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異世界クエスト  作者: 太郎
異世界クエスト中
46/95

第38話-風邪

「へっくしっ! 」


「なんスか、トカゲパンツさん。

 風邪でも引いたッスか? 」


「いや、大丈夫だと思うんですけどね」


「じゃあ、誰かに噂されてるんスかね。

 あっ、親方が、これも運んどいてくれ、だそうッス」


「へーい……了解です」



6月15日、雨。


俺たちが【ドワフィア】から【グランアルプ】に帰ってから、

数週間が経った。

どうやら、この異世界にも梅雨があるらしい。

最近は、雨ばかりが続いている。


長雨というのは、嫌なものだ。

室内は、湿気を吸って、とても居心地が悪い。


それでも風通しの良い場所ならば、少しはマシだ。

やはりこの時期、一番最悪なのは、倉庫の様な場所だろう。


特に石造りの倉庫なんかは、湿気が籠りやすく、

天井に水滴がたまってしまう。

こうなると、カビや雑菌が繁殖するにはもってこいだ。


ジメジメ、ぬるぬる。

カビ臭い匂いが、ツーンと鼻に抜ける。


誰だって、こんな時期、そんな場所には居たくないだろう。

そう……

居たくないのに……






……俺は今、その最悪な倉庫で、

荷出し作業を手伝っている。



「うわぁ……親方、ここにもカビが……」


「またか、今年は例年より湿気がすごいな」



俺が居るのは、グランアルプの鍛冶屋の倉庫だ。

『倉庫の片づけ』

Eランクのクエストだ。


チート剣の修理の一件で世話になったので、

鍛冶屋に報告を兼ね仕事(クエスト)に来たのだ。

親方も、初めは俺がアイン知り合いであると知って驚いたようだった。

しかし、そのことで俺を特別扱いすることも無く、

素直に剣の修復を喜んでくれた。

やはり無骨だが、親方は良い人だった。


もっとも、親方には、

チート剣が【天空剣】であるということまでは話していない。

話すべき情報ではないし、話してもメリットは無いからだ。


その他にも、話してはいけない部分は、色々と伏せて話をしている。

世間話程度の報告だから不自然ではないが、

それでも腑に落ちないところはあるだろう。

まぁ、仕方がない。



そうだ。腑に落ちないと言えば、

俺にもひとつ腑に落ちないことがあった。


どうも、俺たちが旅に出た後、

ギルド長が、謎の失踪をしたらしい。

しかも、嫌がらせみたいな依頼(クエスト)を、

俺に押しつけるメモを残してだ。


実は、俺が倉庫で荷出し作業をしているのも、

その嫌がらせ(クエスト)のせいだったりする。

本来なら俺は、今年はもう働かなくても良いはずなのに。


まぁ、親方とも親しくなったし、手伝うのは悪い気はしない。

しないんだが、どうも腑に落ちない。






……あのハゲ、

人がせっかくヤンデレから解放してやったのに、

嫌がらせしやがって。


えっ? 腑に落ちないのは失踪の原因じゃないよ。

あんなハゲがどこに行こうと関係は無い。

やーい、ハゲやろう。もっとハゲろ。



「なんか、本当に大丈夫っすか? トカゲパンツさん」



と、俺がぶつくさ文句をつぶやいていると、

鍛冶屋の従業員が声をかけてきた。

どうやら、俺の負の感情が態度に出てしまった様だ。


まずい。

ここは高校生らしい健全な精神を示さねば。



「大丈夫ですよ、

 俺の精神(スピリッツ)は至って健全(オールグリーン)です」


「えっ、やだこわい。

 急に精神(スピリッツ)とか、何言ってんッスか? 」



間違えた。

これじゃ中学2年生だ。



「そうじゃなくて、

 さっきからフラフラじゃないッスか。

 どこか具合悪いんじゃないッスか?」



どうやら、従業員の心配は俺の体調の方みたいだ。


そういえば、どうも今日は体の調子が悪い。

あのハゲのことを考えたためか、

頭に血が上ったようにフラフラする。

ていうか、なんか吐き気もするし……



「いやぁ……大丈夫……ですよ。

 だいじょう……ぶ……あれ?……」



と喋っている間に、意識が遠のく。

あれ、なんか……地面が近い……



「……大丈夫ッスか! トカゲパンツさん!!

 親方ぁ! 親方ぁ! 

 トカゲさん ぶっ倒れました!! 」


「…… …… ……」


「…… ……」


「……」





……目が覚めると、部屋の天井が見えた。

どうやら、俺の意識が無いうちに、鍛冶屋から移動したらしい。

俺は、ぼんやりした頭で口を動かす。



「……知らない……天井だ」


「あほう、ここは おぬしの へやじゃ

 それとも こんらん しておるのか? 」



俺がつぶやくと、アインが冷静な突っ込みを入れた。

……いいじゃない。言いたかったんだもの。



「……いや、冗談だ。

 自分の部屋だと分かっているよ」



ベッドに寝転ぶ俺を、

ライクちゃんとアインが心配そうに覗き込む。

ネタが分からない二人には、

混乱していると勘違いさせてしまったようだ。


……どうやら、俺はあの時、鍛冶屋で倒れてしまったらしい。

まだ体が重い。熱も出ているみたいだ。

意識も霞がかかったように朦朧としている。



「あぁ……俺……」


「喋らないでも大丈夫。

 エイジ君、鍛冶屋で倒れちゃったんだよ。

 みんなが運んで来てくれたんだけど、

 びっくりしたよ! 」



息苦しそうな俺の言葉を遮り、ライクちゃんが話しかける。

……そうか、鍛冶屋の人たちに迷惑かけちゃったな。

頭は回らないが、漠然とそんなことを思う。



「マリーさんもいるよ」



横を向くと、マリーさんが自分のアイテム袋をいじっている。



「あら、エイジさん。お目覚めですか。

 すぐに、良くしてあげますからね」



どうやら、薬を探してくれているようだ。



「……すみませんね。

 ……多分、風邪だと思います」



喋るのも辛いが、この症状には覚えがある。

ぶっ倒れるほどのものはめったにないが、

おそらくは「風邪」だろう。

どうやら、旅の疲れ+嫌がらせ+倉庫の湿気のコンボで、

発病したようだ。

風邪薬を出してもらえば、どうにかなるだろう。



「……すみません、後で薬飲みますんで、今は寝かせてください」



熱のせいで、意識が薄れている。

自分の部屋で、皆が看病してくれているという安心感からか、

まぶたが重くなる。

こうして話しているのも限界だ。

悪いが、ここは寝かせてもらおう。



「あっ、ちょっとエイジさん。

 【かぜ】とは!? 

 それはどんな状態異常(・・・・)なのですか? 」



……あれ、なんか今、

マリーさんものすごい不安な事を言わなかった?

あっ、でもダメだ……

意識が薄れ……て……

ねむ……い……










……そして、ここからが悪夢の始まりであった。

エイジのベットを取り囲み、

白衣の天使たちが話し合いを始める。



「……困りましたね。

 エイジさん、また寝てしまいました」


「マリーよ。なにが こまるのじゃ? 」


「わたくし、【かぜ】なんて、状態異常は知らないんですの」


「えぇ!? それじゃ エイジ君は治らないの? 」


「……いいえ、ライクさん。

 単に、わたくしが聞いたことがない状態異常だけかもしれません」


「では、いったいどうするのじゃ? 」


「こういうときは、

 アイテムを1つずつ試すのが、冒険者の定石だよね? 」


「そうですわね。

 ……まぁ、悩んでいても始まりません。

 わたくしの持っている回復系アイテムを片っ端から試しましょう」


「……そうだね。 

 エイジ君、辛そうだもん! はやく治してあげなくちゃ! 」


「うむ。 それでは マリー。

 さいしょは なにをためすのじゃ? 」



悪夢が起こったのは、誰のせいでもない。

強いて言うなら、彼女たちが優しすぎたこと。

この異世界には「状態異常」という概念しかなかったことが原因なのだ。


白衣の天使たちは、アイテム袋をひっくり返しベットの上にアイテムを広げた。



「まずは……【うちでのこずち】ですね」


「……これって、こずち(ハンマー)だよね」


こずち(ハンマー)じゃの」


こずち(ハンマー)ですね」


「……状態異常者を殴っていいのかの? 」


「……」


「まぁ、アイテムですからね」



バコッ!!







「……血が出ましたね」


「血がでたの」


「血ですね」


「それは ほんらい、なにを なおす アイテムなのじゃ? 」


「【小人化】を治すアイテムらしいです」


「……」






「……次、行きましょうか」


「……そうじゃの」


「次は、【きんのはり】です」







「……さすのかの? 」


「刺しますね」


「刺してみるね」



ズブ!!







「……血が出ましたね」


「血がでたの」


「血ですね」


「それは ほんらい、なにを なおす アイテムなのじゃ? 」


「【石化】を治すアイテムらしいです」


「……」






「……さっきから、血しかでとらんの」


「……」






「……次、行きましょうか」


「ちょっと待って!

 次は、血の出ない方法で行こうよ! 」


「むむっ! そうじゃな!

 それに じぜんに こうかを かくにん したほうが よいの! 」


「そっ……そうですねっ!

 それでは、これなどいかがでしょう!

 【沈黙】を直す【やまびこ草】です」


「うむ! これはききそうじゃな! 」


「そうですよね!

 それでは、さっそく! 」



モグっ!





「……なんだか ふるえておるの」


「あたし、これ知ってるよ。

 震えてるんじゃなくて、ケイレンっていうんじゃ……」


「……次、行きましょうか」


「ちょっと、マリーさん!

 これ悪化してるよ!

 放置は危険すぎるよ! 」





「大丈夫ですよ。ライクさん。

 次は……あっ……!! 」


「どうしたのマリーさん」


「……次は、【乙女のキッス】ですね」


「まさか、それは……」


「えぇ、乙女が口移し(・・・)で飲ませることにより、

【トード】を直す薬ですね」


「……」


「……」


「……」






「そっ、それでは、僭越ながら、わたくしが……」


「ちょ、ちょっとマリーさん!

 マリーさんはエルフだから、人間より高齢でしょ!

 ここは、現役の乙女のあたしがやるよっ! 」


「ぬっ! 待つのじゃライクよ!

 みための わかさなら、わしが いちばんじゃ!

 ここは ひとつ わしに まかせるのじゃ! 」


「ちょっと!

 そんなに暴れると危険ですよ!

 あぁ…! 

 エイジさんの上に!!

 片づけておいた【うちでのこずち】と【きんのはり】が!! 」



ドカッ!バキ!ドコォン!



~~~~~~~~~~~~~~~~

じしゅきせい。みせられないよっ!

~~~~~~~~~~~~~~~~



「……」


「……」


「……」


「……これはもう、手遅れかもしれませんね」


「わーっ! エイジ君!

 死んじゃやだよぉ! 」






好意がかえって悲劇を生む。

ラブコメ的展開ののちに、エイジはこう語ったという。

あのとき、もう少しで爺さんに会えそうだった、と。



ちなみに、エイジ君は、

レエンさんが飲ませた【ポーション】で治りました。


ポーションさんパネェ!!




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名前 エイジ・ニューフィールド (死亡?2回目) ←NEW!

職業 【英雄の子孫】【冒険者】

   【くされげどう】【ヘンタイ 】

   【拳闘士】【獣使い】

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