとはたき始める。
アインは、何かに気がついたのか、
うつむいて笑いを必死にこらえている。
「ぷっ!ぷははははは!
もぅ…だめじゃー!
エイジ!おぬしあたまをみるのじゃ!」
「えっ!?
な…なんだよ!」
と、俺が頭を触ると、柔らかい布の肌触りが……
まっ!まさか!
「エイジ君!さいてー!」
顔を真っ赤にしながら、家の方に走り出すライクちゃん。
「まっ!まって!
それは私のおいなりさん……
じゃなくて!
誤解だ!これはマリーさんの仕業じゃん!!」
「トカゲパンツの冒険者さんにはお似合いです。
今朝だって、済んだことをねちねちと!
わたくしだって、ストレスを感じます!」
そう、俺が頭に移転されたのは、ライクちゃんのパンツ。
どうやら、マリーさんは、移転術をバカにされたと思ったことに加え、
今朝、からかったことも根に持っていたらしい。
勝負は相手を選んでした方がいい。
俺は、ライクちゃんを追いかけながら、全力で後悔した。
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名前 エイジ・ニューフィールド
職業 【英雄の子孫】【冒険者】
【くされげどう】【紳士 RANK UP! 】
【拳闘士】【獣使い】
装備
略
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名前 マリーシア・スローウィン
職業
略
装備
略
強さ
友好度 72 ⇒ 56 ←DOWN!
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名前 ライク・ブルックリン
職業
略
装備
略
強さ
友好度 93 ⇒ 20 ←DOWN!
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表現の一部変更。
キャラクターの喋り方等。




