第41話-1名様ご案内
PM12:30
「せんせい!
ゆでたまごはおやつにはいりますか!?」
「……エイジ君
誰と話してるの……?」
「……エイジの独り言は、もはや異常じゃな」
……だって、偽名がわかってから、
なんか、ゆで卵が食べたいんだもん。
ここは、俺の部屋。
板張りの床に、適当に敷いた布。
辺りには、装備やら保存食やらが散乱している。
そんな、むさ苦しい男の部屋に、女の子が三人座っている。
俺はベッド上で、あぐらをかき……
……というよりは、単に端に追いやられていた。
なにをしてるのかって?
そうだな、俺たちは今、旅支度をしている。
次のクエストが【グランポート】であることが分かると、
皆の話題は、旅のことで持ちきりとなった。
ただ、巨大魔物のことは皆には話していない。
未公開情報だし、不安を下手にあおりたくは無いからだ。
なにより、魔物のことを話すと、
討伐戦のことや『英雄の子孫』のこと、
果ては偽名のことにまで話が飛び火しかねない。
これについては、できるだけ放置しておきたい。
……理由は、偽名が嫌だからだ。
異世界の人たちには分からないだろうが、
「癒しのトカゲパンツことエイジ・バンドウ」では名乗るのが恥ずかしすぎる。
ましてや職業【ヘンタイ】である。
…日本人の俺には、あのおじさんが、
怪しげなブーメランパンツを履いている姿しか想像できない。
……名乗っただけで、警察(騎士団)の世話になりかねない。
異世界ふしぎ発見。
「グランポートかー
あたしは初めてだなー
マリーさんとアインさんはー?」
「わたくしは、2回ほど」
「わしは、バディじいと、
魔導機のしゅっかと 鉱物のかいつけに
よく いったのー」
どうやら俺とライクちゃん以外は、初めての場所ではないらしい。
俺は知らなかったわけだが、【グランポート】は、
【グランアルプ】とは、別の国にあるということだ。
剣の修理に行ったときは、観光旅行程度だったが、
今回は、国境を超える旅だ。
そりゃ、準備も入念にせねば。
というわけで、昼食後、作業に取り掛かったのだ。
「でもさぁー
なんか、エイジ君ごきげんだねっ?
鼻歌まで歌ってるし」
装備を選びながら、ライクちゃんが声をかける。
色々な服を身体にあてては、次のものへと取り替えている。
当日、着ていくものを選んでいるようだ。
「まぁーねー」
おっと、つい鼻歌がでてたか。
そりゃあ、旅支度は楽しいものだが、
俺が浮かれている理由は他にある。
「自分から旅支度をすると言いだしたのも
めんどうくさがり の エイジにしては めずらしいのー」
アインは特に準備をするでもなく、
部屋中に散乱した俺の荷物を弄っている。
ときおり、退屈そうにあくびをする。
「そうかー?
アインもちゃんと準備しとけよ?
なんせ、グランポートは海だからなー」
俺は、ぎゅうぎゅうに荷物を押し込みながら、返事をする。
そう、グランポートは海。
そして、今は6月。
加えて、目的地までは長旅だ。
お気づきだろうか?
ついに、水着回の登場である。
女の子三人とビーチでバカンス。
気分はもう、ワクワクさんだ。
ゴロリはいらん。ポロリをよこせ!
えっ?
小説で水着回は意味ないって?
ばかやろう!
青3号も言っている。
考えるな、感じるんだ!
と1人で、盛り上がっていると、マリーさんが話しかけてきた。
「でも、エイジさん
よほどグランポートに興味がお有りの様ですね
こんなに早く仕度なさるなんて
クエスト以外にも、何か用事があるのですか?」
マリーさんは、体育座りの様な格好で、
膝に本を乗せ読んでいる。
なんだかさっきから、俺以外、長旅の仕度をしているようには見えない。
「んー別に用事は無いですけど
グランポートまでの道のりは長いでしょ?
なるべく早く出た方がいいんじゃないですか?」
水着のため、とストレートには言えない。
それがエイジくおりてぃ。
【ドアフィリア】までだって、結構な時間がかかった。
どうせならビーチには、ジャストのタイミングで行きたい。
元の世界と違って、車や電車と言った交通機関が無いのだ。
「えっ!?
まさかエイジ君、マリーさんにお願いしないの?
移転術使わないと、2、3カ月かかっちゃうよ?」
ライクちゃんが会話に驚き、振り返る。
ん? 移転術?
「移転術は、物や人を別の場所に移動する術です。
わたくしも、御婆様に手紙を送るときや、
遠出をするときには使います。
まぁ……魔法力を消費しますし、それなりに準備が要りますから、
とっさの場合や、頻繁に行うことは出来ませんが」
マリーさんが本から顔を上げ、簡単に説明してくれる。
「クエストで出かけるのですし、
エイジさんもお急ぎみたいですから
わたくしは、てっきり移転術で移動するのかと……」
ん? ということは……?
「……向こうには、今月中にも着くってことですか?」
「えぇ、というか、行こうと思えば、今日中にでも……」
「…………」
……ちくしょー!
梅雨に海行って、何が楽しいんだよ。
また期待を裏切られたよ!
ギブミー水着!
ギブミーBOIN!
と、心の血涙を流していると、
思わぬところから助け舟が出された。
「あっ、でもねっ!
あたし、移転術ってかけて貰ったことが無くて
ちょっとこわいなー
なんてっ!」
おっ、ナイスだ!ライクちゃん!
夏を取り戻せ! YOU は SHOCK!
「そうですよー
マリーさんがドジって、岩の中に移転とか
そういうデスワープにはならないんですか?
向こうには、夏ごろに着けばいいですから」
急がなくても、と言いたかったのだが、
ニュアンスは別の方向で伝わってしまったようだ。
「あら? エイジさん。
ひょっとして、わたくしの腕を
疑っていらっしゃるんですか?
召喚士としては、移転術をバカにされて
黙ってはいられませんよ?」
マリーさんがジト目で、俺を見つめる。
「えっ!いや!
そんなことないです!
ただ、マリーさんて、いい意味でマイペースっていうか……
ちょっと、おっちょこちょいな面があるっていうか……」
そこが可愛いとこなんですけど、と
続けようとしたが、女子2人に会話が遮られる。
「それは、エイジ君に言われたくないねー」
「もっともじゃな!」
あっ、こらまて。
褒めたつもりが、ねじれ伝わった。
コミュ二ケーションブレイクダンス。
バサッと本を置き、勢いよくマリーさんが立ちあがる。
「いいですわ。
そこまでおっしゃるなら、
エイジさんに移転術を実演して差し上げます。
ちょうど、雨も上がりましたし、
ちょっと、お庭に出ましょうか?」
あれ、なんだか、話が変な方向になってきた?
というか、何で、ちょっと体育館裏ご招待みたいになってんの?
マリーさんが笑顔なのが逆に怖い。
女性に関わりの無いぼっちは、
このように往々にして地雷を踏むものである。
こうして俺は、午後のサモンレッスン!変態女教師編という
旅館の有料チャンネルの様な目に合うことになった。
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名前 エイジ・ニューフィールド
略
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誤字訂正
「AM12:30」×
「PM12:30」○
誤字訂正
[病気の域]×
「いじょう」○
脱字訂正
「体育館」×
「体育館裏」○




