下-再会を願って
「まったく。
ダンク……
……じゃねぇ、ノーレッジ様は
どこに行っちまったんだかねぇ……」
「祠」に最後の石を積み、男が言う。
「ネット、本当に心当たりは無ぇのか?」
別の男が問う。
「あたしだって、知らないわよ。
あんたたちだって……
授名式のとき、突然消えたのを見たでしょ?」
ネットと呼ばれた女が否定する。
「英雄」が授名式の会場で謎の消失をしてから10年が経った。
……世間は冷たい。
最初のうちは世界規模で懸命な捜索がなされた。
だが、10年も経つと死亡ということで片づけようとする。
「まったく。
……お前の墓なんか、俺たちに作らせんじゃねぇよ……」
ガッ……
男が「祠」を蹴りながら言う。
ぽろぽろと欠けた石がこぼれる。
……もともと少なかった「英雄」の財産はすべて「祠」の中に入れられた。
売れそうなものは全て換価された。
装備の中には手入れが必要なものも多い。
そのまま残しては置けないからだ。
唯一残ったのは、冒険で愛用したランタンと皮の鎧。
ランタンは、魔石技術の急激な発展で、今ではガラクタ同然。
使い込まれた皮の鎧も売れ残った。
そして、英雄の愛剣【天空剣】……
「もともと、『光の神殿』に在ったもんだ。
ここに置くので、相違はねぇな?」
男が仲間に確認する。
全員が頷く。
「……じゃあ、ネット、最後のやつ頼む」
ネットと呼ばれた女が「祠」に魔法を【ダンジョン化】の魔法をかけた。
「これで、いいわよ」
女が言う。
男は「祠」に最後のパーツを置いて言った。
「こんなところで、使うとは思わなかったよ」
いつの日だったか、魔王に挑むために記録した遺言。
【レコード】の魔法がかかった魔石を「祠」の上にはめ込む。
「ダンク……はやく戻って来い。
じゃないと、お前の格好悪いところ……
どんどん広まるぜ……」
それから40年……
「うぅ寒ぃ……」
ぶつくさ言いながら祖父の鎧を着るひとりの少年が居た。